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【お通夜旅】留萌本線 留萌ー増毛編



行くにあたって

行った日:2016年11月29日(+前泊後泊)(当時大学4回生)
当該区間廃止日:2016年12月5日

 増毛駅。毛が増えるとの字面のインパクトが大きいその駅名にあやかる人が後を絶えない。当時の私はそういう事情の駅があるという程度の事前情報だけを持っていた。そんなこの駅を含む区間が廃止になるということは、その手のお悩みを抱える人々にとっても大きなインパクトがあった。私は願掛けするほど「足りない」訳ではないが、そんな面白い駅、廃止前に行かない訳にはいかない。私は大丈夫でも、周りには不安がっている先輩同期後輩に親先生。何人もの頭、否、顔が浮かぶ。
 体育会系の部活に所属しており、休みなんてほとんどなかった学生時代。なんとか見つけた二日間の隙間。気づいた時には既に関空→新千歳の始発のpeach便を予約していた。しかしながら、家からではこの始発には間に合ったとしても相当ギリギリであった。兼部していたサークルにおいて、飛行機に乗り遅れた先輩があまりにも有名だったため、乗り遅れは何としても避けたかった。旅慣れたサークルのメンバーに色々相談した結果、関空に前泊することになった。ラウンジ等は行かず、インバウンドの方々に混じってその辺の椅子で寝た。今思うと年頃の女性が一人旅でするべき行動ではない。

補足:この前泊した日は当該サークルも出展していた学園祭の最終日であった。割安の特企券(家から行くより安くなる)が使えるのもあったので、日中は学祭に参加、片付けと夕食(軽い打ち上げ)を終えて「ちょっと今から北海道行ってくる」と言って出発したのであった。

1日目・初めての飛行機

 旅立ちの朝がやってきた。思ったよりは眠れたかと思う。ちなみに、なんとなく察して頂けるとは思うが、飛行機は全く持って初めてであった。ドキドキしながら通過する保安検査場。充電スポットがあったので、携帯の充電を済ませる。いざ機内に乗り込みテイクオフ。あっ、狭っ、ちょっと座席下の荷物から、あっ、なんかへんなところが攣ったような……。テイクオフまだかな、まだ? 焦らされる。なるほど、飛行機はこういうものなんだな、と思った矢先に、強烈なGがかかり、矢継ぎ早に浮遊感が私を襲う。ただでさえ初めての飛行機、戦々恐々で乗っている上に、元々乗り物酔いに定評があるので一瞬で酔った。早々に意識をとばすことにした。やっぱり寝不足だった。

初めて降り立つ北の大地

 9時過ぎに、ふらふらしながらも新千歳空港に降り立つ。某チョコレート屋さんのロゴなどを見て、北海道についたことを実感する。駅へ向かうと、当時北海道日本ハムファイターズ在籍の大谷翔平選手のパネルがあった。
 札幌駅に向かった後、ホテルに荷物を預け身軽になる。改めて札幌駅みどりの窓口へ。学割よりも安く行くことができると、サークルの後輩に紹介された「自由席往復割引きっぷ(Sきっぷ)」の札幌~留萌と、留萌~増毛の往復乗車券を購入しようとした。その内容を、窓口のお姉さんに告げると、マルス(切符を発券する機械)とは別の画面か紙を見やり、何かを確認していた。それは一瞬のことで、お姉さんはすぐに発券に移る。よく出るのかまでは分からないが、あっという間に発券された。初めての下の欄(1- )の切符にテンションが上がる。(訳:JR北海道で発券された自社完結の切符)切符を入れる袋は大谷翔平選手の写真入りだった。
 さて、ここで昼ごはんをと、駅弁屋さんに向かう。様々な種類の駅弁に目移りするが、北海道らしいものが食べたい。ちょうど目についた「ジンギスカンあったか弁当」。ジンギスカンという嬉しいワードだけでなく「あったか」のそそる文字。これだ。店頭のおばちゃんに、その商品名を告げる。するとおばちゃん、電話し始めた。「ジンギスカン今切らしてるから、在庫ある所まで取ってくるね! ちょっと待っててね!」なんと。電車の時間はあったので、先に言ってもらえば別のお弁当にしたと思うし、その店舗まで取りに行ったと思うのに……。
 駅弁を無事に受け取ってからも、まだ電車の時間には早かったので、ホームで見慣れぬ車両の数々を眺めていた。大谷翔平センスのラッピング車両も見ることができた。交流電化だからか、雪への装備からか、どの車両も物々しく、「本州の車両を見ていると、やっぱり貧弱そうと思ってしまう」と、JR北海道の方が説明会でこぼしていたことが思い出された。


 まだ11月ではあるものの、真冬の北陸旅行の反省を踏まえ、自分の中では最高の防寒装備で来たはずだが、動かないでいたせいか、体がどんどん冷えていった。やはり待合室にいるべきだったか、後悔したころにお目当ての特急スーパーカムイ号が入線してきた。785系というらしい。物々しさはあるものの、ヘッドマーク?代わりのフルカラーLEDのディスプレイがついていて、特急に相応しいスタイリッシュな見た目だった。
 車内に乗り込むと、自由席はがら空きではなくほどほどに混雑していた。なんとか窓側の席を確保し、快適な椅子に座る。着席してすることといえば一つ、駅弁を食べることである。パッケージに書かれた通り、ひもを引っ張り加熱装置を作動させ、8分間待つ。どんどん温かくなっていく容器は、冷えた手を温めるカイロ替わりにちょうど良かった。手を温めたジンギスカン弁当は、もちろん胃袋もほかほかに温めてくれた。弁当でジンギスカンが食べられる幸せ。お野菜がまた甘い! その一方で、強烈な飯テロであることは忘れてはならない。


 食べ終わってからも、依然とぬくぬくの容器で手を温め続けていると、車窓の雪はどんどん深くなっていく。関西在住の私からすると、一年分くらいの雪を見たと思う。砂川、滝川と続き、いよいよ留萌線の乗換駅、深川である。「次は深川です」のアナウンスの後に、留萌線が……、何か言っているような気がした。そんな何か言われると思っていなかったこともあり、よく聞き取れなかった。ただの乗換案内ではないような、嫌な予感がしていたが、そのアナウンスがもう一度流れることはなかった。とはいえ、特急を降りなければ話にならない。13:23、深川駅下車。

 降りて分かった。
 留萌線全線(深川~増毛)、大雪のため15時まで運転見合わせ。

目指せ増毛

 札幌駅のみどりの窓口のお姉さんが確認していた何かはこのことだったのかもしれない。そもそもなぜ運行情報を確認しておかなかった。これが北の大地の洗礼か。
 本来途中下車不可のSきっぷではあるが、こんな事態であるため途中出場させていただき、先輩から頼まれていた深川駅限定の記念切符を購入。それから、Twitter(現X)をはじめとして、増毛に行くと宣言してきた皆様に顛末を報告する。
 今回の旅は、廃線間近の留萌線に乗って増毛に到達することもその目的であったが、一部界隈に人気である「増毛」と書かれた入場券を手に入れることが最重要目的であった。夏場であれば、増毛近くの案内所?商店?でも手に入ったようだったが、冬季のため、留萌駅窓口のみ発売であった。さらに調べると、留萌駅の窓口は16時20分で閉まるという。15時に運転再開したとして、最初の列車に乗ってもその営業時間内に辿り着くことは出来ない。予定を変更して二日目に再訪するか? 飛行機に間に合わないことはないが、留萌線の本数が少ないがゆえに、厳しい旅程になることは必至だった。途方に暮れ、駅前を散策する。雪に足跡がついていない広場に踏みこんだら想像以上に雪が深く埋もれかけた。下手に動かない方がよさそうだった。
 そんな調子で、深川に到着してから一時間が経とうかという頃、増毛の入場券を私に頼んでいた(Sきっぷを教えてくれた)後輩から一通のラインが届く。
 「深川十字街というバス停があるので、そこから留萌駅前までのバスが出てます」
 神は私を見捨てていなかった。髪だけに。
 まだ歩きやすくなっていた歩道を歩き、バス停へと向かう。ローカル路線バス乗り継ぎの旅のあの番組が好きなので、ちょっとテンションが上がっているが、初めての北海道で見知らぬバスに乗るのはさすがにかなり不安であった。前乗りなのか後ろ乗りなのか、両替方式なのかつり銭が出てくる方式なのかとか。不安の出方が旅好きのそれなのはさておき。
 やってきたバスはいかにも観光バスの車両であった。乗客は五人ほど。ここから大体1時間、1080円。観光バスの車両だから椅子が優しい、そして暖房がフル稼働で快適極まりない空間だった。とはいえ、これは留萌駅行きではないので、寝過ごしたら絶望が待ち受けている。市街地、単調な道路、峠道(with雪)……。必死になって時々目を覚ますと、目まぐるしく景色が変わっていた。
 日もすっかり傾いた16時前に留萌駅前のバス停に到着。16時前で日が傾いている、高緯度ならではの現実に戸惑ったのもつかの間、肝心の留萌駅が見えずに焦る。あと20分くらいで駅につかないといけないのに。ロータリー等で降ろされるとばかり思っていた。当時1GBの津伸容量で生活していたが、背に腹は代えられずマップアプリを起動し、留萌駅へたどり着いた。やることはそう、窓口で「増毛駅の入場券下さい」とお願いすること。自分用と、色んな人に頼まれた分は軽く10枚を超えた。増毛駅の入場券は、いわゆる硬券の入場券タイプと、駅名の看板の写真が載ったタイプの二種類があった。え。皆さんに希望取ってないぞ……? 勝手ながら、写真付きは自分用に、依頼分は硬券タイプを購入した。ミッションコンプリートである。


 じきに窓口が閉まるが、待合室には地元ボランティアの方がおられた。その方の話によれば、大雪の運休のために、タクシーに乗って入場券を買いに来た強者もいたんだとか。
 入場券を手に入れたとはいえ、ここまで来たからには行きたい増毛。列車が到着するまで待つこと1時間弱の間に、留萌線部分廃止に伴う写真やパネル展示などを眺めていた。廃止に対する思いを書きこめるノートがあったので、ページをめくってみた。遠方からの鉄道ファンの熱い書込みとは裏腹に、地元の人の「最近は乗らなくなったけど、小さいころから見てきたのでさみしい」というような書込みが少なくなく、現状を垣間見した気がした。  
 ボランティアの方の案内でホームへ入ると、暗闇に吹雪が浮かぶ。ディーゼルの音が近づく。結局、深川で大人しく待っていたとしたら乗っていた列車に、先回りして乗る形になった訳である。初めて、スタフ(通行証)の授受を目の当たりにした。私を含めた数人の乗客を乗せ、列車は増毛へ向かう。二両編成の車内はいかにもな鉄道ファンでいっぱいだったが、ほぼ全員が着席できるくらいの混雑であった。海が広がっているらしい車窓は、暗闇と結露で全く何も見えない。それでも行かないよりはよかったと思う。列車が増毛に到着すると、乗客たちは数分間の折り返し時間で、一斉にあちこちの写真撮影にいそしむ。警備スタッフに急かされて再び車内へ。やはり車窓からは何も見えない。それでも充実しきった気持ちで、深川へと戻った。

(余談)ホテルへ、そして2日目の小樽観光

 ホテルにチェックインが遅れる電話をし、札幌行きの特急に乗り込む。列車名は忘れた。
 ホテルにチェックインした後は、晩ご飯を求めて夜の街へ。イルミネーションが行われていたので、テレビ塔界隈を少しうろついていた。会場が余りにも広かったため、途中で折り返し、ラーメン屋さんに吸い込まれた。本場の味噌バターコーンは最強だ。味噌ラーメンといえば、味噌特有のざらざらとした感じのスープが好きではないのだが、本場は違った。店内のテレビで流れていたのはなんでも鑑定団だった。ほっこりしてホテルに到着、就寝。
(ホテルはホテル京阪札幌に泊まりました。部屋は広いし、道産食材をふんだんに使った朝食バイキングはすごかった。朝からイカ黄金。すっかり味を占めて同系列の浅草に泊まったら物足りず……。)
 二日目には何となく小樽へ。小樽市総合博物館は冬季料金で割安な上、人も少なく、展示物ほぼ独占状態でした。科学系の展示のみならず、鉄道系のあんな資料やこんな資料にウハウハ。あれは何度でも行きたい。他には手宮線跡を通ったり、運河付近で人力車のお兄さんにカモられかけたり、ベビーカー感覚でそりに子供載せてひく親の姿見て驚いたりして過ごした。快速エアポートで新千歳空港へ乗り換え無し。夕方だったので、札幌でどっと人が増えた。指定席にして正解だった。


 ついついお土産を買い混んでしまい、荷物の10キロ制限にかかりそうだったので、ホテルでもらったミネラルウォーター二本を急遽飲み干したのも良い思い出(捨てるのは嫌だった)。覚悟を決めて飛行機に乗る。平静を装うも、内心ではこれでもかと絶叫。なんとか関空へ戻ってきた。行きは南海だったから帰りはJR。関空快速ではよく寝た。ということで、誰もに「え、もう帰ってきたん?」とドン引きされた北海道一泊二日弾丸ツアーはおしまい。翌朝1限からゼミへと向かった。
 なお、この一週間後、北海道は飛行機が止まるくらいの大雪に見舞われる。旅行すら中止になることを思えば、ちょっとの運休は何ともなかった……。
(そもそも留萌や増毛が道内でも豪雪地域であることを知るのは数年先であった)

留萌本線第二弾 石狩沼田ー留萌&増毛再訪編に続く


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