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詩 月を捕まえる


「あ、月」
高い建物が、周りからなくなって
一気に視界がひらけた
どこまでも続くだだっ広い夜空に
三日月がぽつんと浮かんでいる
薄い藍色の和紙をひとひら重ねたくらいの
夜とも言えないあわいの時間

ときおり横を自動車が通る以外
ここにいるのはふたりだけ
歩く僕と
高い月
追いかけても跳んでみても
届きはしない


どうにか月に触れてみたいと
うなりながら立ち止まる横断歩道
ふと見上げれば
電線で切り取られた小さな空の中に
なんと月が!

思わず右手を
月に伸ばす

でも
小さな小さな空の中に
閉じ込められた月を見て
上げかけていた手をぴたりと止めた


ぱっと光って、赤から青へ、変わる信号
ゆっくり進み出す、横の自転車
慌てて一歩踏み出せば
月はいとも簡単に、ついと逃げ出してしまった

「あ、」
気づいたときには遅かった
逃げ出した月は、素知らぬ顔で
ゆうゆうと空に浮かんでいる
呆然と立ち尽くしながら
無意識に零れた苦笑いと
「別にいいさ、月にはあの額縁じゃあ窮屈だろう」の独り言


そしてまたゆっくりと
家路を歩む僕の頭上を
涼しい顔した月が微笑む



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