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舞台『D.C.III~ダ・カーポIII~ミライへの伝言』その7 凍結&通し稽古の章

1月末に脚本の第五稿が完成し、打ち合わせの後、それをちょっとだけ手直して稽古初稿(第五稿改)を提出したのが2月頭。
この2月頭にとんでもない事態が発生してしまう。
それがTwitterアカウントの大量誤凍結事件だ。

2月3日になったばかりの0時35分過ぎ、突然、Twitterのアカウントが凍結されてしまったのだ。直前まで、舞台『ウマ娘プリティーダービーTHE STAGE Sprinters' Story』の配信を観て、感想を述べたり出演者のツイートを何件もRTしたりしていたので、そのせいかと思ったりもしたが、どうやらそうではないらしい。

どうやらこの時の大量凍結は、マシュマロと呼ばれる質問サービスの質問募集の自動投稿がスパムであると判断されてマシュマロユーザの大規模凍結となった模様。しかも、何の警告措置もなく、いきなり一番重い「永久凍結」になってしまって、何もできなくなってしまった。
Twitterは閲覧はできるが発信も他人とのやり取りもできない。運営に解除申請を送っても自動返答メールが返ってくるだけ、という空しい日々が一ヶ月以上続いた。

その間に月刊ブシロード先行が終了(2/7)し、舞台のエルタマ企画(2/13~26)が始まり、ファミマ先行申込受付(2/20~3/5)がスタートし、ファミマでのレジ液晶&店内放送も始まり、メインキャストのビジュアル公開&チケット一般販売が始まった(3/11)けど、何のアクションもできない。

知人が撮影してくれたファミマ店内の液晶の様子(みなもさんありがとうございます)

結局、凍結が解除されたのは3月17日(ヒロイン以外のキャストビジュアル発表日)で、一ヶ月以上、他のSNSやnoteで告知だけは続けたものの、やはりTwitterの重要性を思い知ったのだった。わかってないのはイーロンだけだよ、まったく……。

いつまでもそんなことで燻っているわけにもいかないので、前回、語り切れなかった脚本拾遺を幾つか。

脚本をシェイプすると、本筋に関係ないちょっとした掛け合いなどが削られてしまうことが多いのだが、掛け合いこそがD.C.シリーズの神髄、と思う人も少なくないので、その辺りはバランスが難しい。
今作でもシリーズ的な縛りとして最低一回はシャルルに「またまたご冗談を」と「よ~し頑張るぞ~」という台詞を言わせているのだが、そのシーンをカットしませんか、ってことになって慌てて死守したことはあった(正確には、シーンのやりとりはカットしつつ、当該の台詞はサルベージして組み込みなおす)。

第四稿で採用された「夢渡りのシーン」だが、改稿前は日替わりネタだったのでひとつひとつの夢を丁寧に書いていた、という話は前回もした。その脚本内容は上演パンフに掲載されているので、そちらを観て欲しいわけだが、第二稿での実際の流れは、「杉並の夢」⇒「日替わりの夢」⇒「リッカの夢」という流れだった。
せっかくなので、日替わりシーンに入る前の杉並の夢を抜粋しておこう。パンフレットと併せて楽しんでほしい。

■杉並の夢:ピカデリーサーカス
 気が付くとロンドンの市街地にいる。
 夢の世界。風見学園編の着替えができる人は着替え始める。
 まだ大丈夫な人は各夢でエキストラに。
清隆「ん? ここは……誰の夢だ?」
杉並「危ない! 伏せろ!」
清隆「え?」
 杉並、清隆に飛びかかり覆いかぶさる。
清隆「いて! ててて……」
杉並「危なかったな。だが、安心するのはまだ早い」
清隆「おま、杉並……。いきなり何すんだよ」
杉並「何を言うか。俺の名前はカラリパヤット3世。この街は、上野は狙われている!」
清隆「は? ここはロンドンだろ」
杉並「ロンドン? 何を言っている。ここは上野だ。あの西郷さんが動かぬ証拠!」
 杉並、エロス像を指さす。
清隆「西郷さんじゃないだろ……」
杉並「同志葛木……いや、ヒネモスノタリ12世よ。俺は君を迎えにきた」
清隆「あのな、お前の夢につきあってる暇はないんだよ」
杉並「そう、俺には夢がある。埼玉と上野を軌道エレベータで繋ぐことだ!」
清隆「軌道エレベータ?」
杉並「それは俺の夢なのだ!」
清隆「で? 埼玉と上野が繋がるとどうなるんだ?」
杉並「ふ、知れたことよ。全知全能の神アライグマが復活し、復讐のために地球を破壊するのだ!」
清隆「意味が分からん。そんなことより杉並」
杉並「カラリパヤットだ、ヒネモスノタリ」
清隆「めんどくさいな! あのさ、ちょっと聞きたいんだけどお前の情報網の中に鬼の呪いに関する情報はない?」
杉並「鬼の呪い? そう言われて即座に思いつくのは、鬼ころし山、鬼哭山と呼ばれる山に伝わる民間伝承レベルの昔話だけだが」
清隆「それだ、もっと詳しく」
杉並「俺が知ってるのは、おとぎ話程度の内容だけだ。昔、鬼がいて、それがとある侍と巫女によって封印された。そのバリエーション違いがいくつか。それ以上のことは知らん」
清隆「そうか」
杉並「いや、ひとつ気になる伝承があったな。あれは五条院家に伝わる予言の歌、だったか……」
清隆「なんだそれ。詳しく……」
杉並「忘れた」
清隆「なんだよ」
杉並「忘れたものは忘れたのだ。さ、気は済んだかヒネモスノタリ。惑星埼玉へ行くぞ。有人探査ロケットの予約はもう済ませてある」
清隆「惑星? いや、いい。行かない。じゃあな!」
 暗転。

脚本第二稿~第三稿・杉並の夢のシーン

第四稿で、日替わりは打ち上げシーンに変更になり、夢のシーンはコンパクトになって全員の夢を巡っていくシーンに変わったわけだが、これはこれで味わい深い。
日の目を見なかった杉並のシュールな夢をここで供養させていただく。

第四稿といえば、特筆すべき点がひとつだけある。
「弟くん……」という台詞だ。この台詞は第三稿から第四稿に改稿する際に僕が追加したものだ。
どこで使われる台詞かは、実際にお芝居を観てくれた方にはわかっていると思うので、細かくは説明しないが、この台詞をひとつ追加するために、多くの人の尽力が必要だったことは言うまでもない。

原作『D.C.III~ダ・カーポIII~』の終盤の重要なシーンとして、朝倉音姫、朝倉由夢、月島小恋が登場するシーンがある。演じるのはミルノ純さん、はるかひとみさん、南條愛乃さんだ。
これは前作ファンのためのサービスシーン、ではなく、さくらの正体やシリーズ全体の接続を示す重要なシーンでもある。

「弟くん……」という台詞は勿論、朝倉音姫(正確には桜内音姫)のものだ。この台詞がなくても舞台自体は成立する。が、そこにD.C.IIIの音姫役であるミルノ純さんが参加する、ということには大変、意義はあることは永年シリーズに寄り添っていただいた方々にはわかっていただけると思う。
なので、CIRCUSさん、劇団さんに納得していただき、追加を許してもらえることとなった。
ただ、たった一言のためにミルノさんをお呼びするのも申し訳ない。ということで、姫乃の母であり、清隆の養母である「葛木咲姫」の声もミルノさんに演じていただくことをリクエストさせてもらった。咲姫をミルノさんが演じることで、連綿と続く葛木の「血」を感じてもらえると嬉しい。

今夏、ミルノさんの事務所のプロフィール頁のサンプルボイスが更新された。その中には、以前、ミルノさんに頼まれて僕が書いたセリフも幾つか存在する。

『ミライへの伝言』の脚本を書くよりもずっと前に書いたセリフだが、まったくの無関係でもないので、是非、聴いてみて欲しい。

とは言っても、台詞の収録は演出の市村啓二さんが立ち会ってくださったので、ミルノさんにはお会いしていない。実際に台詞を確認したのは、僕が稽古場に通し稽古を観に行った日だ。
配信はもう終了してしまったが、メイキングの特典映像冒頭に稽古場の様子が出ているので、稽古場の雰囲気だけでも味わってほしい。

僕が通し稽古に行ったのは4月の13日だった。

前作の稽古の際、高速バスで行ったらバスが遅れてしまって通し稽古の開始を少々遅らせてしまったので、今回は遅延の少なそうな新幹線(と言いつつ、偶々だとは思うが名古屋も含めここ最近の新幹線の遅延率が高くて辟易している)で都内某所の稽古場へ。
既にお馴染みの面々に加え、篠本桜さん、北原侑奈さん、秋谷啓斗くんを加えた新たな座組みはどうなるかと思ったが、既に新メンバの面々も馴染んでおり、(当人たちは不安だったとは思うが)安心したのを覚えている。
やはり、座長の新田さん、ヒロイン役の佐々木さんが皆の精神的支柱になってるからこそ、なのだろう……と思いつつも、各人とゆっくり話す時間はなかったのは残念。

「ゆっくり話す時間はなかった」わけだが、出演者それぞれとは軽く役のお話はさせてもらった。
全部に触れることはできないのだが、特に印象に残ったのは、杉並役である工藤博樹さんとの会話だ。

実は、後半の夢の世界に登場する杉並に関して、僕は脚本のト書きにこんなことを書いた。

 杉並、ゆっくりと登場する。
 この杉並がどちらの杉並なのか、それはわからない。杉並だから。

脚本より抜粋

こんなことを書いたら演者さんが混乱する可能性は高い(工藤さん、申し訳ないです)。
だが、これが杉並である。「D.C.IIの杉並とD.C.IIIの杉並の関係は?」など、ファンの間で議論されることも多いとは思うが、同じD.C.III内で「風見鶏編の杉並と初音島編の杉並先輩」の関係も謎が大きい。違う点があるとすれば、清隆との関係や呼称だが、もちろんパーソナリティに変化はない。
僕の中で一応の設定はあるが、それを前面に出してしまったらそれは杉並ではない。どこかメタ的な存在こそが杉並なのだ。

ちなみに、今作の夢の中のシーンの杉並にも設定はある。屋上のシーンで清隆に投げかける質問も何かを知っている風だし、最終的に清隆とリッカが風見鶏中の魔法使いを夢の世界に呼び込んだ瞬間も、杉並自身は変わらなかった。ということで多分、「エリザベスの魔法で、先行して昏睡する清隆の夢の中に調査に入った風見鶏の杉並」だろう、ということは観客にも類推が可能(?)だ。だが、やはりそれを説明してしまっては杉並ではなくなってしまう。「正解はひとつ、じゃない」のだ。
なので、全部を演出と演者さんにお任せした、というわけだ。丸投げ。本当に申し訳ない。
結果、出来上がった杉並の解像度はとても高いものだった。感謝しかない。

通し稽古では、最終的なテキレジ(「テキレジ」が何かは前作の備忘録を参照して欲しい)に問題ないか確認(と言っても事前にどこをどうしたのかは報告してもらってるので最終確認のみ)し、皆さんの演技や演出に原作との解釈違いがないか確認し、BGMの使い方なども問題ないと判断し、通し稽古の確認は終わった。

『ミライへの伝言』はとにかく姫乃のかわいさとリッカさんのかっこ良さが伝わるのが一番大事だ。でも、そこに関しては、本当に何の問題もないので、佐々木さんや新田さんへの言及が少なくなってしまう。藤邑さんも含め、もう10年キャラクタに寄り添ってくださっている方々なので、僕が言うことは非常に少ない。

その一方で、舞台版で役を演じてくださってる方々も、キャラへの愛情と理解度が深く、僕が言うべきことはほとんどなかった。訊かれた質問に答えたのみだ。本当は一人一人のことを書きたいが長くなってしまうので、その辺りは総括で。

帰りの新幹線で、通し稽古の報告を皆にしたかったのだが、何を言ってもネタバレになるので殆ど何も言えなかったのを記憶している。
二度目のヒロイン紹介の立夏登場の際の「国語・数学・立夏…恋愛!」のライヴシーンの完成度が高すぎてびっくりした、とか言いたかったw

とりあえず、前作にはない要素だったエドワードとメアリーの絡み、イアンと瑠璃香の絡みに関してだけは、これぞD.C.IIIという感じだったので、Twitterでも呟いた気がする。

泣いても笑っても本番まであと一週間弱。頑張って欲しいと思いつつ、都内を離れたのだった。

《本番直前、新田さんのインスタLIVE》

《本番直前メインキャストインタビュー》

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