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kotatsu stories

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超短編集の第1弾になります
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2019年3月の記事一覧

Sの驕り

Sの驕り

くだんの店に入ってからも違和感は拭えなかった。

Sの様子はというと、生ビールの注文を済ませるなり、例の”おねいさん”を引き留めて本気で誘惑しているように見える。
評判の映画『スペンサー・オーラムの厄災』に誘っている。

どこか垢抜けない若い女店員も満更でもないような、それでいて抜け目のないような目でSを見ている。
値踏みをしているようだが、もうひと押しかもしれない。

Sの身長が伸びて、生前は、

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ラブレター

ラブレター

廃屋で紙魚(シミ)に喰われ、
朽ちて行く、
百五十年周期の行幸だったのかもしれない、

手渡された恋文。

上手くいく筈もなく、
生まれなかった、夢で会った息子のため息を
思い浮かべ、

(赦しを乞うだけ)

駅舎のベンチで、
背筋を伸ばして座る、

バトミントンラケットを持つ君に。
#現代詩 #ラブレター #恋文