「また読んじゃったよ!」“ちゃお”を読まずにはいられない小学1年生
たくさんの娯楽コンテンツが、人々の可処分時間を奪い合う時代になった。YouTubeやNetflixといった動画サービス、InstagramやTwitterなどのSNS、テレビ、小説や雑誌、ウェブメディア、そして漫画ーー。
子どもたちの娯楽の世界もまた、デバイスの普及や通信環境の整備に伴って変化してきているが、小学1年生のユナさん(仮名)は、創刊40年を超える歴史をもつ漫画雑誌『ちゃお』(小学館)の魅力に取り憑かれた。詳しく話を聞いた。
ユナさんが所有するちゃおとその単行本
『デリシャス☆タピオカ!』は全部タピオカで好き
『ちゃお』の読者層の平均年齢は10歳(3、4年生)だが、ユナさんは1年生から読み始めた。
「きっかけは、学童に置いてあったこと。女の子は全員読んでるね。まず読んだのは『デリシャス☆タピオカ!』で、ハラミユウキさんが作ってる。見て!全部タピオカなの、ほら!
“タピオカまずい!”、“タピオカ大嫌いー!”、ほらほら、“タピオカーズ、解散”(笑)これがすごいおもしろいんだよね。あと今好きなのがこれ、『エブリディ授業参観!』なんだけど、ママが子どもになって同じクラスに来たの」
おもしろければ、想定読者が高学年だろうが関係ない。ユナさんはその魅力を筆者に伝えるべく、セリフを読み始めた。すると、読むことに熱中し、インタビューに戻ってこない。
彼女の読み方の特徴は、擬音語まできちんと発声することである。“ドドド”、“へなへな〜”、“あはは”、“ころーん”、“うにうに”、それらは物語に豊かさを与えていく。
「ーーあの、お話続けてもよろしいでしょうか?」
筆者が聞くとユナさんは「読んじゃった」とはにかみ、再びインタビューに応じてくれた。
単行本はカバーを外しておくのがユナさんの流儀だ
「つまんなかったら部屋に入ってちゃお読むの」
平日は毎日、学校のあとに保護者の迎えまで学童で過ごす。多学年の子どもたちが同じ部屋にいるが、同年代の仲の良い友達が少ない日には、1人で過ごすこともあるそうだ。
「学童でちゃおを読むのは、雨の日とか、なんかつまんないときとか。アオイちゃん(以下、全員仮名)とリンちゃんとユアちゃんがいないときはつまんないから。まぁ、ヒナタちゃんがいればいいけどね。つまんなかったら部屋に入ってちゃお読むの」
ルビの大切さを説くユナさん
「これだけじゃわかんないでしょ?だけど、こういうひらがながあると、読める。漢字だったら全部入ってるよ」
ちゃおでは、全てのセリフにルビが振られている。小学生に人気がある一因は、的確なユーザーエクスペリエンスが保証されていることにある。それは、各作品のタイトルにも表れている。
『ひみつのオトナモード』『放課後メタモルフォーゼ』『はろー!マイベイビー』といったラインナップはどれもキャッチーで音感がよく、声に出したくなる。ちなみに、ユナさんが所有している『ちゃおデラックス7月号』の特集は「好きすぎてごめんなさい!」だ。
ユナさんは、「結構好き」と言う『金眼銀眼ねこ館』(きんめぎんめねこやかた)を読み始めた。ときにリアルな猫の鳴き真似を織り交ぜ、ときに笑い声を発し、ずんずん読み進めていく。
いつの間にか黙読に変わった。4分間の静寂があった。紙がパラパラとめくられ、漂ってくる懐かしい匂いからは、筆者の子ども時代も思い出される。発売日に小銭を握りしめて、最寄りのコンビニでジャンプを購入し、兄弟で回し読みをする、あの前夜のワクワク感だ。
「また読んじゃったよ!読みすぎた。一回読むとハマっちゃう(笑)」
「『イヌイさんッ!!』は嫌い。だってさ、おもしろくないんだもん」
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暇という“じゆうちょう”に、好きを描く
“ユナさん”は、筆者の娘である。父として娘と接する中で、彼女から学ばされることは多い。「好きなことをまっすぐに好きでいられる姿勢」もそのひとつだ。ピアノも、自転車も、YouTubeも、好きなことの全てに彼女はまっすぐである。
國分功一郎著『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社)では、現代を生きる私たちが資本主義の全面展開によって暇を得た結果の、皮肉な実情を記している。
“暇を得た人々は、その暇をどう使ってよいのか分からない。何が楽しいのか分からない。自分の好きなことが何なのか分からない。”
好きなことが“分かる”のは、今や特別なことなのかもしれない。インタビューの途中で読み耽ってしまうほどに漫画が好きな“ユナさん”は今、漫画家になることを夢見て、“じゆうちょう”にオリジナルのキャラクターを描き始めたそうだ。
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