自分を1行で紹介できますか?僕はたった7文字だった。
就職活動がはじまっている。
エントリーシートを書かないといけない。自分の自己紹介をする。志望動機に、将来の夢…書くことはさまざま。書けるイメージはあるのに、なかなかうまくまとまらない。
「書けた!」と思って、OB訪問の際に見てもらうと、ガッツリと赤ペンが入る。
●「もっと具体的に書いてほしい」
ここのさ、OB訪問の際に先輩の“話”に惹かれたって、実際に“どんな言葉”に惹かれたの?そのキーワードを書いた方が面接で盛り上がるよ。
●「タイトルつけるといいよ」
読む側も大量のエントリーシートを読むからさ、タイトル付けたりして、惹き込みたいね。お、なんだ?と思ってもらった方が得だよ。
●「社会人ってなんでも知ってる訳じゃないよ」
君が学生の時に見てきたことを、さらさらさら〜と書かないで、顕微鏡で覗くように書く。そうすると社会人も面接で食いつくから。
「はい!」「なるほど!」「たしかに!」威勢の良い居酒屋の店員さんみたいに受け答えしながら、内心ちょっと凹みながらもまた書き直す。それを繰り返す。僕は、そんな就職活動生だった。
社会人になった今。
就職活動生の方のエントリーシートを読みながら思う。
そこに書く文章は、会話のキャッチボールをつくるためのものだ、と。
関係がはじまる入口をつくろう。
自己紹介の目的は「興味の入口」をつくること。自己紹介ですべてを伝え切ることなんて不可能。だからせめてその名の通り、そこを入口にしないといけない。
「もう少し会話してみたいな」「あの件について話を聞いてみたいな」そう思ってもらえたらばっちりだ。会話に花が咲く。お茶が進む。そんな入口を。
とは言っても「具体的にどういうこと?」なのか、僕自身の経験談を紹介したい。
先日、刊行した著書「コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術」(ダイヤモンド社)にも書いた身に沁みたエピソードです。初任配属の人事局から、テストを受けて、新人コピーライターになった時の出来事です。
自分の広告をつくりなさい
このお題が僕を含む新人コピーライターに与えられた。
制作した広告ポスターは、自己紹介も兼ねて、社内のフロアに掲示される。これからはじまるコピーライター生活。先輩たちに自分の存在を知ってもらえるのはとても心強い。覚えてもらいたい、その意気込みは強くなるばかりだった。
新人育成担当のクリエーティブディレクターが事前にコピーをチェックしてくれる。その打合せに向けて考えはじめたものの…
自分のことをコピーで表現するなんて、果たしてそんなことができるのだろうかと、一抹の不安が頭をよぎったこともよく覚えている。
まずは、自分の特徴を書き出していく。
これまで経験した出来事を思い出す。また、仲の良い友人にも僕がどんな風に見えているか教えてほしいと聞いて回った。
箇条書きにするとこのように整理できた。
これが自分の「伝える内容」のもとになっていく。
1年間の優れた広告が掲載されている、図鑑のように重量感のある「コピー年鑑」のページをめくりながら、こんな風に書けたらいいだろうかと、見よう見まねで、1本ずつ書き上げる。
打合せの場に持ち込んだコピーは、46本だった。
1本ずつ、クリエーティブディレクターに見せていく。
意図を説明しながらテーブルに紙を置く。緊張して額に汗が流れていくのを感じる。
プレゼンし終わって、クリエーティブディレクターが、すべての紙を集め、トントントンと机で整えていく。そこから改めて、1枚ずつ素早く見ていく。これはある、これはない、と瞬時に分けていく。
結果、◯が4個、◎が1個だった。
ここに30本を紹介する。先程の特徴を持った新人コピーライターである。あなたがコピーを選ぶ立場だったらどのコピーを選ぶだろうか?
改めて読み返して思うことがある。ここの一文字を削り出して短くしたいとか、ここは平仮名じゃなくて漢字にしたいとか、過去の自分にあれこれ言いたくなる。
くすぐったいし、まじまじと見返すことに照れもあるけど、あの時の一生懸命を知っているから、恥ずかしいけど、恥じゃない。
クリエーティブディレクターが◯をつけたのはこの4本だった。
そして、「これが良いね」と◎を付けてくれたのがこのコピーだった。
◎阿部広告太郎。
「ありがとうございます!」
コピーが生き残ったことに安堵しながらも、内心、拍子抜けしていた。
こんなことを言うのも恥ずかしいが、自分自身の名前で何かできないかと考えている時に思い付きで書き加えたものだ。
内心、僕が書けたかなと思っていたのはこの2本のコピー案だった。
「汗も、恥も、文字も、たくさんかきます。」
「情熱とか嫌いな人には、悪夢の男です。」
あなたにも見て頂いてわかったと思うのだが、コピーってこうした方が「ぽさ」が出るのかなと、あれこれ、こねくりまわしもした。
でも結局、自分の名前を起点にしたものが選ばれたのだ。
クリエーティブディレクターは言った。
「一番大切なのは、君の名前を覚えてもらうこと。君の名前の『こうたろう』のこうの字が広告の『こう』なんだと伝えることは、覚えてもらえるから良いよ」
僕の書いた46本のコピー。選ばれたのはたった7文字のコピー。
キャラクター、容姿、印象的な出来事など、あらゆるアプローチで自分のことを伝えるコピーを書いた。
けれど、自分は相手に何を覚えてもらいたいのかという企てのないまま書いていたことに気づいた。
そうあの時、僕は、肝心のことがすっぽり抜け落ちていた。
1,誰が読むのか?(その人たちはどんな気持ちの人たちなのか?)
その上で…
2,その上で自分の何を伝えるべきなのか?
この企てをせずに「書かねば!」の思いで走りはじめてしまっていた。
上記の2点はめちゃくちゃ当たり前といえば当たり前なのだが「なにか書かないと!」で頭がいっぱいになると抜け落ちてしまう。見当違いのことを書いて伝わらないのはあまりに悔しい。
見て損なしの脱獄映画「ショーシャンクの空に」。
主人公が目的地に向かって、ぐいぐい穴を掘り進めるように、相手のいる場所や様子をちゃんと見ておかないと、入口はつくれない。
あなたなら自分を1行でどう紹介するだろうか?
自分について書き出す。相手との間に会話が弾む(と考える)1行。それはなんだろうか。僕はコピーライターをする今も、名刺交換の時、プレゼンの時、いつも頭の片隅で考え続けている。
心をつかむための、さらなる思考回路は…もしよかったら書籍「コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術」を手にとってもらえたらうれしいです…!
少しでも参考になりますように。ちなみに「自分の広告をつくりなさい」で完成させたポスターはこちらです。
このnoteが興味の入口になっていることを祈りつつ…!それでは、また!
ありがとうございます◎ 新刊『あの日、選ばれなかった君へ 新しい自分に生まれ変わるための7枚のメモ』(ダイヤモンド社)手にとってもらえたら嬉しいです🙏🏻 https://www.amazon.co.jp/dp/4478117683/