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傷ついて、気づいて、一生モノの優しさになった。

ドキッとした。

その後、カーッと体が熱くなった。そして猛烈に悔いた。

今、思うことがあります。後悔ってスタートライン。そこからどうするか?が問われている。そこからがはじまりだったんだなと。

いきなり語りはじめて恐縮です。コピーライターの阿部広太郎と申します。

先日、ダイヤモンド社から刊行した『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』。コピーライターという仕事を10年以上するなか、言葉に感動してきた出来事をぎゅーっと詰め込んだ1冊です。

なかでも「手話のコピーを書いた」章について反響をいただけることが多くて、その後日談も含めて、書き記したいと思います。

まず、書籍に綴った部分について紹介します。

※※※

文字だけが言葉じゃない

2017年のことだ。

ソーシャルエンターテインメント「ダイアログ・イン・サイレンス」というイベントが新宿のLUMINE 0で開催されることになった。

まったく音のない世界を、聴覚障害者のアテンドの方が案内してくれる。参加者は、音を遮断するヘッドセットを装着。静寂の中で、集中力、観察力、表現力を高め、解放感のある自由を体験していくというイベントだ。

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日本での初開催にあたり、僕は広告制作に携わることになった。まずは、音声に頼らず対話をする達人、聴覚障害者のアテンドの方たちを募集する広告をつくることに。

総合プロデューサーの志村季世恵さん、1999年の初開催以降、日本では22万人以上が体験している「暗闇の中の対話」を主宰するダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン代表の志村真介さん、そして監修で入られていた中途失聴者の松森果林さんを中心に打合せを進めていく。

聞こえない方と仕事でご一緒するはじめての経験だった。

手話通訳士の方を介して、または、パソコンをモニターにつなげて、カタカタと文字を打ちながら、筆談をする要領で伝え合っていく。

打合せの中で、何の気なしに僕はこんな発言をしてしまった。

「イベントの中では、言葉を使わないってことですもんね」

松森果林さんは言った。

「阿部さん、手話も言葉ですよ」

ドキッとした。ショックだった。自分自身に対して。傷つくと気づくは言葉の響きが似ているけど、その心の痛みで、自分の凝り固まった価値観に気づいた。

僕の当たり前が、世界の当たり前じゃない。

イベントの中では、手話を使うシーンも出てくる。僕はそのことを知っていたのに、書く言葉、話す言葉、歌う言葉、普段自分が使う言葉が言葉のすべてだと思ってしまっていたのだ。

考えてみれば、「ボディーランゲージ」は直訳すればその通り「体の言葉」だ。手話は「手の言葉」だし、目を合わせて、微笑むその表情だって「顔の言葉」だ。文字で書いたり、口で話したり、それだけが言葉じゃない。

辞書という拠り所

心に迷いが生じた時は必ず辞書を引く。辞書は、大きな海に浮かんでいる浮き輪のような存在だ。拠り所になる。そこにある安心感。辞書があれば心強い。

おぼろげに感じている意味をつかむ上でも、引けば何かしら発見がある。発見とまでいかなくても考えるスタート地点になる。ちなみに僕は、紙の辞書を卓上に置いているし、辞書のアプリを購入してスマホにも入れている。新明解国語辞典を引いてみる。

言葉とは…

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その社会を構成する(同じ民族に属する)人びとが思想・意志・感情などを伝え合ったり、諸事物・諸事象を識別したりするための記号として伝統的な慣習に従って用いる音声。また、その音声による表現行為。(広義では、それを表す文字や、文字による表現及び人工言語・手話に用いる手振りをも含む)

自分では思い至らなかった。けれども辞書には書いてあった。

言葉の意味には、狭義と広義がある。意味は円のように広がりを持っている。狭義は中心部分で、「いわゆる」を指し示す。この場合だと、伝え合うために発する言葉だ。一方で、広義では、プログラミングに使われる言語も、手話も、身振り手振りも言葉に含まれるのだ。

心に思うことを、相手に伝える手段のすべてが言葉だ。
書き言葉。話し言葉。歌う言葉。手の言葉。体の言葉。
ダンスの言葉。映像の言葉。写真の言葉。
僕たちは言葉があることでつながり合える。
僕たちは言葉があることで分かち合える。

アテンドの方たちを募集する広告ポスターが完成した。

なんだろう?と思った人も多いだろう。僕たちは堂々と言葉を配置した。

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ここにはこう書いてある。

「求む。これがわかるあなたの力を貸してください」

指で文字を表現できる指文字があるということも知った。広告の下部には、ウェブサイトのアドレス dialogue-in-silence.jp と書いた。

この広告は、普段手話を使っている人たちにしっかりと届いていった。嬉しかったことが2つある。

一つは、この広告が2018年度の「コピー年鑑」に掲載されたことだ。東京コピーライターズクラブの会員が、審査会にて、応募のあった広告に票を投じ、選び抜き、後世に残すべき広告が掲載されている年鑑だ。

おそらくコピー史上初の手話のコピーではないだろうか。この広告は、何かの賞を受賞した訳ではない。けれど、手話は言葉であり、手話もコピーになることを伝えられたことが嬉しかった。自分の中で確かな手応えのある仕事だった。

もう一つは、とびきりの出来事だった。この広告が完成した時、松森果林さんが僕にメッセージを寄せてくださった。

「私たちの言葉をこんなに素敵にデザインしてくださりありがとうございます」

一人静かにスマホを見て、じーんと目頭が熱くなった。

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先日、志村季世恵さん、松森果林さんとJ-WAVEのラジオ番組で話すことができた。そして、ダイアログ・イン・サイレンスの広告をつくった時の話になった。

松森果林さん:これができるのはよっぽど阿部さんが聞こえない世界に興味をもって色んなことを調べたり深く感じてくださったお陰なんだなって思いましたね。

鮮やかに見えて、その裏はドタバタで。考えつくまでの大変だった時間も、何度も打合せを重ねた時間も、松森果林さんの言葉でまた報われた。

対話とは、相手から見える景色を想像すること。

僕はそう思っている。そして、景色を想像することが優しさになる。

傷ついて、気づいて、一生モノの優しさになる。こう思うようになって捉え方が変わった。悔しいのはこわくない。悔しさを忘れてしまうのがこわい。何もなかったことにはしない。その先に行けるようにする。

湧き起こる思い。きれいな花を見つけて『これ見て!』って手を差し出すような、すべてのはじまりはそこだよなあ。

言葉への発見と感動を綴った書籍「超言葉術もぜひ。

お読みいただきありがとうございました…!

★★★

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