あえて知らうとしない行為
人間は、知らないふりはできるが、知らない状態に戻ることはできない。足し算の方法や漢字について、まったく知らないときの自分に意図して戻ることはできない。もちろん、複雑な計算方法や難読漢字であれば、一度覚えても知らない状態に戻ることはある。それを「忘れる」というが、自分の意志で忘れたわけではない。
知ってはいけない秘密を知ってしまったとき、自分でその記憶を消去することはできない。自分の中で知らなかったことにしたり、忘れようとすればするほど、秘密を意識してしまってかえって記憶に残ってしまう。
人間は、意図的に自分の記憶を消せない。それは当たり前のことだ。しかし、人間は都合が悪いことや面倒な場面に遭遇したときに、知らないままでいようとしたり、消極的に知ろうとしないことがある。自分の手で耳を塞ぎ、目をつむるような行為だ。
カルト宗教の信者を例に挙げる。カルト宗教の特徴として、指導者は信者に命令する際に、命令の目的や背景を一切知らせないことがある。「この部屋の資料をすべて処理しろ」という命令が下されたとき、信者は「何のために資料を処理するのか」「どうして自分が処理しないといけないのか」については何も知らされない。目的や背景を知ろうとする行為は、宗教や指導者に対する疑いや背信と捉えられる危険性もあるが、たとえ命令者に目的を尋ねてみても、命令者自身も上から命令されただけで、目的や背景を知らない。
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