恋愛(らぶ)レボリューション21  ―プロローグ・運命の人―

―プロローグ―

二十一世紀になった頃、歌われた曲がある。一つの時代をつくったあのモーニング娘。の恋愛レボリューション21。アップテンポで恋に落ちた乙女を歌った曲だ。そう、二十一世紀の入り口で我々の世界に恋愛革命が起こったのである。いや、起こすはずだった……と言うのが正しいだろうか? なぜならあの偉大なつんく♂は「みんなで恋愛革命」と歌わせたのだ。

 ここで言う“みんな”とは無論ネクストジェネレーションの少年少女。彼らが託されたはずの恋愛革命が今どうなっているのか? 愚問である。我々が抱える少子高齢化社会、恋人がいない・いらない若者の急増、日本の行き先の不透明さたるや言葉にならない。二〇二〇年を迎える頃、全女性の半数が五十代に足を踏み入れると言う。そんな中、我々はどうすれば恋愛革命なるものを起こすことが出来るのだろうか?

 伊坂幸太郎が言った、「勇気は伝染する」。もしも、我々を救うものがあるとすれば、それは勇気以外のなにものでもないのではないか? “草食系男子”と言う言葉が二〇〇〇年代に生まれたが、果たしてそれは本当のことなのだろうか? 古くから日本人は自分の気持ちを、愛を秘めることこそを美徳としてきたではないか。それが一体いつ歪んだのか? 時間を一九八〇年代後半に巻き戻して考えたい。我々、日本のその時代はいわゆるバブルに沸いていた。金・土地・株、目に見えるそれらが大きく膨れ上がり、はじけ飛んだことは多くの方がご存知の通りだ。

ここで再度仮定する。

もし、その時に“欲望”と言う名のバブルも暴発していたとしたら……?

現代の相次ぐハラスメント問題、横行する不倫、それらの主な主役はバブル期に若き日々を生きた人々だ。彼らの歪んだ欲望に、あのネクストジェネレーションが圧迫されているのだとしたら、もし、それが今ある日本の姿なのだとしたら――なんとかしなければならない。若い欲望は消えゆくろうそくのそれのように力がない。そして多くの若い女は白馬の王子様を待ち、それを見る若い男は指をくわえているだけ……。やがて愚かな女は自分の年齢のダブルスコアの既婚者と夜を共にする――こんな日本に未来はあるのか?

未来など、なければつくればいい。歴史など人間の日々の営みの連続に過ぎない。

例えば、あなたを日差しや雨風、寒さや暑さから守る建物。例えば、あなたを美しく、あるいはカッコよく飾る洋服。例えば、あなたの目と舌と心を奪う魅惑のディナー。それらは全て我々、人間が作ってきたものではないか。「求めよ、さらば与えられん」私たちはただ与えられてきたのではない。求めてゆく過程でまるで与えられたかのようにあらゆるものを手にしてきただけのことだ。

 だから作ればいい、我々の、私たちの未来を。



―運命の人ー

 日吉 亮は自室のベッドの上でスマートフォンで動画を見ていた。売れないお笑い芸人の、だからこそ抜群に面白いネタを見て身もだえしていた。亮が大学生の頃、「婚活」と言う言葉が生まれた。正式名称は「婚約活動」になるのか、あるいは「婚姻活動」になるのか知らないが。そこから数年、今度は「恋活」なる言葉まで生まれた。恋愛をして、結婚をして、家庭を持って子供をつくれと国に、社会にせかされている。労働の義務はあるが婚姻の義務など無論ない。だが亮たちが”草食系男子“と謳われ出した頃と同時に彼らに対して恋愛することを強いる空気が蔓延し始めたのは事実だ。オレ達は家畜でもなんでもないんだぞと憤りを感じる。

 別に恋がなくとも愛がなくとも、金があれば必要最低限のことは出来る。別に買おうと思えば女だって買える。学生時代、酔い潰れた連中が何人も横たわる通りで出稼ぎの売女に片言で「オニイサン、ドウ?」と言われたことを今でも鮮明に思い出せる。別の街では外国人だけでなく、えらい美人がたちんぼしていたことさえあった。無論、店に行けばより安全かつ安心にそれは買える。亮はスピッツの歌ったコンビニで買える「愛」はコンドームのことだと思っている。生と性をテーマにする彼らに持ってこいの解釈だと思っている。だがしかし、亮はその「愛」を愛する人に向けて使った経験が、ない。

亮はいわゆる素人童貞である。恋人は出来たことがない、二十七年間で一度も。そんな彼の人生のハイライトは十四歳。その時、亮は恋をしていた。相手は中学の同じクラスの女の子。悪友が彼女の家を特定して、告白しに行けとせっついた。

今でも忘れない。あの日は雨だった。ありていに言えばバケツをひっくり返したような。

噂を聞きつけて数人、友達の友達が集まった。冷静なら「いやいやお前らカンケーねぇだろ」と言えたのだろうが緊張の余りそこにさえ気が回らなかった。総勢五名の泥船艦隊は亮を除く四名の嬉々とした空気に包まれた。人の真剣な恋をつまみにしようとしていたのだからヤツらはくだらない連中だったと今では思う。週刊誌みたいだ。振り返ればそう言った感情を持つが、当時は彼女への告白、初めて誰かへ気持ちを打ち明ける機会だったものだから、体全体が心臓になったかのように脈打ち、その速度も尋常ならざるものだった。

覚えているのはシャンプーの香りと彼女の濡れた髪とおっぱい。互いに顔を真っ赤にして顔を直視できなかった。シャンプーの香りと濡れた髪は彼女が風呂上がりだったため。Tシャツの下のつつましい胸の印象が強く残ったのは、目を見ずに話す上で視線が自然とそこに向かったためだ。彼女の返答は「ノー」だった。好きな人がいるとのこと、仕方あるまい。亮は潔く引き下がった。

しかし、事態は想定外の様相を呈する。翌日、亮が学校に行くとクラスどころか学年中が亮が彼女に告白し、そして失恋したことを知っていた。廊下を歩く大して仲の良くない連中にまで冷やかされた。更にクラスでは「日吉が酒井を十回チラ見した」などと連日言われる始末。トドメは強烈だった。ある日の放課後、教室に忘れ物を取りに行くと彼女がいた。彼女の好きだと言った男と二人、半裸で。その僅か二週間後にはその二人は別れたと噂になった。自分が決死の覚悟で告白して玉砕した相手、そしてそれをヤリ捨てる男。それは亮に恋愛の食物連鎖をまざまざと見せつけるものだった。女はおろか男まで怖くなり、恋愛を諦めた。

『オレは恋なんてしない、なーんて思ってんじゃねーだろーな? このうすらトンカチ!』

 頭の中でキンキンとその声は響いた。内側から刺すような痛みに思わず頭を押さえる。

「えっ? なっ?」

『テンパってんじゃねーよ。テメェのその甘っちょろい精根叩き直してやろうと思ってな。出て来てやったんだよ』

 堂々とと言うには嘗めすぎ、親切と言うには恫喝まがいの言葉だった。しかもそれが頭の中で響くのだ。目の前には誰もいない。そのことに混乱することしか出来ず、おそるおそる口を開く。

「えっと、あの……どちら様で?」

『バカかどアホ! どちら様で? じゃねぇだろ! テメェが罵倒されてんのに、何が呑気にどちら様で? だよ?! テメェは去勢された犬か? まあそれであながち間違いねぇか? 現代を生きる絶食男子君』 

 怒涛、まさにそんな勢いで頭の中の声はたたみ掛けてきた。混乱し続ける亮に声は名乗った。

『オレのことはアベルって呼べ』

「……はあ」

『アベルって変わった名前ですね~、とか気の利いたこと言えねぇのかよ?』

 頭の中の声に気の利いたことを言えなどと学校で教わったこともなければ、親が教えてくれたこともない。よって亮は押し黙ることしか出来なかった。

『ったく……重症だな。オレの名前の意味が知りたいか?』

 もはやコイツ自分が言いたいだけやないか、と思いつつ興味がないわけでもないので、どんな意味ですか? と尋ねてみる。

『阿部・ルーカス・山本。略してアベル、だ』

 相当格好をつけている。無論格好がついたなどと思っているのはアベル当人だけで、全くもってカッコよくなどない。亮の中にシラケた風が一陣吹き去った。しかしその反応に気付くでもなくアベルは続ける。オレの正体が知りたいか? と。もう逆らうのが面倒なので従順にはい。と頷く。

『オレはお前の前世の魂だ。人間は皆、血縁関係で自分たちは生き繋いでいると思っている。それはある意味では正しい。自分のDNAを後世に残すのは大きな仕事だ。だがそうして残す体は入れ物に過ぎない』

「入れ物とは?」

『おー、いい返しじゃねぇか』

 アベルが少し喜んだ。

『オレたちが生きつなぐにあたって、魂は一度、一生涯の経験をリセットして来世、そしてまた次の来世において何度も使用される。リセットされた魂は新たな体を得て、後世に体と魂の双方を残す使命を古来より全うしてきた……しかし!』

 語調が激しくなる。感情のコントロールを度外視した激しい転調。

『テメェら現代人は何をしている? 四六時中スマホとにらめっこ。桑田佳祐は“四六時中も好きと言って“つったんだぞ? それがどうだよ? 真逆じゃねーかこの野郎! 自分の興味の範囲の物を画面の中に求めて、リアルな世界、互いが男と女をも求めなくなっている。テメェら一体、何考えてやがる?! このままいけば転生する魂はあぶれるぞ。子供が作られねぇと入れ物の体が出来ないからな……日本、終わるぜ?』

 アベルの最後の言葉に背筋がゾクリとする。日本が、終わる? そんなことあるわけ……。

『ない。とでも思ってるのか?』

 声に抑揚がない。人は本気で怒ると感情的になるのではなく、怒りのあまりその一切を内側にため込むと聞いたことがある。これが、そうなのか?

『オレは今、日本はそれぐらいの危機にあると思っている。テレビ番組でも見てみろ、知識・教養系番組ばかり。その主なターゲットはこれからの長い老後を見据える現在の中高年が相手だ。お前らを救う手なんぞどこにもない』

 一拍置いてクスリと笑みをこぼす。

『いや、オレがいたか。差し詰めその手を貸すならオレは救世主ってとこか?』

 今度は不敵に笑った。

「どうすれば……いいんだよ?」

『おっ、ちったぁ牙生えたか? とにかくまずはまあ我が身からだわな。なんとかしてみろよ』

 某日、大学時代のゼミのOB・OGの飲み会、そこに亮の姿はあった。憧れた先輩も、密かにずっと思いを寄せていた後輩もそこにはいた。パッと見、よりどりみどりだ。しかし亮の胸中はと言えばそれどころではない。この居酒屋の大部屋でひしめく自分たちが日本の未来を担っているのだと思うと胃が痛くなる。だがしかし、今日ここで誰か一人をものに出来なければ……。

『分かってんだろーな? 出来なきゃアレだぞ?』

 アレは止めてくれ! と心の中で叫ぶ。

『そんなことよりも女だ。焦るなよ、落ち着け。拙速は失敗の元だ。ヤりてえ女はいねぇのか?』

「おまっ……ちょっ! ヤりたいって!」

 思わず声にしてしまった。誰にも聞こえていないだろうかと左右を伺うがどうやら大丈夫そうだ。この喧騒に救われた形になった。しかしその様子に隣に座っていた安西美咲が訝しんだ。

「どうしたの、日吉君?」

 小首を傾げる仕草が抜群に可愛い。顔は正直ド真ん中ストライクと言う訳ではないが致し方ない。今日、一夜を共にするのはこの娘だ! しかしその度胸をすぐに出すことは出来ない。よって当たり障りのない返答になった。

「いや、別に、なんでもないよ」

 心の中でアベルに何をしゃべればいいんだよ! と叫ぶ。だがアベルは亮の恋愛偏差値を見定めるかのように黙りこくっている。ちくしょう、無駄口ばっか叩いて肝心な時に出て来やしない、これのどこが救世主だよ! 内心憤っていると強烈な耳鳴りがした。

「いでででで」

 マンガのようなリアクションになった。初めて声が聞こえてきた時と同じように頭を抑える。安西が亮の身を案じる。

「どうしたの? さっきからおかしいよ? 大丈夫?」

 大きな目に困惑の色。困らせてどうすんだよオレ、男だろ。そう思うと自然と言葉が出た。

「安西さ、本、好きだったよな」

「え? よく覚えてるね」

「いつもラウンジで読んでたろ? 覚えてるよ」

「えー、覚えてたんだ。嬉しいな。たまにさ、一緒に座ったりもしたよね?」

 古い記憶を辿る。そうだったような気もそうでなかったような気もする。

「そう、だったよな」

「なのに何も話したりしないこともあったし、変なのって思ってた」

 安西が顔をほころばせる。悪い意味じゃないんだろうな。えーっと……。

 それまでが魔法にかかっていたのかのように、次の言葉を失う。えっ? あれっ? なんで? さっきまで普通に話せてたのに……。焦る亮を横目に安西は後輩女子に呼ばれて去って行った。自分の情けなさに怒りさえ抱く。くそっ、と舌打ちしてトイレに立った。

 ドアを開けて用を足す。キレが悪い。本人が乗り気でなければコイツもそうなるのかなどと、思っているとアベルの声がした。

『今の、悪くなかったじゃなぇか』

「遅いよ~、もう手遅れじゃねぇかよー。なんで助けてくれないんだよ~!」

 強烈な怒号。

『バカか! オレはドラえもんじゃねぇぞ? テメェの道はテメェで開け、このどアホ!』

「だからっつって……日本の未来がかかってるんだろ?」

『お前ひとりが子孫残せなくたって変わりゃしねーよ』

 思わず怒りの一言が漏れる。

「どっちだよ⁈」

 うんざりしてアベルとの会話を打ち切った。こんなヤツにそそのかされてその気になったのがそもそも間違いだったのだ。オレは別に恋なんてしなくたって、などと思っているとまた耳鳴り。

「ちくしょ、あんにゃろ!」

 叫びながら男子トイレを出ると通路の向こうに二学年上の斎藤ありさがいた。ショートカットの涼やかな美形だ。ドクンと胸が高鳴る。理由は分かっている。何を隠そう、この人は似ているのだ。中学時代に恋したあの子に……。

 亮がフリーズしているとありさが微笑んで手をあげる。

「亮くん、どしたの?」

 どう答えたものか? まあしかし適当に誤魔化すしかあるまい。まさか頭の中で変な声が聞こえてそいつとケンカをして捨てゼリフを吐いたなどとは言えない。

「あー、いや。飲み過ぎちゃって」

「ダメだよー、男は酒に飲まれちゃ」

 とん、とありさが亮の肩を叩いてすれ違う。そして振り向いて一言。

「こっちの席来なよ。日本酒、頼んだから」

「あっ、そうなんすか」

「飲み過ぎちゃダメだからね」

 そう言うが早いかありさは手洗いへと去っていった。

至極楽しそうにアベルがゲラゲラと笑い声をあげる。

『アイツとヤりてぇのか? いい女だもんな~。でもな~、おめぇじゃ無理だわ~』

余計なお世話だ! と心の中で言葉を叩きつけて宴席へ戻る。しかし、

困った。ありさがどこに座っていたかが分からない。仕方なく元の席に戻って酒を飲み続けた。その間、何度か女が隣に座り、その倍ほど両サイドに男が来た。この日の飲み会で、亮がパートナーを見つけることは出来なかった。

 一人情けない帰り道を歩いていた。自分の無力を呪う。たった一人、女の子と接近するだけの術を持たない自分の弱さが憎かった。勇気がない。男として、最低だな。そんな思いが胸に渦巻いたので二次会には行かなかった。情けない。ホントに、情けない。とぼとぼとうつむく。だがしばらくすると、後ろからカツカツとヒールの高い音が響いた。その荒々しさに反応してのろのろと振り向く。

その先には、安西がいた。なぜ安西が現れたのかが分からず、珍獣でも見つけたのかのような間抜けな顔になる。その顔を見てクスリと安西が笑い声を立てた。

「変な顔」

「うるせぇな」

 こちとら虫の居所が悪い、多少口も悪くはなるだろう。

「ねぇ」

「あ?」

「本屋さん、いかない?」

「本屋?」

「うん、ダメかな?」

「別に、いいけど」

 二人で駅ビルの中にある本屋に入った。安西はこの店に慣れているのか、雑誌コーナーを抜け、ビジネス書コーナーを抜け、文庫本の小説が並ぶ棚までぐいぐいと歩いた。あまりのスピードにいつの間にか背筋がしゃんとした。

「どんなの、読みたい?」

「えっ……んーと」

 今、純粋に興味のあるものは恋愛だ。どうやって女性を手に入れればいいのか知りたい。しかし恋愛小説など、所詮、机上の空論だ。そんなものを読んで攻略法など知れるはずはない。だが……。

「恋愛モノ、読んでみたい」

 気付いたら、そう言っていた。恋愛とは一体どういうものなのか? 男と女がいて、どうして二人は互いを強く求めあうようになるのか? 自分が昔々にふたをして失くしてしまった感覚だから、それを知りたいと思ったのだ。

「ふうん、意外。推理モノとか好きそうなのに」

「いや、なんつーか、恋ってなんなんだろう、って」

「変なこと考えてるね」

 安西がいたずらに微笑んだ。

「でもホントだね。恋ってなんなんだろう? いつか絶対に覚める、終わりのある夢だよね」

「終わりのある……夢?」

 不思議そうな顔をすると安西が顔をしかめた。

「だって、そうじゃない? どれだけ相手が好きで、長い時間一緒に過ごしても小さなことでその人のことがどうでも良くなる瞬間って来ない?」

 これは”恋“をしたことがあっても、”恋愛“をしたことのない亮には分からない話だった。

「どうせ嫌いになるんなら、初めから好きになんてなりたくない?」

「そう思う時もある」

 アベルが叫んだ。

『いけっ!』

 その言葉に後押しされる。

「もう少し、話さない?」

 安西が驚いた顔をする。それを見て亮はひるむ。やっぱりダメか、と。

『諦めんな! 驚いてるのは拒絶からじゃない、戸惑いからだ。相手の出方を見て、隙を見つけたら飛び込め!』

 おう! と心の中で応じる。

「安西の、話が聞きたい。オレも恋をするのが怖いんだ。だから、同じようなことを考えてる安西の話が、聞きたい」

「私の、話?」

「うん」

「ヤらしいことは考えてない?」

 また安西が首を傾げる。正直に言おう。

「ほんの少し、考えてる」

「なにそれ」

 安西の顔がほころんだ。それを見て胸がグッと締め付けられる。オレにもまだ、こういう感覚が残っていたのかと驚く。

「だからどっか、酒は飲ませすぎちゃいけないからカフェでも行こう」

「普通に二軒目でいいよ」

 安西が髪を耳にかける。

「えっ、じゃあ」

 スマホを操作して安西と店の相談をする。肩を寄せ合って画面を見る。安西のぬくもりが伝わってきて、何か、言葉にできない想いがせりあがってきた。たまらず安西を呼んだ。

「安西!」

「なに?」

 この想いを表す言葉があるとするなら、これしかないだろう。

「好きだ!」

 見つめ合っていた安西が頬を赤らめて目をそらす。

「誰にでも言ってるでしょう?」

「ううん、人生で二回目」

 今度は怪訝な顔。

「一回目は?」

「十三年前」

「古くない?」

「古いよ! オレ勇気出したんだよ、それくらい!」

 必死な様子が伝わったのか安西が全身を軽く揺すらせて笑う。

「私も、日吉君のことが知りたい。日吉君が私に言ってくれたみたいに」

 二人で手をつないで歩きだす。いつの間にか、アベルの声は聞こえなくなっていた。心の中で彼に礼を言った。ありがとう、恋って悪くないな。


おはようございます、こんにちは、こんばんは。 あなたの逢坂です。 あなたのお気持ち、ありがたく頂戴いたします(#^.^#)