おじいさんとポニー

おじいさんとポニー

逢坂 志紀
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おじいさんとポニー


 昔々、あるところに一人のおじいさんと子馬のポニーが一緒に暮らしていました。おじいさんは大変に勉強熱心で、毎日ポニーに乗って老人学校へと通っていました。

 ある日、ポニーはおじいさんに尋ねました。

「ねえ、おじいさん。おじいさんはどうしてそんなに勉強するの?」

 おじいさんは答えます。

「ポニーよ、それはね、知らないことが怖いからだよ。私はこの世界に知らないことがあるのが怖いんだ」

 ポニーにはどうして、おじいさんがそんなに知らないことを恐れるのかが分かりませんでした。それでも毎日ポニーはおじいさんを乗せて老人学校へと向かいます。

 ポニーはある時思いました。そう言えば、僕はおじいさんの誕生日を知らないぞ、と。暖かな春のその日、庭の隅にあるポニーの小屋の前で本を読むおじいさんにポニーは尋ねました。

「おじいさん。おじいさんの誕生日っていつなの?」

「ん? 私か? 私の誕生日は冬の始まりの日だよ」

 おじいさんはそう言うとすぐに本に向かいます。日差しがすでに刺すように痛く、おじいさんは目をしょぼしょぼさせています。しかし突然おじいさんはポニーに向き直ります。

「おい、ポニー。私も君の誕生日を知らないよ」

 知らないことが怖いおじいさんはおおいに取り乱しました。ポニーはおじいさんの知り合いから譲られた子馬なので、おじいさんはポニーの誕生日を知らなかったのです。ポニーはそんなおじいさんに優しく言います。

「おじいさん、僕の誕生日はね、夏の真ん中のある日だよ。今年はお互い一緒にお祝いしたいね」

 ポニーの言葉におじいさんは涙をこぼします。

「こんなにそばにいる大切な存在のことを知らないのに、私は一体何を知ろうとしていたのだろう? なんて愚かなことをしていたのだろう? おお、ポニーごめんよ。私は君をもっと大切にするべきだった。ごめんよ」

 おじいさんは閉じた本を脇に抱えて、ポニーの頭を撫でます。ポニーは嬉しくてひとつヒヒン、と鳴きました。

「おじいさんのことを知らなかったのは僕もだよ。おじいさんは勉強をやめないでね。勉強熱心なおじいさんが僕は大好きなんだ」

「ポニー、ありがとう」

 そう言うとおじいさんはポニーの首に手を回して柔らかくポニーを抱き締めたのでした。

Fin

おはようございます、こんにちは、こんばんは。 あなたの逢坂です。 あなたのお気持ち、ありがたく頂戴いたします(#^.^#)