「カーボン・オフセット」だけでよいのですか?
再び気候変動問題の高まり
ここ数年、気候変動問題への社会的な関心が、再び高まり始めています。その中で「カーボン・オフセット」「カーボン・ニュートラル」といった取り組みを新たに始める企業も増えてきています。
2008年に私がツバルの森を創業したときは、「カーボン・オフセット専門のマーケティング会社」という事業内容で、他の人に「カーボン・オフセット」と言っても、「なにそれ?」「オフセット印刷の一種?」といった反応がほとんどで、それが環境に関する単語ということを知っている方は少数でした。
10年前は「カーボン・オフセット」の認知度が低かった
当時は、「カーボン・オフセット」という言葉は、環境に敏感な人が知っている程度で、そういう認知レベルの状況で、企業等が「カーボン・オフセット」を実践することは、環境意識の高さを表すのに優れた手段だったと言えます。イノベーター理論で言うところの「アーリーアダプター」です。
それから約10年経ち、「カーボン・オフセット」は、「アーリーアダプター」から「レイトマジョリティ」的な感じに落ち着き、以前のような先進性を示しずらくなってきているように思います。
炭素税が導入されると「カーボン・オフセット」も終わり?
とくにこれからは、「炭素税」のように、環境負荷を排出している量に対する税金のような感じの仕組みが導入され、強制的な「カーボン・オフセット」が始まっていくと、他社との差別化が難しくなってきます。
すでに施行されている家電リサイクル法のように、テレビや大きな家電を購入した際に、前に使っていた商品を引き取ってもらうには、法で定められたリサイクル料金が必要となるのと一緒です。5000円のリサイクル料金を払おうが、10000円分払おうが、その金額の大小には、企業への評価は何も紐付かない。
アメリカのGAFAMのように、「自社やデータセンターで使う電気は、自分で太陽光や風力で作る」というのが当たり前となれば、IT系の業種で再生可能エネルギーを導入するすることに、あまり新鮮味はありません。
「カーボン・ポジティブ」が必要
今後は、「カーボン・オフセット」ではなく、「カーボン・ポジティブ」の取り組みが重要になると考えています。
イギリスの童話「ピーター・ラビット」の作者ビアトリクス・ポターが、ピーター・ラビットの印税を原資に、イギリス湖水地方の自然を買い、絵本が売れるごとに、自然の広がりにつながっていきました。
こういう構造の環境保全ができると面白いと思い、2008年に設立したのがツバルの森でした。環境保全手段を組み合わせることで、たんなる「カーボン・オフセット」だけでなく、環境負荷以上の環境価値を作り出すことができます。
「カーボン・ポジティブ」は、それと似たような発想です。事業が拡大すればするほど、商品・サービスを利用すればするほど、環境がよくなっていく、というようなイメージです。
トヨタが、水素をつかった燃料電池自動車「MIRAI」を発売しています。この車は、2000年代、当時の渡辺捷昭社長が掲げられた「走れば走るほど空気がきれいになる車を作りたい」という思いから始まったものです。実際に販売されたさには、このような空気浄化機能も実現されています。
この事例のように、「環境負荷分を相殺するカーボン・オフセット」よりも、「環境負荷以上の環境を創出すること」を実現する方が、インパクトがあり、そういう発想の環境の取り組みを行えば、企業価値としての評価も高まりやすいと考えています。