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『実践的CXM』を読んで - NPSはCX最適化にいかに役立つのか?

SaaS市場が大きく拡大していく今後、そしてマーケティングが複雑化する中で、「顧客体験(CX)」に熱い視線が注がれている。

そうなれば「いかに顧客体験を設計するのか」「どのようにマネジメントするのか」が課題となる。海外では20年ほど前からカスタマーサクセスの概念はあったというし、CX自体新しい概念ではない。

しかしAppleやZapposを筆頭にエクスペリエンスデザインが進んだ海外と異なり、日本では最近やっとカスタマーサクセスが盛り上がりを見せ始めるなど、まだ知見が足りていない部分も多い。

僕自身CXを扱っていこうと考えており課題意識があったため、今回はこちらの書籍を読むことにした。

本の内容を要約しつつ、補助するように自身の経験や感想を書いていきたいと思う。

CXM(カスタマー・エクスペリエンス・マネジメント)の本質

CXMのミッションは「顧客体験最適化」だ。実施するにあたり念頭に置いておいた方が良いのは、下記になる。

「やるべきことを見極め、やらないことを決める」

選択と集中はビジネス全体において重要と様々な書籍で語られているが、CXMにおいてもカギとなる考え方。なぜ本質的ともいえるほど重要なだろうか。

「業務遂行」と「利益 / 利益率向上」の2点で読み解くと理解しやすい。

■ 「業務遂行」の観点

カスタマーサクセスのイベントに時折足を運んでいるが、過去参加した中で、下記記事のイベントでトレタの鈴木さんが言っていた「カスタマーサクセス活動の生産性を上げなければ、未来はない」(詳しくは次の記事を参照)が印象的だった。

カスタマーサクセスは「顧客の成功」を目的とする概念であり、職種でもある。その中である種「顧客の成功のために、思いつくことはすべてやる」みたいな、なかなかストイックな方も多い。

しかしながら、いつまでもマンパワー偏重では当然限界(拡張性、リソース)がある。これはCXにおいても同じで、その上CXは購入前〜購入後、なんならその後も見渡し続けることになるのだから、大手企業のように(スタートアップやベンチャー、スモールビジネス事業者から見て)莫大なリソースを持った企業でもない限り、とてもじゃないけどやりきれない。

■ 「利益 / 利益率向上」の観点

利益率の高さとは、単純化すれば投下した費用に対してどれだけの利益が得られたかだ。「業務遂行」がよりラクにハヤく、スクなくこなせると当然良い。

もうひとつ重要な観点が実際に「利益」を上げることである。

「やること」と「やらないこと」を定めると利益が上がるのは、最も利益に直結している点に最大限リソースを投下できるからであり、ボトルネックを解消できるからである。

ボトルネックの解消をすれば、それだけ顧客は良い体験を得られているはず(というかそうでなければCXMとしては失敗している)。ではどのようにボトルネックを発見するのか。そしてCXの改善管理ができるのだろうか。

結論から言うとこの本ではNPS(ネット・プロモーター・スコア)をCX最適化のアプローチとして紹介している。

なぜCXにおいて満足度調査ではなくNPSが重要なのか?

NPSの話に入る前に、次の2点を押さえておくと、「NPSが重要である理由」がわかりやすい。

■ 顧客の「満足」には2種類ある

聞いてみればなんら驚くことはない事実であるが、思っているよりも多くの人が混同しがちな事実がある。満足には種類があるのだ。

頭の満足(合理的に満足をした顧客)と心の満足(感情的に満足をした顧客)がいるという(ジョン・H・フレミング,Harvard Buisiness Review,2005)。

そして次は耳にすると驚くべき事実と感じるが、自分の体験を振り返ってみれば「たしかに」となる事実がある。

心で満足しているほうが月の支払い額が大きいのだ。心で満足をしている顧客のほうが、頭で満足している顧客に比べて、企業の利益に貢献しているということだ。

これは近年注目される「カスタマーサクセス」のミッションである、「LTV向上」と「チャーンの抑制」をイメージするとすんなり理解できるのではないだろうか。

最近よく取り上げられるD2Cでも「ブランド」「ストーリー」「価値観」といった言葉が消費者の選好に大きく影響するという。CXにおいても、企業やプロダクトに対して持たれるイメージを意識せざるを得ない。

■ 総合的な満足度調査の欠陥

多くの企業がアンケート形式で満足度調査を実施している。だが「満足の種類」で書いたように2種類の満足があり、「満足度調査」ではそれを見抜きづらく、回答内容と実際の行動が一致しないように思えることも多い。質問の文言にも、回答内容が左右される度合いが大きく、難度が高いと思う。

さらに口コミによる推奨においても、自分が満足したからといって他者が満足するとは限らない。「私が気に入っているから、あの人に進めよう」とはそう簡単にはならない。友人に勧めたは良いものの「いや、最悪だったよ」と言われてしまったら、推奨者もつらい。

下手な満足度調査を実施して自己満足するのではなく、もっと丁寧に全体の体験を構成する各要素をひとつひとつ見ていく必要がある。その上でNPSが役立つのだ。

NPSで現在の顧客体験を測る

さて話を戻すと、「ボトルネックの特定と解消にあたってポイントとなるのがNPS」との話だった。

かなり興味深かったのが、NPSと累計購入額の相関の高さだ。本で紹介されている「とある小売業の事例」では、なんとNPSがひとつ上がるごとに総利用金額(=  LTV)が2.4万程度上がっていたとのこと。これには驚いた。

ただそもそも推奨意向があまりない顧客のNPSを1点あげるよりも、ロイヤルカスタマーとなりそうな顧客から着手したほうが、中長期的に見ても売上に直結することは間違いないだろう。

読んでいるとNPSを測りたくなってくるが、NPSはあくまでツールのひとつであり、計測するのはあくまでプロセスのひとつ。計測した後に顧客体験を細分化して捉え、どのポイントがボトルネックになっているのかを発見するのが課題解決に繋がる。

NPSを測っておくことで売上とCX最適化の相関、因果関係の仮説が立ちやすくなる。数値化の大きなメリットのひとつは言わずもがな尺度を与えることにあり、CXMにおいては導入しておいたほうが良い指標のひとつだろう。

その中で冒頭で紹介した「やるべきことを見極め、やらないことを決める」ことができ、効果的なCXMが実現するのだ。

まとめ

CX Designerを目指すにあたって、読んで置いてよかったと思える本だった。感覚知であったり、概念的な理解ではどうしても限界がある。

CXMは決してひとりでおこなうものではない。インサイドセールスやカスタマーサクセス、マーケターなどの顧客により近い職種の人はもちろん、エンジニアやデザイナーといったプロダクト開発チームの人とも協力することがあるだろう。

そうなった時に全員が同じものを見ながら進めるためにはやはり指標化が重要で、CXというある種「感覚的なもの」を仮説検証していくにあたって、NPSは有効な計測手法であるように感じられた。

この記事はここで終わりとなるが、書いている中で、いくつか面白そうな書籍を見つけたので、下記にまとめておいた。他にもいくつかあるのだが、ひとまず6冊ほど記載しておこうと思う。

次読むと良さそうな本


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