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『マッピングエクスペリエンス』を読んで -CXが機能しない最大の原因とは? -

イベントなどでカスタマーサクセス担当者と話すと、「会社の理解が得られない」と辛そうに漏らす人が多い印象がある。自分自身、カスタマーサクセス(概念)をいかに浸透させるかに相当苦心している。

顧客視点やマーケティング視点の欠如を、リーダーシップの課題でもあると考えているが、一方で具体的な施策としてどうするかも考えていかねばならない。リーダーシップは在り方であり、発揮するものだから。

その点、今回読んだ『マッピングエクスペリエンス』は下記のテーマを掲げており、一読の価値があると感じた。

「根本にあるのは連携不備の問題」
「各部署が共通の目的をもたず、現実離れした解決法が構築され、顧客の体験よりも技術的な事柄に焦点が当てられ ---」

当たり前だが、顧客に不愉快な体験をさせたい企業などない。それはひとりの人間としてもそうだし、企業としても理にかなわない。

サービス開発に携わるメンバーの熱意がしっかり顧客への貢献にフォーカスされるように、認識共有基盤の構築は必須だと考え、まとめることにした。UX / CXなどX(エクスペリエンス)とつくものには役立つ内容だ。

※なお今回は個々のダイアグラムの具体的な制作方法については触れないのでご了承を

連携において必須の3要件とは?

著者のJames Kalbachによりと連携する上で次の3つが大切だという。

1.顧客に提供するサービスや製品はインサイドアウトではなく、アウトサイドインの視点で見つめる
2. 全部署、全レベルで組織内の職務を連携する
3. みんなのリファレンスとしてマップを作る

何も珍しい話ではなくて、部活動から経営にいたるまで、目指すものと行動指針を定めなくては統率のとれた一貫性のある動きはできない。MVVなどはその最たるものだろう。

カスタマーサクセスの文脈では、Blue Bible、日本では通称青本(下記記載)の著者であるダン・スタインマン氏が「まず経営者に読ませよ」もおっしゃる通りですとしか言いようがない。

カスタマーサクセスもそうだが、体験を最適化していく際の最大の課題は部署間の分断だと言って差し支えないくらい、連携の不備はパフォーマンスに影響する。

連携を構築し、より強固にしていくにあたって役立つ様々なツールを紹介しているのが本書というわけだ。

ツールの種類

本書ではいくつかのツール(可視化方法)が紹介されている。それぞれについて詳しく語ることはしないが、列挙する形で記載しておく。

と、その前に文章中に多々登場する「アライメントダイアグラム」について、本書の言葉を借りて書いておくと、

個人と組織、それぞれの側から見た価値創出を一箇所にまとめて示したマップやダイアグラムなどの視覚表現のことで、人と組織のインタラクションを図示したダイアグラム群全体を指す呼称です。(p.4)

と書かれているわけだが、ここでポイントなのは太字にしておいたように、「インタラクション」である。James Kalbach氏の課題意識が「連携不備」であることを考えれば、理解しやすい。

代表的な5つのダイアグラムが下記。

・サービスブループリント
・カスタマージャーニーマップ
・エクスペリエンスマップ
・メンタルモデルダイアグラム
・空間マップ

いくつかは耳にしたことがあるのではないだろうか。

アラインメントダイアグラムを制作するにあたっては、当然リアルとかけ離れたものではあってはならない。組織体系や動きに沿ったものであり、現場と乖離がないものでなくては機能しない。

その際の重要な質問として、本書ではいくつかの質問を紹介している。その中から3つ記載しておこう。

・我々の組織の使命は何か?
・我々の組織はどのような発展を望んでいるのか?
・どんな市場や顧客を対象としたいのか?

これらの質問は、ドラッカーの『経営者に贈る5つの質問』あたりを読めば、自ら生み出せるようになる。間違いなく事業責任者レベルで事業を見る目を養うことの一助になるだろう。

事業発起人であれば基本的には答えられるはずだが、どうしてもいち従業員の意識ではしっかりと理解できていないことが多々ある。しかしサービス開発やグロースに携わるのであれば必ず理解しておくべきことだ。

現状をきちんと整理したり、関係者にヒヤリングするなど、下準備は十分にすべきだろう。

なお重要なのは連携を強化することであり、可視化が目的ではないので、その点は留意してなければなるまい。

ZMoT - 顧客が心ゆさぶられる瞬間 - を生み出せ

最後にエクスペリエンスデザインと最適化において重要なMoT(Moments of Truth)について紹介しておく。「決定的瞬間」と日本語では訳されるこの言葉は、言い換えれば「顧客の心をゆさぶる瞬間」だ。

エクスペリエンスデザインの観点でMoTを見つけるのが、PMFやイノベーション伝播において大きな意味を持つし、なにより醍醐味。

『ジョブ理論』の冒頭で語られるように、イノベーションを再現可能にする方法があるとしたら、丁寧緻密な顧客課題の理解に他ならならず、それは人の介入がなくてはならないのではないだろうか。イノベーションを起こすのはデータではなく、人だ。

少し余談をしよう。従来製品中心で生産者主導の(マーケティング1.0)が企業の販促活動のイズムだった時代には、MoTは「認知」「購入決定」「体験」の3点で構成されていた。

現代は全く様子が異なる。コトラーが指摘してきた通りマーケティングには消費者志向(2.0)→ 価値主導(3.0)→ 自己実現(4.0)と変遷があり、人々の行動様式や認識も変化した。SNS全盛期となり、チャネルが多様になり、SaaSのサブスクリプション、エンゲージメントの重要化と進んでいった結果、体験は複雑化し、MoTの発見はより困難な課題となったに違いない。

本書で『Consumption Values and Market Choices(消費価値と市場選択)』をもとに紹介されている通り、顧客が価値を感じる瞬間には大きくわけても次の5つがある。

・機能的価値
・社会的価値
・感情的価値
・認知的価値
・条件付きの価値

機能的価値は純粋にプロダクトとしての実利的価値だが、他の価値については高く感度の良いアンテナを張り巡らす必要があるだろう。「デザイン」とつく概念に頻繁に文化人類学的視点が持ち出されるが、エクスペリエンスデザインは人間理解の営みだといえる。だからこそ非常に高度な共感性が求められる。

価値については様々な書籍や論文で分析されているだろう。今後価値についても理解を深めていかねば、クリティカルな見落としをすることもあるかもしれない。混乱時のリファレンスとして知っておくに越したことはない。

メモとして関連しそうな文献を3点ほどここに記載しておく。

終わりに

ダイアグラムについての書籍であることは理解して購入した。しかしバックボーンをのぞきみると、「サービスと組織、そして個人がいかに相互作用を及ぼすのか」「現代において人が感じる価値の種類とタッチポイントはどこに存在するか」などかなり奥深い内容であることがわかる。

連携こそが価値の伝達を阻んでいるとしたらそれは由々しき時代で、僕自身の経験上からも、連携に不備がある組織が良いものを良きように届けられるわけがないと考えている。

リレーションマネジメントが重視される今後、多くのステークホルダーが関わればそれだけダイアグラムも複雑化し、情報の点在や偏在がビジネスをおこなう上で課題となるに違いない。

その際、組織が組織として機能することを助けてくれるのがツールとしてのダイアグラムであることが今回は理解できた。






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