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天才をうみだすのは才能?それとも努力? ―― モーツァルトの才能が華ひらいた3つの理由

 日本のスポーツ界で例をあげれば、テニスの錦織選手や、レスリングの吉田選手や、野球のイチロー選手など。どの分野にも誰もが羨望のまなざしを向けるカリスマ的な天才がいるものです。彼らが恵まれた才能を持っていることに疑う余地はありませんが、才能だけで現在の地位を築いたわけでもないでしょう。たゆまぬ努力があってこそ、第一線で活躍し続けられているのは想像に難くありません。

 モーツァルトといえば枕詞のように「神童」という単語がセットで語られるほど、天賦の才能に恵まれた音楽家として知られています。わずか35年の短い人生だったにも関わらず、彼が人類史上最高の天才音楽家とまで評価されるほど才能を華ひらくことができた要因はどこにあったのでしょうか。モーツァルトの天才性を少し紐解いてみましょう!

〔その1:父からの英才教育〕

 何をさしおいてもヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの素地をつくったのは、父レオポルトによる英才教育であることに疑いようはありません。ザルツブルクでヴァイオリニスト兼作曲家として活動していたレオポルトは、幼き我が子の才能を見ぬいて4歳からレッスンをはじめ、わずか6歳で女帝マリア・テレジアのもとで御前演奏を披露するまでに育て上げます(当時7歳のマリー・アントワネットに対し「僕のお嫁さんにしてあげるよ」とモーツァルトが“プロポーズ”したのは、このときのエピソード)。

 英才教育の素地をもとにモーツァルトはその後も順調に成長。若干16歳でザルツブルクの宮廷楽師長になり、有給のプロフェッショナルな作曲家としてするまでに成長しました。ベートーヴェンが作曲家として活動を本格化させていくのは20代半ば以降であることを考えれば、いかに早熟であったかお分かり頂けるかと思います。

〔その2:過去へのリスペクト〕

 しかし早熟なだけでは、単なる有能な作曲家としか評価されなかったかもしれません。モーツァルトが天才として能力を深めていったきっかけのひとつが、「バッハヘンデルの音楽」との出会いです。

 クラシック音楽というジャンルは、現在であれば過去の音楽を演奏するイメージがあるかと思いますが、当時(18世紀)は既に亡くなった作曲家の音楽をコンサートで取り上げることは比較的珍しいことでした。そもそも楽譜が出版されている楽曲が少ないため、演奏をするためには遺族から楽譜を借りたりする必要もあったぐらいですから、取り上げたいと思っても、そうおいそれとは演奏できなかったのです。またバッハとヘンデルは、モーツァルトからすれば70歳も年上の存在でしたから、ほとんど接点がなかったのも不思議ではありません。

 彼らの音楽との出会いを作ってくれたのは、本職は外交官でありながら、バロック時代好きの音楽マニアとしてバッハやヘンデル作品の楽譜を収集していたスヴィーデン男爵という人物でした。男爵主催で開かれる音楽会でバッハとヘンデルの音楽に魅せられたモーツァルトは、すぐさま彼らの音楽を編曲したり、作風を模した作曲をしたりしました。しかしながら、それらほとんどは試作や習作に留まり、すぐに大きな成果に結びつくことはありませんでした。けれども、この時に撒かれた種は後に大きな実をつけることになります。

〔その3:リビングレジェンドとの出会い〕

 撒かれた種が発芽するひとつのきっかけとなったのは、同時代を生きる偉大な作曲家との出会いでした。その作曲家の名はフランツ・ヨーゼフ・ハイドン ―― 皆様ご存知、のちに交響曲の父として知られるようになる作曲家です。

 実は、ハイドンには弦楽四重奏の父としての側面もあるのですが、彼の作曲した弦楽四重奏曲 Op.33――通称『ロシア四重奏曲』――に触れたモーツァルトは衝撃を受けます。ハイドンは、バッハやヘンデルの様式と、当時の様式を絶妙なバランスで結びつける「完全に新しく、特別な作法で(※ハイドン本人談)作曲していたのです。

 この作品に刺激を受けたモーツァルトは、それまでの速筆ぶりが嘘のように、2年余りの試行錯誤を繰り返し、ハイドンに捧げるための6つの弦楽四重奏曲――通称「ハイドンセット」を作曲したのです。その時、モーツァルトは29歳でした。


 これ以後、30代を迎えたモーツァルトは亡くなるまでの残り6年間に、歴史上稀にみるような大傑作の数々を、次々と作曲していきました。60代で亡くなったバッハにも、50代で亡くなったベートーヴェンにも全く引けをとらないような作品を、30代で作曲することが出来たのは、短い人生のなかでも幸運な出会いが重なったからではないでしょうか。

〔オススメ演奏会 その1〕

ハイドンから刺激を受けて、2年がかりでモーツァルトが作曲した
「ハイドン・セット」の1曲(第14番)が聴けるコンサートはこちら!
戦後の日本音楽界を牽引してきた4名の音楽家による
結成20年超のカルテットによる贅沢なサロンコンサート。

【出演】
久保陽子(第一ヴァイオリン)
⇒チャイコフスキー、パガニーニなどの国際コンクールに上位入賞し、ソリストとして国内外で演奏。東京音楽大学元教授。2014年にはローマ法王の前で御前演奏もしている。
久合田緑(第二ヴァイオリン)
⇒ガラミアンやスターンらに師事し、ソリストや室内楽奏者として国内外で活躍。相愛大学教授、東京藝術大学講師、京都市立芸術大学教授、大阪音楽大学教授を歴任。
菅沼準二(ヴィオラ)
⇒巌本真理弦楽四重奏団元メンバー、NHK交響楽団元首席奏者、東京芸術大学名誉教授など、要職を歴任。
岩崎 洸(チェロ)
⇒カサドやチャイコフスキーなどの国際コンクールに上位入賞し、ソリストやとして国内外で活躍。ローズ、カザルスらに師事。イリノイ州立大学や桐朋学園などの教授も歴任。

2016年2月19日(金) 18:30開場 19:00開演
モーツァルト/弦楽四重奏曲 第14番 ト長調 K387
ウェーベルン/5つの楽章 作品5

2016年2月20日(土) 17:30開場 18:00開演
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲 第15番 イ短調 作品132

会場ToViC(文京楽器小石川店)
料金
…一般 3,000円/学生 2,000円/2日間セット券 4,000円
   ※各回定員30名様(要予約)
お問合せ・ご予約…03-5803-6969/メールフォーム
※ご予約の際は、以下の内容をご記入ください。
 ・お名前/メールアドレス/お電話番号
 ・お問合わせ内容:「コンサート&イベント」を選択
 ・記入欄:1.公演名「JSQのQuartet days」
      2.公演日
      3.人数(一般○人、学生○人 または2日間セット○人)

〔オススメ演奏会 その2〕

モーツァルトが晩年に作曲した室内楽の最高峰
クラリネット五重奏曲》が聴けるコンサートはこちら!

ロサンゼルスフィルハーモニー管弦楽団の
首席ヴィオラ奏者や副指揮者を歴任し、
現在はサンタバーバラ室内管弦楽団の音楽監督、
シャネル・ピグマリオン・デイズ・室内楽シリーズ・アーティスティック・ディレクター、Music Dialogue 代表などをつとめる大山平一郎を中心に、
日本音楽界の未来を背負って立つ期待の若手奏者たちとの共演。

【公演概要】Music Dialogue@東京国立近代美術館
 日時…2016年2月27日(土)15:00開演 (14:30開場)
 会場東京国立近代美術館 講堂
   (東京メトロ東西線竹橋駅 1b出口より徒歩3分)
 出演…水谷晃(ヴァイオリン)枝並千花(ヴァイオリン)
    大山平一郎(ヴィオラ)加藤文枝(チェロ)吉田誠(クラリネット)
 曲目…ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第8番 ハ短調 Op. 110
    モーツァルト:クラリネット五重奏曲 イ長調 K581
 料金…一般 4,000円/学生 2,000円
 主催一般社団法人Music Dialogue
 申込https://pro.form-mailer.jp/fms/904c5e4691068
 お問い合わせinfo@music-dialogue.org

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小室 敬幸
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