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「親ガチャ」について

最近、SNSでは「親ガチャ」という言葉をよく目にします。とある先生によると、大学生同士の会話にもこの言葉が頻繁に出てくるそうです。そこで、今回はこの親ガチャについて考えてみたいと思います。

そもそも、親ガチャとはどういう意味なのでしょうか。おそらくその期限をたどると、いわゆるガチャガチャと言われるものになると思います。お金を入れて、スロットを回すとカプセルが出てくるやつですね。あるいは、ソーシャルネットゲームなどのガチャかもしれません。お金を積んで、つまり「課金」してガチャを引くと、レアキャラがあたるかもしれないやつです。キャラのレアリティが高ければ高いほど、攻撃力が強かったりします。このようなガチャと親ガチャはどのような関係があるのでしょうか。

その関係とはおそらく、どんな親のもとに生まれるかどうかは自分で選べないが、どのような親のもとに生まれてくるかによって人生は決定されてしまうという、抽選的な関係です。たとえば、自分がお金持ちの親のもとに生まれるか、あるいは貧しい家のもとに生まれるかは選べません。これはもう運です。ガチャです。しかしながら、このガチャによって、人生は決まってしまうというのです。

お金持ちに家に生まれたら、自分が幼い頃から教育にお金を使ってくれるだろうし、習い事もさせてくれるかもしれないし、自分はその結果いい大学に入れるかもしれない。そうすると、一流企業に入れて、社会的に成功できます。しかしながら、貧しい家に生まれてしまったらそうはいかない。そもそも大学にも行かせてもらえないかもしれないし、社会的に成功しないかもしれない、そしてこの成功するかしないかはもう親ガチャにかかってるとしか言えない。

だいたいこのようなことが、親ガチャの意味するところかなと思います。
このようない意味で親ガチャを理解した時、私はいつもロールズという哲学者を思い出します。
ロールズは『正義論』という主著において、似たようなことを言っています。
彼によると、社会で成功するかしないかは運なのです。

第一に、どんな家族の元に生まれるかで、努力できるかどうかも変わってきます。たとえば、自分の知能が高かったとしても、さらにその才能を磨けるような環境がなければ意味がありません。第二に、自分がどのような才能をもって生まれてくるかも運です。もっと他にもあるんですけど、だいたいは運に収束されます。

このようなことをロールズは述べるんですけど、その目的は先にあります。
目的は社会制度を変えることと、人々が尊厳や謙虚さを失わないようにすることです(後者の話は今回は紹介しませぬ)。

もうこの運というのはどうしようもないのです。運を取り除くこともできなければ、コントロールすることもできない。人間の力では状況を変えようがないのです。しかし、変えられるものもあります。それは社会制度です。人間は、ある特定のルールや法律、制度の中で生きています。このような制度は、人間が作ったものです。このような制度は変えることができます。
競争の結果、たまたま運がよくて勝った人と、負けた人が出てしまう。このような結果になるのはどうしようもないことです。しかし、負けてしまった人を救う制度は作ることできます。あるいは、勝った人だけを優遇するような制度があるならば、変えるべきだし、なくすべきです。社会制度は変えられることができるので、ロールズは正義の二原理という社会制度を打ち立てます。

あらためて、親ガチャについて考えてみると、この言葉はロールズが言っていた運の話に近いことがわかります。ただし、ここでロールズがしたかった話は、社会制度の話です。つまり、極端に言うなら「親ガチャはどうしようもないけど、社会制度の方は変えられる。だからこそ、社会制度の方に目を向けるべきだ」ということです。
「おれ親ガチャに失敗したわ」というときには、この社会制度の改革が前提とされているのでしょうか。

この話は、障がいの社会モデル的説明によく似ています。「障がいとは何か?」と聞かれたときに、社会モデル的説明は以下のように答えます。障がいというのは、社会の側に責任があるのであった、個人に責任はない、と。どういうことかというと、たとえば足が不自由な人が、障がいを持っているというのは、社会において段差があるからだ、ということです。つまり、もし社会のあらゆる場所が平面だったら、車椅子利用者が生活していく上での障壁になりません。しかし、段差があるからこそ、利用者は不自由するし、まさに生活していく上での「障害」になってしまいます。

「親ガチャに失敗した」という時、それはロールズに則るならば、社会制度が不十分であることを意味しています。不十分だから不満が出るのです。親ガチャとか言っている人は、このことを念頭に置いてるんかね。

みたいなことを思いました。

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