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コロナが取り戻す?ゲマインシャフトな会社観


一斉リモートワークで気づいた「大切な何か」

昨今、リモートワークを促進・徹底する会社が急増していますね。そんな中、SNS等でも多くの人が「職場に行けず、寂しい…( ; _ ; ) 」と言っていたりします。また中には「オンラインのやり辛さ」を感じる方もいるでしょう。「コミュニケーションは取れるけど、なんかモヤモヤ、不安が残る。やっぱり実際会わないとね。」と。

みんながリモートワークになることで、失って気づいた「大切な何か」があるのではないでしょうか?(もともと多くの社員がリモートワークである会社は別ですが)

「寂しい」と感じる方が気づいた「大切なもの」は、職場の仲間とのつながりかもしれません。また「モヤモヤ、不安」と感じる方が気づいた「大切なも」のは、コミュニケーションのベースにある信頼関係かもしれません。
仲間とのつながり、信頼関係…。それはいわゆる「企業組織」という言葉だけでは表しきれない会社像を指していると思います。私はそれを「ゲマインシャフトとしての会社観」だと捉えています。

大切な何か



ゲマインシャフトとゲゼルシャフト

「ゲマインシャフト」と、対の概念である「ゲゼルシャフト」は、ドイツの社会学者テンニースが提唱した概念です。

ゲマインシャフトは日本語で「共同体組織」と言います。共同体(コミュニティ)が重視するのは、構成員一人一人の幸福や構成員同士の良好な関係性です。例えば職場の飲み会、社内の部活動や有志団体などは、ゲマインシャフト的性質を持っています。

一方のゲゼルシャフトは日本語で「機能体組織」と言います。機能体が重視するのは、組織の目的を達成するために、資源としての構成員を効果的に配置したり統制することです。会社の組織構造は、基本的にゲゼルシャフト的考えのもとデザインされています。

ゲマインシャフト

組織はゲマインシャフトとゲゼルシャフトのどちらかに分類される、というわけではなく、組織は両方の側面を持ちあわせています。ただ、普段仕事の中で明示的に取り扱われるのは、組織変更や配置転換、目標管理など、ゲゼルシャフト(目的を達成する機能としての組織)的側面の方が多いのではないでしょうか?

ひと昔前の日本企業なら、職場の飲み会や運動会や社員旅行など、会社のゲマインシャフトとしての側面も色濃かったと思います。しかしそれらの取組みは時代とともに少なくなりました。そして今、一斉リモートワークで職場のつながりがいっそう希薄になって改めて、ゲマインシャフトの側面が、社員の精神衛生やスムーズな業務遂行に必要なものだと認識されてきたのではないでしょうか。

今も一部の先進的企業は、1on1やオフサイトミーティングなどで社員の関係性醸成に積極的に取組んでいます。それらの企業は、社員の精神衛生やスムーズな業務遂行だけでなく、明確な戦略的意図のもとでゲマインシャフト的側面を強化しているのではないか?と私は思います。そこで以降では、現代の企業経営におけるゲマインシャフトの意義について考えてみます。



なぜ、ゲゼルシャフトはピラミッドを作ったのか?

この問題を考える前提として、「ゲゼルシャフトは、なぜ現代の主流な組織構造であるピラミッド組織を作ってきたのか」を抑えたいと思います。

ピラミッド型の組織構造は、組織長を頂点として、機能軸でヨコ方向に、階層軸でタテ方向に分離した上で、統合されています。なぜゲゼルシャフト(目的を達成するための組織)は、タテヨコに組織を分離する必要があったのでしょうか?

まずヨコ方向の分離には「分業による習熟のメリット」があります。業務を分担して専門的に取り組んだ方が、それぞれがより早く習熟し、組織全体のパフォーマンスが上がります。ただしこのメリットは、分業する業務が、繰り返しの定型業務である場合に有効です。

次にタテ方向の分離には「情報伝達コストを抑えるメリット」があります。階層構造が無いと、組織長は構成員全員に直接指示を伝えなければならず、組織は回りません。ただしこのメリットは、情報伝達のコストが高くつく場合に有効です。

このように、ゲゼルシャフトはピラミッド構造を作ることで、高いパフォーマンスと効率的な組織運営を実現してきました。ただ、いくらでも分離すれば良いわけではありません。なぜなら分離のデメリットも存在するからです。

まずヨコの分離のデメリットについて。集団は業務分担範囲など、限られた範囲の情報をもとに、合理的に意思決定します(限定合理性といいます)。機能分離をすると、分離された機能間で認知できる情報の範囲が異なるために、それぞれの意思決定が必ずしも整合せず、それらを調整するコストが発生します。

次にタテの分離のデメリットについて。階層が分かれると、上位者は指示を出し報酬を与える側、下位者は指示を実行し報酬を受け取る側という、立場・利害の違いが生まれます。そのため上位者は、下位者のモラルハザード(指示を実行せず報酬を受け取る等)を防ぐために、管理コストが発生します。(これをエージェンシー理論といいます)

ピラミッド組織

このような組織デザインの考え方については、こちらの書籍で詳しく紹介されています。

以上のように、組織はゲゼルシャフト(機能体組織)として、分離のメリットとデメリットのバランスの中で、最適な分離レベルを模索きてきました。しかし、現代の環境変化がその前提を変えようとしています

ヨコ方向(機能軸)の分離のメリットは業務の習熟で、その前提は対象が定型業務である場合です。現在、ビジネス環境の不確実性の高まりとともに非定型業務も増え、逆に定型業務はITに置き換えられています(例えばRPAなど)。非定型業務、特に創造性を要する業務などは、機能を細分化するよりも多様な機能や考えが有機的に結合できる環境の方が向いています。

タテ方向(階層軸)の分離のメリットは情報伝達コストの削減で、その前提は情報伝達にコストがかかる場合です。現在、ITによって情報伝達コストはほとんどかかりません。中には、社内のほぼ全ての情報を全社員に共有する会社も出てきています。

このように、ピラミッド型組織のメリットはその前提を失いつつあり、一方の分離のデメリット(調整コストや管理コスト)がいわゆる組織の弊害として目立ってくる状況です。ゲゼルシャフトがこれまでピラミッドの形をとってきた妥当性が、今崩れつつあります(もちろん業界や会社によって状況に差はありますが)。



ゲマインシャフトを取り戻す戦略的意義

以上の説明を踏まえて、改めて現代の企業経営におけるゲマインシャフトの意義を考えてみたいと思います。

先述のような環境変化を踏まえて、ピラミッド型組織とは異なる新たな組織像として提示されたのが、ティール組織に代表される自律分散型組織というコンセプトです。自律分散型組織とは、特定の管理主体や階層構造を持たず、ネットワークでつながった構成員たちが自律的・有機的に協働しながら、組織の目的達成のために働く組織です。もちろん、全ての会社に自律分散型の組織構造がフィットするわけではありません。

自律分散組織

自律分散型組織に変革するにしても、組織には常に慣性や変革への抵抗(個人のレベルから組織全体のレベルまで)が働いており、これまでピラミッドを構成していた組織がいきなり変わることは現実的ではありません。そこで現実的に考えられるのが、ピラミッド型の組織構造は維持しつつ、コミュニティ(ゲマインシャフト)的側面を強めることで、自律分散型に類する力を生み出すという方策です。

コメント 2020-03-30 141447

ピラミッド組織の中にコミュニティの力を取り戻すことは、組織の分離を繋ぎ直すことです。先進的な会社がコミュニティの活性化に取り組むねらいは、例えば以下が挙げられると考えます。
・一人一人が組織のために自律的に行動するように、社員のモチベーションとエンゲージメント(組織への愛着)を高める
・組織内に多様なネットワークをつくり、トランザクティブメモリー・システム(社員同士が「この分野はあの人が詳しい」と知っている状態)を構築する。
・将来、自律分散型など組織を変革していくことを見据えて、組織の慣性や変革への抵抗を弱める

近年、大企業などで社内有志活動が活発化していることも、以上のような背景があると私は考えます。つまり今、ゲゼルシャフト(目的を達成するための組織)が、ゲマインシャフト(コミュニティとしての組織)を必要としている、ということです。



この大ピンチを、大チャンスに変えよう

私は、多様な働き方の選択肢としてリモートワークはさらに普及しほしいと思います。ただしリモートワーク推進とセットで、会社のゲマインシャフト的側面を強化することが、スムーズに仕事を進めるためにも、組織をより進化させるためにも必要だと考えます。間違っても、自社のゲマインシャフト的側面が弱いという本質的課題に目を向けないまま、表層的に「やっぱりリモートはうまくいかないからやめよう」と後戻りすることは避けてほしいと思います。

感染予防のための一斉テレワークで、図らずも多くの人が気づき始めたゲマインシャフトという会社組織のもう一つの重要な側面。この大ピンチを、組織がさらに進化する大チャンスに変えていきたいものです。


嬉しくて鼻血出ます \(^,,^)/