見出し画像

製造業の経験から分かる、パートタイム従業員の方たちを雇い止め続けて訪れる未来

コロナ渦において、パートタイムで働く従業員の待遇が取りざたされています。休業手当もなく、再雇用の見通しの立たない一時解雇など、話題に事欠きません。

私自身、将来家業である自転車店を継ぐことを考え工業高校を卒業してすぐ、神奈川県茅ケ崎市に本社のあった自転車国内大手メーカーの宮田工業株式会社(ミヤタ自転車)に約2年間勤めていました。

現在のミヤタサイクル株式会社(本社オフィス:神奈川県川崎市)です。

2年間の勤務の内、1年間は本社サービス部門、後の1年は営業として静岡県で勤務することとなります。

本社工場では研修プログラムの一環として製造ライン部門も経験させていただきました。

当時の自転車製造は国内生産が中心でしたので、ほぼすべてのミヤタ自転車は神奈川県茅ケ崎市の本社工場で製造されていました。

これらの自転車の品質は世界水準でも評価が高く、全国に流通するほか、海外にも輸出されます。

この製造ライン部門に配属され実際の製造工程を経験できたことは、自転車店のオーナーとして、またビジネスパーソンとして今でも忘れられない貴重な体験でありましたが、これはまた別の話。

製造ラインでは、多くの女性社員・パートタイム従業員の方たちが作業されており、非常に高い技術を持ち、熟練の経験からなる高水準な作業を行っていました。

今回は、このライン部門で私が現場で実際に見て、感じたことをお伝えします。

高速で流れ続ける自転車製造ラインを支えるパートタイム従業員の方たち

入社して間もない私が最初に配属された自転車製造ライン部門。

本社工場内にはいくつかの製造ラインがあり、組み立て作業を行っています。

それぞれに、その日の生産予定台数に合わせた車種が何度か入れ替わりながら流れていくという構造です。

そうして、組み立て・作業が完了した自転車を専用の箱に詰める、という一連の作業が行われていきます。

初めて見る自転車製造ラインには驚きの連続でした。

次から次へと流れてくる自転車の車体に寸分の狂いもなく部品の組みつけをおこない、それぞれのライン製造の担当部品を限られたスペース内で秒単位の正確さで調整し、次の担当者のもとへ流すという工程。

スピード感と技術力が高レベルに共存する世界に、研修とは言え新人の私が入って、作業を止めてしまうのではないか、そんな不安がよぎりました。

そしてこの不安は、すぐに現実のものとなります。

説明を受けたものの、全くの未経験者である私がいきなり製造ラインに入って担当する部品の組み付けを行うのです。

当然ながらラインには次々と自転車の車体が流れてきます。

作業に一度つまづくとあせってしまい、思うように進みません。

組み付けが間に合わない商品はどんどんラインから外し、作業スペース脇に一旦置いていきます。

しかし、次第に間に合わなくなる商品が多くなっていき、ついには置き場所もなくなってしまいました。

そうして、製造ライン全体を私1人のミスでストップさせてしまうことが何度かあったのです。

新人でもあり大きく落ち込む私に、パートタイムの従業員さんたちはやさしく声をかけてくれます。

ついには、自分たちの作業と同時に私の不慣れな作業をサポートしながら秒単位でながれるライン上での自転車組立ラインを、それからは一度も止めることなく進めてくれましたのです。

本当に、あの時は救われたような思いでした。

製造ラインでの作業の多くは女性パートタイム従業員の方たちが行っていました。

自転車製造ラインと言うと男性従業員の方が多いと思われるかもしれませんが、実際には女性の方が圧倒的に多いのです。

資材部からは、自転車のモデルが変わるごとに異なる部材が次々と担当エリアに置かれていきます。

その部材をモデルごとに合わせて自転車に組付ける作業をするのですが、その作業は個人ではなくそのライン工程に携わる方々のチーム力によってなされる仕事だと感じました。

担当ラインの責任者のもと、品質管理部門のチェックを受けながら、事故のないよう安全第一を考え予定生産台数をクリアするための最善の作業効率を個々が追い求めています。

さらに、常に精度の高い組付けを繰り返す無駄のない作業により、安定して1つの製造ラインで自転車が造られる過程は決して個人の力では実現不可能です。

お互いのコミュニケーションがスムーズにできているからこそ、言葉を発しなくとも作業の流れの具合やアイコンタクトなどにより通じ合いベストチームとなり得ます。

製造業の職人とは、なにも正社員だけではない

公益財団法人 日本生産性本部作成による、日本の労働生産性の動向2019年「時間当たり労働生産性の動向」では、パートタイム従業員比率が年々増加しており2018年度で31.1%、非正規従業員比率(参考)は38.0%となっています。

時間当たりでのパートタイム従業員と非正規従業員比率を合わせると約70%が全体の労働力を占めていることがわかります。

製造業の現場では、長年勤務されている熟練のパートタイム従業員さんこそ、欠かすことのできない貴重な人材といえるのではないでしょうか。

現場を熟知して、商品にも精通し、作業効率も優れ、更に精度が求められる生産ラインなどでもその熟練の技により質の高い商品を製造することができる。

社員として入社した新人を、鍛え、ときには救ってくれるのも、このようなパートタイムの従業員の方たちではないでしょうか。

これは、もはや製造業の屋台骨です。

例えば、目先のコストを優先するあまり人件費カットで優秀なパート従業員さんを解雇してしまい新人のパート従業員が現場に入ったとします。

私が新人としてラインに参加したときのことを考えても、すぐに即戦力となることが難しいのはお分かりいただけるでしょう。

もちろん、業種によっては可能かもしれませんが、日本が誇る高い精度の製造業の世界では、どれだけ優れたマニュアルがあったとしても、熟練のパートタイム従業員さんと同等レベルでの仕事能力を持つまでは、時間もかかり当然ながらコストアップもかかります。

これからの製造現場に必要な人材は

製造業の現場においてもこれからはAI搭載の製造機器が益々増加してくるでしょう。

場合によっては既に完全機械化で製造ラインでは人ではなく機械がすべてこなしオペレーターの数名だけで24時間稼働する工場もあるようです。

このような現実の中でも、製造業全てが全自動化になるとは難しいと感じています。

私たち、自転車店の修理なども同じです。

不具合のある箇所、また、不具合の起きそうな箇所、そういった部分を見分けるのに、単純なデータの蓄積だけではまかなえない部分があるのです。

機械より人の手で作業を行う方が一見すると効率が悪く思えますが、感覚的な部分や部材の個体差による微妙な調整など、最後は人の手の感覚がなければmade in Japanの誇る高精度は達成できません。

熟練のパート従業員が、もしいなければどんな影響がでるのか?

私の小さな自転車店での影響を考えてみました。

自転車は七分組立の状態でメーカーから箱に入ってお店に届きます。
それを、私自身の手で最終組立て調整してはじめて完成された自転車とすることができ、それから販売します。

もし、製造現場に熟練のパート従業員さんがいなければ、日々の生産性が落ち、組付け精度にもばらつきが生じた状態で出荷されることもあるでしょう。

当然ながら、最終組立て調整をする当店での作業時間も余分に時間がかかり、それによりご注文いただいたお客様への納車期日にも遅れが生じる可能性も出てきます。

場合によっては、不十分な組立てから一度メーカーへ返品する必要もでてきてしまいます。

熟練パートタイム従業員さんの中にはその会社において重要な役割をはたすマイスターのような立場の方もいられます。

コロナ渦の中において、新たな生活様式と共に、労働スタイルも大きく変わろうとしています。

しかし、その中でも製造現場に携わる多くのパートタイム従業員さんたちにより私たちの生活が支えられていることを忘れてはなりません。

製造の現場は、消費者の目に触れることはありません。大きな称賛を得ることなく、非常時には切り捨てられてしまう可能性がある職種を、どうすればいいのか。

“消費者”にあてはまらない人間は、おそらくいないでしょう。

私たち自身手元に届く商品のクオリティを維持するためにも、明確な答えを必要としています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?