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デザインスクール卒業プロジェクト: Design Research (CIID Week2-3)

こんにちは。卒業プロジェクトとなる”Final Project”が開始されたので、その進捗をシェアしていきたいと思います。これまでCIIDの授業では、多くの国籍・バックグラウンドを持った人と協働してプロジェクトを組成し、お互いの強みを生かし、弱みを保管し合う形式をとってきましたが、今回は完全に個人によるプロジェクトになります。

今後進捗に応じて複数回に分けて、記事を書きたいと考えていますので、どうぞよろしくお願いします。

Final Project Schedule

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CIIDのFinal Projectは、テーマの選定から最終的なプロダクト/サービス開発までを約2ヶ月間行う事になっています。これまでのプロジェクトが最長で3週間であったことを考えると、より実際のプロジェクトに近い状況と言えます。選ぶテーマやプロセスは完全に個人に任されており、自分が関心を抱いている領域やスキル会得に集中できる期間であると言えます。

Week1: Kick-off
Week2-3: Design Research / Challenge
Week4: Explore Design Direction (Ideation)
Week5: Concept Development / Prototyping
Week6-7: Prototyping
Week8: Documentation
Week9: Final Exams / Exhibition

今回の記事では、Week2-3(Design Research)で自分が取ったプロセスについて解説していきたいと思います。Week1(Identifying Design Theme)については、別で記事を書いておりますので、よろしければご覧ください。

Step1: Design Research

■ Statement of Intent
前回記事で述べたのですが、リサーチをする目的(Statement of Intent)は下記の通りです。簡略化のために、詳細を省いて記載しています。詳細をご覧になりたい方は英語ですが、実際に作成したResearch Protocolを添付しておくのでご覧ください。

【Statement of Intent】
- To understand life value & emerging behavior before/after the COVID-19
- To understand city lifestyle and its gains & pains with changes in their motivation towards city life
- To understand their image/motivation towards countryside lifestyle

【Research Protocol】

■ Research Method

今回のデザインリサーチでは以下の方法をとっています。

60分インタビュー: Statement of Intentに基づいて質問する事で、都市生活・田舎暮らしに関する課題やモチベーションを明確にします。

SMEインタビュー: 田舎暮らしというトピックに対して詳しい人とインタビューすることで、田舎暮らしのトレンドや地域の課題などを明確にします。

フィールドリサーチ: コスタリカの田舎に出向き現地調査を通して、田舎暮らしから得られるマインドセットやそこに存在する人間関係、娯楽、生態系を明確にします。

※この記事を執筆した時点では、フィールドリサーチを行っていません。

■ Research Recruitment

デザインリサーチでは、とにかく仮説を持たず、様々な属性の人から多様な意見を聞くことになります。今回の場合も、ユーザーとなりそうな人だけでなく、田舎暮らし向けサービス開発者、都市デザイナーなど多くの人とインタビューを実施しました。

【都市生活をしている人(地方出身)】
・25歳男性: ビジネスデベロッパー、東京在住、北海道出身
・25歳女性: 地域デザイナー、静岡県水窪在住、兵庫県出身
・25歳男性: エンジニア、栃木県太田市在住、北海道出身
・26歳男性: エンジニア、東京在住、北海道出身
・26歳男性: 医療機器メーカー、東京在住、神奈川県出身
・27歳女性: 経理、香川県高松市在住、神奈川県出身、出産予定
・32歳女性: スタートアップ、東京在住、福岡県出身
・42歳女性: 保険会社役員、東京在住、福島県出身、夫婦&子持ち

【多拠点生活をしている人】
・30歳男性: テクノロジスト、島根県海士町在住、東京出身
・40歳男性: ビジネスデザイナー、神奈川県葉山町在住、東京出身

【都市デザイナー(SME)】
・30歳男性: 都市デザイナー、コスタリカ出身
・32歳男性: 都市デザイナー、コスタリカ出身

【ビジネスデザイナー(SME)】
・40歳男性: ビジネスデザイナー、地方移住について記事を書いている

Step2: Insight

リサーチ結果に基づいて、都市・田舎暮らしに関するインサイトを記載していきたいと思います。

■ Context

決められた進路: 田舎から都市へ
日本の固定概念の中で、特に進学校と呼ばれる中・高では、「良い大学に行くこと・良い会社に入ること」という考え方が漠然とあると認識しています。最近はこうした固定概念が薄れつつあるのかもしれませんが、少なからずこれを認めて生きてきたと思います。中・高で自分の故郷をつまらない、東京に比べて何もないと考えてきた人たちにとって、良い大学・良い会社が集まる都市部は魅力的に映ることは必然で、高校卒業と同時に都市部に住み始めた人はとても多いのではないでしょうか。

そのまま大学卒業と同時に都市部で就職し、昇進して、結婚して自分の家庭を持つことは誰もが認識している規定路線だと思います。この規定路線からはみ出すことは「脱サラ」や「起業」といった形で表現されることが多いですが、それ自体とても難しく、一度入ってしまうと抜け出せないアリ地獄のようなものだと考えている人が非常に多かったです。(この流れが一概に悪いと言っているわけではありません)

人によって作られたサービスによって自分が汚染される
そうして都市部に住み続けていると、気づかない内に便利な都市部に慣れ、自分が困るすべての事に対して何らかのサービスがあるので、お金を払って前に進んでいく、生活が当然のことのように感じてしまいます。娯楽についてもお金さえあれば、映画観賞、旅行、ゴルフなどでいくらでも時間を潰すことができます。この生活に対して、多くのユーザーが話していたのは「自分がしたいことが何なのか・大事にしたいものは何なのか見失うようになる」ということです。お金をいくら消費して色んなことを体験しても、自分のものだと思えるものがない、というのが共通見解でした。

自分の価値観やルーツを見つめ直す時期が誰にでもある
そういった人たちが辿りつくのが、いわゆる自分探しのようなものです。都市生活の中で、徐々に自分を見つめ直す時間が多くなるようでした。特に面白かったのが、田舎にある実家に帰省した時、日本の田舎に旅行した時に、自分のマインドセットが変わり、自分と対話する時間が増えるということです。都市とは異なり、心理的に「余白のある」空間・時間の中で過ごす事は、人生を見つめ直す上で非常に重要なものなのではないでしょうか。

こうした背景から自分の大きな問いは、以下のようなものになりました。

【Vision Statement】
How might we provide moment of looking at themselves from outside through Japanese rurality?

■ User Segment

田舎や自分の故郷の環境を利用して、自分を見つめ直したいと考えている人は大きく3つに分けられるようでした。

地元再発見タイプ
25歳くらいの若年層で、数年間都市で生活した後、地元に帰省した時に、学生時代は気づかなかった街の魅力に気づくパターンです。具体的には地元の人との会話に興味を覚えたり、田園風景を写真におさめたりします。一方で彼らのモチベーションは、「今まで気づかなかった物事を深く理解すること」であって、田舎暮らし自体に興味があるわけではありません。実際インタビュー中には、地元のあらゆる側面に興味を覚えているけれど、長く住み続けることはないと発言していました。

自分のルーツを地元に見出すタイプ
33歳くらいの中年層で、元々地元に何らかのルーツ(家業や伝統文化など)を感じており、長年の都市生活の後に、地元に帰省することを決意するパターンです。若い頃は自分の経験を積むために、仕事・趣味に没頭することが多かったようですが、ある程度スキル・知見が溜まってきたことを自覚して、家業(例: 農家)や地元の伝統文化を支援することができないかと考えています。このセグメントのモチベーションは、「ルーツを感じる家族・家業の周りで新たな生活を築く」ことであり、長年地元に住み続けることが期待されます。

田舎で人生を豊かにしたいタイプ
35歳くらいの中年層で、世の中のトレンドに敏感なデザイナーのような人たちが、自分の価値観や仕事に合う場所を求めて田舎に出向くパターンです。田舎の自然や雰囲気から湧き出るクリエイティビティに魅力を感じており、「余白のある生活」を求めています。このセグメントのモチベーションは「毎日コツコツ経験を積んで自分の人生を豊かにしていく」ことにあり、こちらも長年田舎に住むことが期待されます。

Step3: Design Opportunity

■ Design Decision

こうして3つのユーザーセグメントを見出し、それぞれのモチベーションも認識したのですが、この時点で、今後の方針を絞るためにどれか一つを消去する必要がありました。主に以下のポイントから意思決定しています。

プロトタイピングの幅: 今後のプロトタイピングを見込んで、コンセプトに幅がでそうか否かを考えています。

地元・田舎への影響: 都市で生活していた人を地元・田舎に戻す事になった場合、人間関係・経済などに悪影響が出ないかを考えています。

ユーザーセグメントと自分の関係: 今後自分はユーザーとの深い対話を通してコンセプトを固めていきたいと考えているので、どの程度自分との対話に時間を割いてもらえるかも重要視しています。

以上の観点から検証すると、「地元再発見タイプ」はすぐに都市に帰ってしまい、地元への影響が限定的なこと、協力してもらえるユーザーが見つからなかったことから、「自分のルーツを地元に見出すタイプ」と「田舎で人生を豊かにしたいタイプ」に絞る事にしました。

■ Opportunity Statement

それぞれのDesign Opportunityは以下の通りです。

【自分のルーツを地元に見出すタイプ】
HMW enable city people to feel connected with their family business in rural areas & find a way to support it with their professional skills?

【田舎で人生を豊かにしたいタイプ】

HMW record accumulated daily moments of rural life to act as a reminder of people’s journey in the future?

Main Learnings

■ 言語化できないユーザーのためのリサーチツール

インタビューをするときは、オープンQを尋ねることが多く、こちらが細かにコンテクストを設定するというよりも、ユーザーが話している内容を大事にしています。話すことを得意としている人であれば、面白い回答が出てくることもあるのですが、話し下手な人だと一問一答のように終わってしまう場合があります。そんな状況を避けるために、写真や絵、絵文字などを駆使して、ユーザーの思いを想起させることを促すのがデザインツールです。

例えば「田舎暮らしでイメージすることを三つ挙げてください」と質問した時に話し下手な人だとなかなか回答が出てこないのですが、自然の風景や人が話している写真、祭りの写真などを用いると、「あ。そう言えば」というように次々とそれに付随するストーリーが出てくることが多かったです。

■ デスクトップリサーチとインタビューの反復

自分は「どんなトピックが存在するか」「それに関心を抱いている人は大まかにどんな人なのか」「裏にはどんな背景が存在するのか」等、デザインリサーチを通して、何を知りたいのかを明確にする目的で、デスクトップリサーチを行っています。その後インタビューに入るわけですが、インタビューとデスクトップリサーチの差は、大まかに情報の「細かさ」にあると思います。当たり前ですが、その「細かさ」はこれまでにない気づきを与えてくれるきっかけになります。インタビューを通して話してみると、同じ「地元に貢献したいと考えている人」でも、どんな経緯でそうなったのか、どんなことに貢献したいか、どんな場所に住みたいかは、全く異なる事に気づきます。ユーザー本人にとっては日々思っていることを話しているだけなのかもしれませんが、インタビューする我々にとっては、とても面白い視点がある事に気づきます。

そしてある程度ユーザーを把握した後は、どんな既存サービスが存在するか、どんな課題があるかなど、再びデスクトップリサーチに戻るわけです。このようにインタビューとデスクトップリサーチを併用・反復していく事で、質の良いDesign Opportunityを特定することができます。

■ 様々なフレームワークを使用する事で多様な観点を生む

デスクトップリサーチやインタビューを行った後は、それをまとめてInsightの形でまとめます。ここでいうInsightとは、ユーザーがインタビュー中に話した事に基づいた、これまでにない視点や気づきの事で、それに準拠する形で、Design Opportunityを特定する事になります。

【例】
Insight: People look for ways to immerse in a dynamic environment so they feel stimulated

ユーザーが言ったこと1: Even if you’re in the elevator you’re going up a staircase or you’re in a bigger room with everyone. There’s a constant change, in dimensions. It’s very dull to stay at home

ユーザーが言ったこと2: I like a place where I can do more stuff. I have my piano, behind me. Before, if I need a time off, I can just playing. It’s important and it’s something that needs to be in my in my work environment. I also have some paper to draw

上の例は、複数のユーザーが話したこと(Quote)に基づいて導出されたInsightです。一方で、ただ単純にQuoteからInsightを導出するだけでなく、カスタマージャーニーやユーザーの成長曲線、ペルソナ図などを活用して多様な視点からInsightを導出することも重要です。

その方法は無数に存在しますが、人間中心デザインの文脈では、ユーザーの「モチベーション」をどの程度深掘りできるかに尽きると考えています。今回の田舎暮らしユーザーの場合であれば…

- 田舎暮らしをしたいと考える理由は何か(その結果表層的には現在どんな事に取り組んでいるか)
- どんな田舎に暮らしたいのか(理想のライフスタイルは何か)
- どの程度の期間その田舎に暮らしたいのか
- 田舎暮らしのスタートを阻害している要因は何か

これらを主な問いとして、ユーザーのモチベーションを特定し、ユーザーセグメント・ペルソナ図という形で表現していました。

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今回の記事ではここで終えたいと思います。次回はWeek4-5で実施するブレインストーミングとコンセプトについて、解説していきたいと思います。

町田

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