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いかにデザインとビジネスを繋ぐことが難しいか00 - 外コン&デザイン学生の視点

こんにちは。外資系コンサルティング会社を離れ、デザインスクールに留学してから4ヶ月以上が経過し、あと1ヶ月とちょっとでデザインの基礎コースが終わろうとしています。これまでに多くのことを学習してきたので、少しデザインとビジネスの関係性について考察することができるのかなと思い、この記事の執筆に至りました。

自分は外資系コンサルティング会社に在籍していた時に、カスタマーエクスペリエンス系のプロジェクトや、DX系のプロジェクトに従事していたこともあり、クライアントと一緒になって何か新たなプロダクトやサービスを作ろうとしていた過去があります。ただそれがイマイチ上手く行かなかったことに違和感を覚えて、一度デザイナーの学校に入り、本当のデザインプロセスを一度学んでみようと思ったことがCIIDに留学した理由の一つです。

様々なデザイナーやアーティスト、エンジニアと一緒にプロジェクトをする中で、なぜあの時上手くいきそうでいかなかったのか、今はおぼろげながら見えてきました。

同様のテーマに関して、既に多くのブログ記事や書籍が存在しますが、現場にいた者からすると、中々にハイレベルに語られていることが多いような気がするので、自分としてはディープにビジネスとデザイン領域に関わった者として、「なぜデザインのプロセスを現状のビジネスプロセスに落とし込めないのか」という論点を現場社員の実情に沿って述べていきたいと思います。(Adobeのソフトウェアが使えない、というようなスキル系の問題は触れません)

会社が手掛けているビジネスやその文化にもよりますが、大企業であればあるほど、そして「勉強ができる頭の良い人」が多い会社であればあるほど、デザインのプロセスが定着しにくい、受け入れられにくい、というのが、自分が現在保持しているスタンスです。

また今回の内容は非常に長くなりそうなので、今回の記事とは別に、以下のように複数の記事に分けたいと考えています。

・記事1: 人間中心デザインのプロセス別解説: Research Plan -> Research
・記事2: 人間中心デザインのプロセス別解説: Design Challenge -> Concept
・記事3: 人間中心デザインのプロセス別解説: Prototyping -> Funding
・記事4: 生命中心デザインを受け入れる必要があるのか
・記事5: スペキュラティブデザインと倫理の役割

デザインプロセスとビジネスの交差点

自分が所属しているCIID(Copenhagen Institute of Interaction Design)というデザインスクールでは、最初の半年でデザイナーとしての基礎を叩き込まれるのですが、その内容をビジネスという側面で切り抜くと、以下のような関係性が浮かび上がってきます。あくまで6月までに学習したことベースで、これが全てというわけではありません。

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Human Centered Design & Business: 人間中心デザイン (記事1-3の内容)
これはご存知の方も多いと思いますが、人間の本質的な欲求や動機を理解し、それに基づいた形のサービスを開発しようという考え方です。IDEOというデザインファームが提唱したことをきっかけに、一気にビジネスの領域まで広がっていきました。デザインシンキングというと、この考え方を思い浮かべる方が多いと思います。今後の記事でも主にこのデザインプロセスとビジネスの関係性について考えていきます。

Life Centered Design: 生命中心デザイン (記事4の内容)
生命中心デザインという言葉自体はCIIDが提唱したみたいですが、現在顕在化しつつある地球温暖化や生態系破壊を踏まえて、人間だけじゃなくてその他の生態系への影響や生態系から受ける影響を考慮して、デザインしよう、という考え方です。言葉は違いますが、オランダを中心にヨーロッパで進展しているCircular Economyの考え方はこれに該当するかと思います。

このデザインプロセスでは、生態系や環境は人間中心デザインの被害者というわけではなく、あくまでステークホルダの一つとして考えられています。身近な例としては、コロナウイルスも生態系の一つですが、それが人間に与える影響までも考慮してデザインをしようということになります。現在コロナウイルスの蔓延により、金融市場や労働環境などが大きな影響を受けて、変容を余儀なくされていることを踏まえると、生命中心デザインにも可能性があるのではないかと、個人的には思っています。

現時点では、人間中心デザインとの棲み分けもできていないため、ビジネスとの関係は曖昧のままにされていますが、今後の記事では、どのような関係性があり得るのか考察していきたいと思います。

Design Across Biological Scale: 生態系を真似るデザイン (記事4の内容)
生命中心デザインの一つとも考えられますが、生態系が保持するシステムを真似てサステナブルなデザインを目指す考え方です。自然環境を考えてみると、非常に上手く植物や動物、昆虫等が一つのエコシステムの中で相互作用し、生きていることが分かります。例えば、ある動物が死んだ際には、その血肉が他動物の食料となり、また土壌に栄養を与え、微生物が繁殖し、土が肥えることで植物が成長し、昆虫に影響を与える・・・という一連の循環が生まれます。動物や昆虫という一つの生命体でみると分かりにくいのですが、それぞれがエコシステム繁栄という意味で何らかの役割を担っており、結果的にそれがサステナブルな環境を可能にしています。

こちらもLife Centered Designと同様に、ビジネスとの関係は曖昧のままにされていますが、今後の記事では、どのような関係性があり得るのか考察していきたいと思います。

Speculative Design & Ethics (記事5の内容)
スペキュラティブデザインは、端的に言えば、未来に想定されるシナリオを考えて、現在に課題を提起しようというデザインの手法です。デザインの手法の中でも、課題を解決しない珍しいデザインの一つで、ビジネスマンからすると、少し受け入れにくい考え方です。一方で、デザインしたサービスが未来に与える影響を考えることは重要であり、倫理的な観点からこの手法を取り入れろと、CIIDでは教えられました。

今のビジネスを考える際にこの手法が取り入られることは少ないと認識していますが、将来の状況を踏まえてサービスを作り直す場合などに関係があるデザインプロセスです。

企業の「デザイン」とデザインスクールの「デザイン」は
大きく異なる?

上述したデザイン手法の中で、今一番話題にされているのは、間違いなく「人間中心デザイン」になります。その手法をビジネスに取り入れることで、画期的なソリューションやサービスを生み出そうというわけです。感覚的には5年前くらいに流行り始めたと認識していますが、自分が所属していたコンサルティング会社も含め、デザインの領域にサービスを作り出すべく、現在は各社が試行錯誤している状況です。

一方で、そのデザインの力を利用して何か画期的なサービスを生み出せたかというと、日本の大企業では、ほとんどゼロに近いと思います。これは日本でデザインの領域が軽んじられている原因の一つです。これには様々な理由があるかと思いますが、自分の経験からすると原因は、誤ったデザインプロセスやデザインシンキングの理解にあると考えています。

何かプロダクトやサービスを考案・開発する際に、ビジネスの現場で「デザイン」と言われているプロセスと、デザインスクールで行われているデザインプロセスは、全く異なると言っても過言ではありません。言葉上は、同じフローではありますが、タスクレベルまで落ちてきた時には、全く違ったことを行っています。

これは仕方のないことで、デザイナーやアーティストが実施してきたプロセスをいきなりビジネスマンが真似するのは、無理があると思います。でもしっかりとその本質を理解すれば、誰でも納得してデザインプロセスに入れると考えています。

デザインをする際に企業が考慮しなくてはならない論点

では、実際に何が違うのか。下記の人間中心デザインのプロセスのフレームワークに応じて、大まかに解説していきたいと思います。各論点の詳細については、次号で解説する予定です。また記述の仕方としては、「デザインスクールで行われていること⇨それに基づいて考えられるビジネス側の課題」としたいと思います。

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Planning -> Research
デスクトップリサーチなどに基づいて、プロジェクトのスコープを一度発散させてから狭めた後に、リサーチの目的や骨子、方法を決めて行くプロセスです。この段階では、「こんな時の人間の行動や動機が知りたい(例: ロックダウン時の人の働き方を知りたい)」ということを定義する程度で、作るプロダクトやサービスをこの段階で、決めきることはありません。このプロセスで、大企業のビジネスマンにとって課題になりそうな点は…

大きなことから始めたがる: 企業の売上規模を考えた時に、小さそうに見えるニーズやアイディアを起点にプロジェクトを始めることができないことは、イノベーションのジレンマと言えるかと思います。 (例: 最初から単体サービスではなく、プラットフォームビジネスのような大きなビジネスモデルを考えてしまう)
そもそも「知りたい」「やりたい」ことがない: デザインのプロセスは何もないところから始まりません。一方で企業でプロジェクトを組成する際には、誰も意思を持っていないことがほとんどです。その状態からプロジェクトを上手く始動させることは困難を極めそうです。
仮説思考の罠: ビジネスをする上で仮説思考は非常に重要ですが、それが過ぎてしまうと、リサーチをする前の段階から、リサーチの意味やそのアウトプットをきつく詰められてしまい、始まる前からそのプロジェクト自体に良い印象が持たれなくなることもしばしばあるかと思います。

Design Challenge -> Concept
リサーチ結果に基づいて、人間の欲求に関して仮説を立てた上で、ようやくアイディア出し、コンセプトを決めるプロセスに入ります。この時には、日本の企業でよく用いられる「ユーザーの課題」という言葉よりも、「人間の欲求」に着目することで、これまでになさそうなコンセプトが生まれそうな感じがします。一方で、この段階にも一般のビジネスマンが注意すべき点が存在します。

着目した人間の欲求が第三者に伝わらない: 言葉で人間の欲求を表現するだけだと、第三者からすると当たり前のことを言っているように聞こえる時があります。プロジェクトで見つけたこれまでにない視点を、第三者に漏れなく伝えるためには、言葉以上のメディアが必要になります。
アイディアからコンセプトに発展させることができない: 着目した人間の欲求に基づいてアイディア出しをしたはいいものの、そこからより良いアイディアに発展できないパターンがあります。結果的に最初のアイディアからあまり変わらないものが、コンセプト化してしまい、プロジェクト全体がつまらなくなるリスクがあります。

Prototyping -> Strategy (Funding/Implementation)
決めたコンセプトを手を動かして何かしらの形にしていきながら、最終的にサービスとして世の中に送り出すまでのプロセスになります。プロトタイプというと、アプリのモック画面を思い浮かべる方が多いと思いますが、ユーザーの体験をテストできるのであれば、それがペーパープロトタイプのような形であっても問題ありません。重要なのは、テストから学びたいことを明確にした上で、最適なメディアを選択することです。また大企業であれば、経営会議などで実行承認を得た後に、サービス導入後のビジネス面及びIT面の運用体制を確保してローンチすることが可能になります。

このプロセスは、今までPPTを活用して綺麗な計画書を作って意思決定会議を切り抜けてきた大企業の企画系部署の多くの人にとっては、苦手なプロセスになるかと思います。自分も含めてそうした人たちの多くは、国語や数学といった受験科目には滅法強いものの、技術や家庭科といった手を動かす系の科目にはあまり得意さを感じていないはずです。そうした人がいきなり紙やプラスティックで模型を作ることになったら、大変になるのは目に見えています。

手を動かして何かを作ることの感覚がない: 個人的にはデザインのプロセス上、一番大きな壁のような気がしますが、ここでは考えるより手を動かすことで、完成形に近づけていくことが重要な段階です。特にこのプロセスの序盤はいかに速くユーザーとテストするかが重要なので、PPTで「MVP」や「テストスケジュール」を整理する時間があったら、ペーパーで作った画面遷移図で、体験に漏れがあるか違和感があるかを確かめた方が良いです。
プロトタイプに完璧さを追い求めすぎる: WF型モデルのように大きな工程が終わったら、いきなり全ての画面遷移やデータベースができている必要はありません。一方で上司は、テスト後のプロトタイプにそのような「完璧さ」を求めているので、現場社員が適切に「小さく」開発しても、蔑ろにされてしまう可能性があります。
サービスの想定収入を求められる: これは全ての段階に言えることですが、企画段階からどの程度の収入が得られるか、計算することが求められるので、特にデザインプロセスの前半は厳しい目でみられることもしばしばです。結果的にプロジェクト自体がなくなる可能性もあるので、この問題との付き合い方は、会社全体で考える必要があります。

次号では、上記で述べた”Planning & Research”のフェーズで行われていることをビジュアルのイメージを用いながら解説し、ビジネスマンが直面する課題とその解決策について詳述したいと思います。

町田

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