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実話怪談 #29 「名前を呼ぶ声」

 これは十代半ばの女性、渡辺さんのだんである。

 渡辺さんが通っている高校は、午後三時半頃に、帰りのホームルームが終わる。スクールバッグを肩にかけた渡辺さんは、友達のNさんと一緒に教室を出た。渡辺さんもNさんも帰宅部で、だいたい毎日一緒に下校する。

 校舎は教室が四つ並んでおり、廊下にはたくさんの生徒がいた。笑い声や話し声でワイワイガヤガヤと非常に賑やかである。学校が終わった解放感から、生徒たちのテンションは高い。
 
 廊下を歩きはじめてすぐ、Nさんが尋ねてきた。
「帰りにどこかに寄る?」
「試着したいスカートがあるの。ついてきてくれる?」
「うん、いいよ」

 そんな会話をした直後だった。渡辺さんは背後から名前をよばれた。
 その声に反応して後ろを振り返ると、隣にいたNさんも、なぜか同じように後ろを振り返った。
 また、そうやって振り返ったのは、渡辺さんとNさんだけではなかった。廊下にいるすべての生徒が、後ろを振り返っていた。
 みながいっせいにそうしたために、賑やかだった廊下は一瞬で静まり返った。

 ややあってからNさんは前に向き直ってこう言った。
「誰かに名前をよばれた気がしたんだけど……」
 Nさんも渡辺さんと同じように名前をよばれて後ろを振り向いていたのだった。
 
 そして、廊下にいた他の生徒も全員がそうだった。それぞれが自分の名前をよばれて、後ろを振り返っていた。
 しかし、誰に名前をよばれたかは今もわかっていない。

     (了)


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