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【スポーツ×企業版ふるさと納税の破壊力】OTA ARENAスキーム解説

1.はじめに

 本日、OTA ARENAの構想が発表されました。これはBリーグの群馬クレインサンダーズが新B1ライセンス取得のために必要なアリーナです。

 このアリーナの建設スキームには企業版ふるさと納税が使われています。個人的に今後の地方スポーツにとってかなり重要な制度だと思っており、活用を計画していたところだったのですが、先を越された!、という感じで悔しいので解説するnoteを書きます。

2.OTA ARENAについて

 上記がプレスリリースになります。施設概要は

名称 : OTA ARENA(仮称)
住所 : 太田市運動公園(〒373-0817 群馬県太田市飯塚町1059番地1)
面積 : 11,000㎡
施設 : メインアリーナ(5,000人収容)、サブアリーナ、VIPラウンジ・VIPルーム、可動式センタービジョン、リボンビジョン、トレーニング室他各諸室、バリアフリー対応
工期:2021年7月着工、2023年春完成(予定)
総工費:78.5億円

となっており、写真をみると非常に本格的なエンターテイメント志向のアリーナであることがわかります。

 本格的なエンターテイメントアリーナといえば沖縄アリーナが先行して完成していますが、こちらは総工費の約9割が内閣府や防衛省といった国から出ている施設になりますので、他の施設がそのまま参考にする事例にはなりにくいのが現状です。

 今回のOTA ARENAは企業版ふるさと納税のスキームを活用し、建設に至りましたが、このスキームは沖縄アリーナと比べ他の自治体でも参考にできると考えています。

3.企業版ふるさと納税について

 企業版ふるさと納税は個人が行うふるさと納税のような寄付を企業ができるようにした制度です。個人版と違い、2024年度までの時限的な制度となっています。2025年度以降については地方創生の政策の見直しと合わせて延長される可能性もあります。現在も2019年度までであったものが2024年度まで延長される経緯となっています。
 さらに2020年度からの延長に合わせてパワーアップした制度になりました。厳密に書くと長くなってしまうのでポイントを2つ挙げると、

①寄付額の最大6割を法人税から控除 ⇒ 最大9割を法人税から控除
②集めた寄付金の使い方について、自治体が非常に使いやすいようになった。

が改正されています。特に①がやばいです。
実質負担額が寄付額の10%になるということです。ただ、10%になる上限額が厳しくて、課税所得(≒税引前純利益)の1%が上限となります。

1%を超えると、控除率が90%から徐々に下がっていきます。以下のHPで試算がされていますのでご参考までにご覧ください。

 課税所得の2%で控除率約80%、課税所得の3%で課税所得約70%くらいのイメージかと思います。(厳密な数字は税理士による計算が必要です。)

4. OTA ARENAの企業版ふるさと納税のスキーム

今回のスキームを図示すると下図のようになります。

太田アリーナ

 群馬クレインサンダーズの親会社であるオープンハウスが太田市に企業版ふるさと納税を活用した寄付を行うことで、以下のメリットが生まれます。

【太田市】
・アリーナ建設費の削減(というより、寄付が無ければアリーナ立てられないかも)※どれだけ削減できたかは次項参照
・エンターテインメント志向のアリーナ建設による集客の向上と地域活性化
・群馬クレインサンダーズの発展による地域活性化

【オープンハウス・群馬クレインサンダーズ】
・群馬クレインサンダーズの新B1ライセンスの獲得
・試合体験の価値向上による、ブースターの増加、チケット売上増加、スポンサー価値向上によるスポンサーシップ売上増加、グッズ販売増加
・子会社の価値向上による企業価値の向上

5.どのくらい資金的なメリットがあるのか

 企業版ふるさと納税を使うとどのくらい資金的なメリットがあるのか、試算してみたいと思います。市の負担金額がわからないので、
(1)総工費全額をオープンハウスの寄付金でまかなう場合
(2)総工費の半分を市の負担、残りをオープンハウスの寄付とした場合
の2つの場合を考えていきたいと思います。

 ・OTA ARENAの総工費が78.5億円
 ・2021年7月着工、2023年春完成
 ・オープンハウスの決算月が9月期

ということなので、
寄付は
①2021年9月まで
②2022年9月まで
③2023年9月まで
の3回行われると想定されます。

オープンハウスの中期事業計画をみると、

それぞれの純利益計画は
2021年9月期 600億円
2022年9月期 610億円
2023年9月期 700億円
となります。

企業版ふるさと納税の控除を計算するには税引前を使うので税率35%と単純化すると税引前利益は
2021年9月期 923億円
2022年9月期 938億円
2023年9月期 1,076億円
と予測されます。

企業版ふるさと納税は前述のように税引前利益に対する寄付額の比率で控除率が変わるという若干計算が複雑です。

(1)総工費全額をオープンハウスの寄付金でまかなう場合

各年度の比率を同じにして寄付するとした場合、各期の税引前利益に対する2.7%程度を寄付するという感じで総工費が賄えそうです。
そうすると寄付額は
【寄付額】
2021年9月期 24.7億円
2022年9月期 25.1億円
2023年9月期 28.7億円
あたりと予測します。

2.7%の場合、オープンハウスの実質的な自己負担は前述の控除率の試算から約30%に減少すると考えられるので、
【実質負担額】
2021年9月期 約7.4億円
2022年9月期 約7.5億円
2023年9月期 約8.6億円
合計:約23.6億円
と予想します。

約54.9億円分がオープンハウスの法人税から控除されますので、約54.9億円の資金的メリットとなります。いやー凄いですね。

(2)総工費の半分を市の負担、残りをオープンハウスの寄付とした場合

同じように各年度の比率を同じにして寄付するとした場合、各期の1.3%程度を寄付するという感じで総工費が賄えそうです。
【寄付額】
2021年9月期 約12.3億円
2022年9月期 約12.5億円
2023年9月期 約14.4億円
合計:39.25億円

1.3%の場合、実質負担は同様に約20%に減少すると考えられるので、
【実質負担額】
2021年9月期 約2.5億円
2022年9月期 約2.5億円
2023年9月期 約2.9億円
合計:約7.85億円

市負担:39.25億円
※ただし、市の負担も地方創生拠点整備交付金(上限5億円、下記5ページ目参照。)等で減らせる可能性があります。

この場合でも約31.4億円がオープンハウスの法人税から控除され、約31.4億円の資金的メリットになります。この場合でも凄いです。

6.さいごに

 以上、OTA ARENAのスキーム解説を通してスポーツ×企業版ふるさと納税の破壊力を感じていただけましたでしょうか。
 ただ、企業版ふるさと納税は「寄付企業への経済的見返りの禁止」というルールがあります。今回のこのスキームは見方によってはオープンハウスの子会社が新B1ライセンスを取得するための寄付、という形になりますので、ストップがかかる可能性があったのではないかと思います。ただ、スキームとしてOKが出て今回発表に至っていると思いますので、他の地域にとってはこのスキームであればOKという事例になり、より検討しやすくなったのではないでしょうか。

 私も群馬の方々に負けないよう頑張ろうと思います!

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