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大学スポーツの法人化におけるガバナンス面での論点

1.はじめに

 とあるFacebookコミュニティで大学スポーツの法人化に関するディスカッションをする機会があったのですが、その際にガバナンス面での論点が色々と出てくるだろうと思い、整理したので、noteにも書き残しておこうと思います。

2.法人化の流れと背景

 大学スポーツで法人化の動きが出てきています。下記の記事のように、京都大学アメリカンフットボール部、慶應義塾大学ラグビー部、東京大学アメリカンフットボール部、明治大学サッカー部などが法人を設立しています。

 この背景にあるのは、外部から資金を集めて部の活動を活性化させようとする流れです。

 企業から資金を得たり、グッズ販売をして収益を上げると、当然ながら消費税や法人税の納税義務が発生します。また、スポンサー契約をはじめ他団体と様々な契約を結ぶことになります。この時に、法人化してないと、本当に法的に契約主体や納税主体として認められている団体なのかわからず(詳しい説明は省きますが任意団体が契約主体として妥当性があると証明するのには毎回かなりの説明労力が必要になります。)、企業や国税局に対しての信頼性が非常に下がります。

 法人化することによって契約主体、納税主体として明確になりますので、外部からの資金を集める活動ができるようになります。

ただし、注意点として
法人化=収益化
ではない、ということです。

 法人化は資金を集めるための箱を作った、というだけですので、しっかりとスポンサーやファンへの価値提供が実現できて初めて収益化が可能になります。

とはいうものの、箱を作るだけでも色々と決めなければいけないことがあります。

このnoteではそれについて書きます。

3.論点①部活動と大学の関係性

 誰が収益化の責任主体なのか、というものです。日本の大学スポーツはこれが非常に多様なので仕組みづくりが難航している部分が大きいです。

 アメリカの場合、責任主体はNCAAでは大学=学長となります。部活動の予算、監督人事等はアスレティックディレクターが権限を持っており、アスレティックディレクターは学長の管轄にあります。さらに、NCAA自体も構成される大学による合議制で運営されますので、リーグにも大学の意思が反映される仕組みになっています。
 このようにアメリカは主体が大学に統一されているため、大学の財務の中に組み込んで管理することができますし、人事も大学内の人事として明確にマネジメントができるので、わざわざ大学スポーツの法人化は不要です。

 一方で日本の場合は部活動は大学によって、OBOGが監督人事権を持っていたり、現役選手が全てを決めたり、アメリカのように大学が意思決定したりと、大学によってバラバラですし、同じ大学内でも部活動によって違うことがあります。
 大学スポーツ法人化に進む前に、この部分をはっきりとさせ、誰が何の管理を行うのか、を決めておかないと、かならずトラブルが起きます。

 収益化を目指したい主体がアメリカのように大学であれば、大学は学校法人という形で既に法人化されているので、その中に大学スポーツの会計を組み込めば法人化しなくても外部からの資金獲得はできます。

 ただし、多くの日本の大学は大学スポーツの会計を組み込むことを望みません。なぜならばほとんどの部活動のお金の流れはこれまで全く大学の会計には組み込まれておらず、部活動のお金の動きをしっかりと帳簿管理するのは大学にとって手間が増える=コスト増になります。部活動を大学の教育コンテンツとみなしていない大学にとっては部活動のためにコスト増のリスクを背負ってまで収益化を目指す動機が無いです。大学が部活動を教育コンテンツとみなしている場合でも、収益化を目指さず大学の予算内での管理に留める場合もあります。さらに、詳細は割愛しますが、収益化をすると収益事業会計の分離という経理上物凄く面倒な事態が発生します。なので収益化を目指したい主体が大学のケースは少ないです。

 このため日本の大学スポーツでは収益化を目指したい主体がOBOGの場合が多いです。その場合は大学の会計に組み込めないため、法人化という選択肢になるかと思います。
 この日本独特の構造が大学スポーツで整備しなければならないガバナンスを複雑にしています。収益化に成功した場合に、適正にそのお金が使われているのか、大学が監視しなくていいのか、でもそれは大学にとってただの手間が増えるだけではないか、など色々な意見が色々な所から出てきます。大学の代表として公認をもらっている部活動なので、大学からの意見を無視することはできません。その部分を大学と協議して関係性をすり合わせるプロセスが時間がかかると共に、大学とチーム双方に情熱を持った人がいないとなかなか前に進みません。

4.論点②支援法人の権限とガバナンス

 前項の部活動と大学の関係性によって、収益化を目指す支援法人を設立の際の権限とガバナンスの設計が変わってきます。

 (1)監督人事
 (2)予算策定
 (3)資金集め
 (4)チーム運営方針

等について、

 1)支援法人
 2)指導者
 3)選手・スタッフ
 4)OBOG会
 5)大学
 6)保護者

のどこが権限を持つのか、それぞれの意見がどのように反映されるのか、を整理していく必要があります。

大学の立場では、
「監督人事や収益化は支援法人やOBOG会で自由にやってもらっていいけど、学業との両立が危ぶまれるようなチーム運営はやめてほしい。横領・暴力等のコンプライアンス違反の防止や起きてしまったときに影響を及ぼせるようにしてほしい。」
だったり、
「大学の教育理念に沿った指導者を配置したい。それは大学の予算でやるので大学が収益化の主体にはならない。OBOGの方で法人化、収益化をしてもらえると助かるが、不正会計が無いように大学が状況を把握できるようにしてほしい。」
など、色々な場合があるので、ケースバイケースでガバナンスの仕組みを構築していく必要があるかと思います。

支援法人の
監視役(一社の場合は社員、財団法人やNPOの場合は評議員、株式会社の場合は株主)
経営役(理事、取締役)
執行役(事務局長的ポジション)
にどんなメンバーをそろえるかは、そのガバナンスの仕組みに応じて人選してくことが必要かと思います。

実際の法人化する際のガバナンス体制の例として東京大学アメリカンフットボール部WARRIORSの前代表理事の方がブログで公開されているので参考になります。

(下図は上記ブログより引用)

WARRIROSガバナンス

 これは東京大学アメリカンフットボール部と大学・OBOG会・保護者との関係性を踏まえて構築されたものですので、前述のように各部活動の状況に応じてケースバイケースでオリジナルなガバナンスの仕組みが必要になってくるかと思います。

5.論点③リーグのガバナンス

 これは少し法人化とはズレますが、日本の大学スポーツの大会運営は学連が主体となって行われています。アメリカの場合はカンファレンスという大学の合議体が運営をしています。この学連という存在も日本の大学スポーツを複雑にしています。

 ・大学の目的
 ・OBOGの目的
 ・選手の目的
 ・学連の目的
 ・支援法人の目的

が交じり合っていくため、収益化のためのスポーツの価値化がし難い状況です。収益化以外にも学業との両立や、医療サポート、コンプライアンス面のサポートなど、「何のために」「何を変えるのか」が大学スポーツ全体として統一的に取り組むことが非常に大変になっています。

大学スポーツ協会「UNIVAS」はこの部分の調整を何とかやっていくために設立されましたが、やはり調整は大変なようです。とはいえ、現状それを愚直にやっていくことが大事だと思うので、頑張って欲しいです。

ただ、もしかしたらアメリカのNCAAのように、大学が主体となる形を選んだ大学同士でリーグを組んでいく形が発生する可能性もあるかもしれません。

6.さいごに

 以上、日本の大学スポーツの法人化におけるガバナンス面での論点を書いてみました。
 個人的には収益化も大事ですが、その収益を活かしてより教育的価値を発揮した日本ならではの大学スポーツモデルをどのように構築していくか、がそれ以上に重要だと思っています。
 そのあたりは次項の過去記事をご覧ください。

ここまで読んで頂きましてありがとうございました!

7.大学スポーツ過去記事

アメリカのNCAAについて書いた記事

日本で大学スポーツを活性化することの意義。地方創生視点で。

大学スポーツがターゲットとすべきファン層について。


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