まず信じる
ある入居者が他の入居者に深刻な表情で「私…コロリかもしれない」と言っているのを聞いて思わず笑ってしまいました。
こんにちは、コッシーです。
さて、うちの施設には様々な症状の認知症のご入居者がおります。
重度の短期記憶障害の方もいれば、猫の幻覚を見られる方もおります。自分の中のいろいろな記憶が混在してしまい、実際には起こっていない出来事がご自身に起こったかのように話をされる方もおります。
僕らは多くの認知症の方と普段から接しておりますし、お相手は肉親ではなくご利用者になりますので、だからこそどれだけ不可解な事を言われたとしても笑顔で受け入れる事が出来ます。
しかしご家族ではそういうわけにはいかない場合があります。特に子供の立場となると、威厳のあった父親や凛としていた母親を知っているからこそ、現在とのギャップに苦しみ、親御さんがされるおかしな言動を理解できず怒ったり、拒絶したりする方も決して少なくありません。
それでも認知症の親御さんとの付き合いが長くなってくると、そんな親御さんも徐々に受け入れる事ができ、事実とは異なることを聞いても、「はいはい(笑)」や「そうだね」と受け流す事ができるようになったります。
うちの入居者の一人でNさんという男性の方がみえます。
Nさんも認知症であり、時折事実ではない事を話されることがあります。
そんなNさんには娘さんがおります。娘さんはNさんが言われる事実と異なる事を否定したり怒ったりはしませんし、また受け流すこともしません。
娘さんはNさんが言われる事をまず信じます。
先日、施設の方にNさんの娘さんからこんな電話がありました。
「いつも父がお世話になっております。父がデイサービスで靴を買ったと言っています。多分買っていないと思いますが、念のため確認しておこうと思いまして」
娘さん曰くNさんから「デイサービスで靴を買ったが料金を支払っていないのでお前が払っといてくれないか」と連絡があったとのことでした。
うちのデイサービスで靴の販売は行っていないため、当然Nさんが靴を買う事は絶対にありません。おそらく娘さんもそれは分かっていると思います。
ともすれば、「分かったよ」と返事をしつつも特にこちらに連絡をすることなく受け流す事もあり得るお話です。多分そうしたとしてもNさんは忘れてしまうと思います。
しかし娘さんはそうはせず、Nさんが言われる事をまず信じて、そしてこちらに確認の連絡を入れられました。
実はこれは今回に限った話ではなく、もう何度となく繰り返されてる事です。もちろん娘さんはNさんが認知症だという事を理解されています。それでも娘さんはNさんのお話を否定したり受け流したりするのではなく、まず信じようとされています。
スタッフの中には、そんな娘さんの行動に疑問を持つ者がおり、不毛なやり取りだと言う者もいます。
確かに、認知症特有の妄想や思い違いの類であり、こちらへの確認は特段必要ないかもしれません。
娘さんもきっとお父さんであるNさんの言動が間違っていると分かっていると思います。ですが、信じてあげたい気持ちがとても強いんだと思います。
以前に娘さんからNさんはあの年にしては珍しく、全く厳しくなくとても優しい父親だったと聞いたことがあります。
お孫さんの面倒もよく見てくれて、自分が仕事に専念できたのはお父さんのおかげだと言っていました。
もしかしたらそんな優しかった父親の言われる事を自分くらいは信じてあげようと思われたのかもしれません。
娘さんの真意は分かりませんが、娘さんの行動はとても素晴らしいと思います。なかなか出来ることではありません。是非今後も続けて行って欲しいと思っています。
僕の両親は二人とも健在です。一緒には暮らしていませんし、特に用事が無いと連絡を取らないので最近の動向は全く分かりません。
今年はコロナの影響もあり正月以来会ってもいません。
Nさん親子を見て、なんとなく自分の両親が気になり先日久しぶりに連絡してみました。
すると親父が新車を購入したらしいけど、納車日に事故って廃車になって保険で同じ車がつい先日納車されたという訳の分からないことになっていました(笑)
とりえあず怪我はなかったとのことで元気でやってるらしいです。
また今度、コロナの状況を見て久しぶりに息子を連れて行ってきたいと思います。
現場から以上です。それではまた。
コッシー
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