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笑顔が見たい

前回の記事で普通に【マダム】って言っていますが、マダムの意味がよく分からず完全にイメージだけで使っています。

こんにちは、ショッピングモールで犬を胸に抱いて歩く女性は絶対にマダムだと思っているコッシーです。


さて、うちの入居者の中には必ずしも望まれて入居されたわけではない方がいます。
本当は住み慣れた家、慣れ親しんだ街でずっと暮らしていきたいと願っていますが、家族への負担やご自身の身体状況を考えて不本意ながら入居を決心されたケースもあります。

むしろ心情的にはルンルン気分で入居される方の方が少ないのかもしれません。


最近、新しく入居されたKさん(80代女性)も望まれて入居したわけではありませんでした。

Kさんは入院先の病院から退院後そのままご入居されましたが、ご本人としてはご自宅に帰る気満々でした。
しかし、同居していた息子さん夫婦は全くその気はありませんでした。

どうやらKさんと息子さんの奥さんとの折り合いがあまり良くなく、このまま同居することがお互いにとっては良くないと息子さんは判断されました。

Kさんの入院中にいろんな入居施設を見学に行き、うちを気に入ってくださりKさんを説得されたそうです。

Kさんもお嫁さんとの折り合いが悪いことに自覚はあったみたいで、自分が身を引くのが1番だろうと渋々納得されて、うちに入居されました。


「お世話になります。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします」

そう丁寧に挨拶されたKさんに笑顔は全くありませんでした。

うちの入居者の方々には出来るだけ楽しく暮らして欲しいと願っていますし、そのために出来ることはしたいと思っています。

しかし、ご自身が望まれておらず、おそらく気持ちの整理もついてないまま入居された方に、”楽しく生活”することはとても難しいと思います。

もちろんKさんから相談に乗って欲しいと言われたらいくらでも話をするつもりはありますが、頼まれてもいないのにこちらからKさんの悩みを聞くのも違うと思います。

無責任かもしれませんが、こればかりは無理に介入するのではなく、時間に解決してもらうしかないと思っていました。


とは言え、何かのきっかけでKさんの気持ちが晴れることもあります。
無理やり話を聞く事はしませんが、出来るだけ明るく声を掛けるようにしていました。

ただやはりKさんの気持ちは沈んでおり、こちらが挨拶をしても返事はしてくれますが、表情は曇ったままでした。

息子さんが施設に顔を出された時などは少し笑顔を見せますが、それでも息子さんが帰られるとまた沈んだ表情に戻りました。


そんな状況が幾日か続いたある朝のことでした。

朝ご飯のために食堂に来たKさんは晴れない表情をしていました。
こちらが「おはよう!」と声をかけると、「おはようございます…」と小さな声で返事をしてくれますが、それ以上は何も言わず席につかれました。

元気になって欲しいなと思いながらも、そっとしておくことにしました。


朝食を配膳した後、ある1人のスタッフが「昨日インフルエンザの予防接種を打ってきた」と話し始めました。

どうやらコロナワクチンよりも強い痛みがあったみたいで、腕もかなり腫れたと言っていました。

よく見ると確かに右腕がパンパンに腫れています。


「うわぁ…めちゃくちゃ腫れてるじゃん。やばいねこれ!痛そう!」


僕がスタッフの右腕を指差して驚きながら言うと、スタッフは僕の顔を睨みつけて、「いや打ったの左腕なんですけど!!」と言いました。


「…へ?ひ、左腕…?そ、そう…そうだよね!きっと右腕にまで影響が出ちゃったんだね!うん、間違いない!ははは!」

「そんなわけないでしょ!!」

「ご、ごめーん!!」

「許さん!!」

「ひぃ!」


そんな”日常的な”やり取りを見ていたKさんが突然コーヒーを吹き出しました。そして大きな声で笑いました。


「あはははは!あなたたち本当におかしいわね。あはははは!」


Kさんの笑い声に呼応するように他の入居者も笑いました。
食堂がみんなの笑い声に包まれました。

その日以来Kさんの顔は少し晴れた気がします。

他の入居者と会話をする姿も見かけるようになりました。


気持ちが晴れないのに無理に笑う必要はありませんが、心から笑えることが出来て、そしてその手助けが少しでも出来たのならこんなに嬉しい事はありません。

僕らにとっては日常的なやり取りでしたが、自然にKさんの笑顔を引き出すことができました。

スタッフの太い腕に…ゴホンゴホン、スタッフのインフルエンザワクチンで腫れた腕に本当に感謝したいと思いますが、発言には十二分に注意したいと思います。


それではまた。

コッシー

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