三十路インタビュー Tosten: 映画館館長

「上映会をさせてください。」

彼に電話をして初めて会ったときの彼の印象は強かった。全てを見透かそうとしていたのか、彼のガラス玉のような青い目でじっーと見られる。物静かで冷静に言葉を発する。まさに私とは逆。そして私の苦手とするタイプ。それでも話していくと慣れてくるもので(緊張感は最後まで取れなかったが、)なんとか無事に目標の上映会も終えることができた。

ということで今回のインタビューはHalleにある"Puschkino"という映画館の館長Torsten Raabe さんどす。こんな心の友達がいたらいいなーと思う。本当にいい人だった。

画像1



 《簡単に自己紹介をお願いします》

名前はTrosten。今50才で2000年頃からこの映画館 「Puschkino」を企画し始めた。その前は電車の機関士をしていつからか映画関係の仕事をするようになった。電車の機関士は小さな頃からの憧れでその職業訓練して5年間働いて面白かったんだけど、仕事時間の割り振りとかが自分と合わなくなり、変な責任も出てきて寝れなくなってしまい精神的な問題が出て、まったく違うことをやろうと思い仕事をやめた。

そのあと少し経ってハレにある LABIM というクラブで「Filmclub」というのをして、ドイツ統一後(1990年)すぐに映画上映をするイベントチームを作った。昔のレトロな手回しの映画上映機をもらったりして楽しんだよ。その後他の映画館で働いて今に至るかな。


《Puschkino (映画館)についての歴史をお願いします》

「Puschkino」は2005年にできて、この名前はPuschkinというロシアの文学者の名前から取った。この建物自体は東ドイツ時代にはロシアとの文化交流の場としてPuschkin-Hausという名前で存在していた。そのPuschkinという名前とドイツ語の映画館であるKinoを合わせた語呂遊びから「Puschkino」は生まれた。財務状況は一年に一度のKulturforderung(ドイツ国の文化援助金)をもらっているけど基本的には入場料でまかなっている。


《あなたの具体的な仕事は?》

上映プログラムを組むことや映画館の色々な調整して書類の作成や食べ物などを買ったり全体のマネージメントをしている。チケットを売ったりはしていない。上映プログラムでは大衆向け、大人向けなど分けてやっているけど、あまりこだわってない。なんか見ていて恥ずかしい映画や上映が情けなるような映画は上映しないようにしているくらいかな。



《あなたの仕事のおけるモチベーションは?》

うーん、実はあまりないんだけど、ここの主人でいることかな。それはこの建物や上映ホールがきれいで魅力ある状態をキープすることでそのうえで映画というものを提供することかな。だから素敵な映画を素敵な空間で提供することだね。自分も映画館に行くことが好きだったからその思いをそのまま見せている感じ。映画が良くてもその環境がよくなかったり環境が良くても映画が面白くない、ということは避けていきたいね。


《上映する映画を選ぶポイントは?》

何かこれといって基準があるわけではない。さっきも言ったけど映画上映をしてこっちが情けなくなったりすることだけは避けたい。来てくれた人が映画を楽しんでくれて、何か刺激になって勉強になってくれればいいと思うかな。だからメインストリームの映画でも全然いい。ま、どうやって映画館が機能するかだね。映画はなにか考えを与える可能性があるからね。だからその空間と時間の提供ができればそれでいいと思ってる。みんなで同じ部屋で座って大きな画面で見ることに意義があるんだ。

画像2

画像3

《 では映画はどうやって選ばれる??》

そうだね。一週間に大体15本の新しい作品が「上映しませんか」と来るから全部を見るのは無理だね。大体その中から2,3個の映画は興味あるね。でもその映画の量は痛みを伴うよ。笑 自分の好きな映画という観点は大事だけど映画館を機能させないといけないしね。だから映画上映する映画も事前に全部見れないこともある。

他にはイトルで興味を惹かれたりすることもあるね。多くの人を喜ばせることは難しいけど来てくれた人たちが満足してくれればいいし、少しずつ経験でどの映画を上映するかの決定方法は学んでいってるね。

だからさ、君がこの間やってくれた日本のドキュメンタリー映画にあれだけの人が来てくれたのには正直驚いた。ドイツ語字幕ではなく英語字幕でさ、さらに日本の政治や文化に興味を持つ人が少なからずいるんだなと思ったよ。実は10人くらいで20人来れば大成功だと思ったよ。(当日は50人ほど見に来てくれました) 自分もドキュメンタリー映画も好きだけどね、映画館では難しいね。ドキュメンタリーはテレビで見る方がいいと思うし映画館ではあまり集客に期待はできないね。なんていうか「面白い」ものでないしね。今のプログラムでもAtomkraftについてのドキュメンタリー映画を上映してる。こんな感じで毎月1、2作品ドキュメンタリー映画を上映して子供向けの映画も2,3作品上映しているかな。みんなが来れるようにしているね。


《好きな映画は?》

無いね。ここで自分が何か好きな映画をぱっと言えばそれは魅力的かもしれない、けど無いんだよ。自分は映画館で映画を見るのが好きでさ、「特にこれが好き!」という映画はないよね、もちろん自分の好きな映画の方向性はあるけど。例えばさ、Boy Hood (日本名: 6才のボクが、大人になるまで。) という作品は良かったかな。それとかぜんぜん違う方向性で、70年代のスティーブ・マックイーンが出てるアメリカの戦争映画も好きだしね。特にこの映画はもう二度と映画で見れないからね。本当に自分はどんな映画でも見るよ。



《若者に見せたい映画?》

うーん、またそういった質問か。笑 

ないね。。。笑

、、、しいて言うなら「Viktoria」という映画かな。三人のベルリーナーとスペイン人の女の子がクラブで出会って一夜を一緒に過ごすと言うものでその映画は一気に撮影されて。その映画は真実味もあって、ドキュメンタリーチックでなんかおもしろいかったね。ま、それが今の一番好きな映画かな。何度も見ている映画はコンドルと言う70年代のスパイ映画かな。ま、誰も知らないかもしれないけどね。


10年後のあなたの生活のイメージは??

この生活を続けて生きたいね。家族もいるしね。

私は映画で生きている。それはもちろん自分の生活もそうだけど、ここで働いている人の責任も負わないといけないからね。



《あなたにとって幸せとは?》

興味深く、オープンで、そしてしっかりと自分と向き合っている人間と出会うこと。

画像4


《ベンゾウの一言》
ベルリンに済んでいたころ驚いたのは映画館でイベントがあるということ。

無料上映会が行われてたり、一回限りの上映会が行われ監督やそのジャンルの専門家が来てその上映後に質疑応答会があったりもした。いろんな映画館の上映内容をチェックしているとけっこう無料イベントがあった。

また政治家の選挙キャンペーンでもある党が映画館を丸々貸し切って話し合いやら討論やら映画上映やらに使われているというものあった。

ハレでは規模は小さくなるがそれ同様に映画館ではイベントが行われていた。今回のPuschkinoではそんな無料上映会があるとき(のみ)に何度か来ていて、いい雰囲気だなとしみじみ感じていた。今年の春にハレで映画上映会をどこかでオーガナイズドしてくれないかと言われた時は、このPuschkinoでやらせてもらおうと即決した。

その繋がりで今回は映画館経営者の話を聞けた。彼が発する言葉や表現は安直な表現だが、「しぶかった」。何より彼が映画(館)が好きなことが良くわかった。

自分のドイツ人同居人をはじめとして、彼らは友達を家に呼んで映画上映会をする。面白いのはその上映後に他の映画と比較したり批判したり、その見た映画について話したりする。それはまるで感想発表会のようだ。そして大学の授業内でも一緒に見るということもあった。そしてその内容について話し合う。映画が社会に与える影響は少なからずある。映画は様々な方向性のものがあり、それらは夢を見せる内容や問題提起をしてくれる。

その映画を見てそれについての解釈や監督の思いを上映中に見つけたり話し合って互いの意見を交換し話し合うということはある意味では「一つの学びの場」で存在すべきなのかもしれない。



この三十路インタビューについて→https://note.mu/kosokosolife/n/n6d359d08e7e0

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?