三十路インタビュー Ants: LGBT支援団体、ボス

ドイツでも日本でも多様性という言葉をよく聞く。しかしこれは何をもって言うのだろうか。  Macの自動検索から、、、
「多」は数や量多さ
「様」は人が本来持っている性質、もの事や人の有様
「性」は 1. 本来持っているもの、うまれつき 2. 雄や雌など男女の区別、区別があることによって起こる本能
 
うむ。
 
今回インタビューを引き受けてくれたのはその「性教育」を通して何が「多様性」かを教える実践的な団体 Lebensalt (訳: ライフスタイル)のAnts Kielさん。彼自身も同性愛者ということで、自らの経験からくる彼の仕事にかける思いは強い。

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《簡単に自己紹介をお願いします。 》
アンス•キール、51才です。出身も通った学校も大学もハレ。実は高校卒業して兵隊の学校に行っていただよね。東ドイツ時代には大学で学ぶためには兵役があったからね。大学の前にはそこに行かなくてはならないかった。自分はそのとき全く何をしたいのかわからなかっただけど兵隊というのは全く自分には合ってなくてね、そしてその後は雑誌編集の仕事をしていた。そして1990年にドイツ統一があり、1990年から1995年まで大学で教育学を学ぶことにした。自分は社会教育が中心的テーマでDiplom(日本で言うと学士と修士の間)の卒業論文のテーマは性教育について書いた。つまりどうやって小さい子供に性について教えられるかで、特に思春期についてや避妊の方法、性のアイデンティティについてだった。卒業後はボランティアしたり、たまに学校に行って、その研究テーマについてここで講師として働いていたかな。2009年からそれまでの会員兼講師という立場ではなくしっかりと雇用された。そしてそのまま代表になったかな。
 
 
 
《今までの活動の動機は? 》
自分の経験の中でしっかりとした性教育が無かったこと。自分は15才でゲイであることをカミングアウトした。自分は最初は女性とも関係を持っていたんだけどその関係は機能しなかった。ギムナジウム(日本での高校レベルの学校)でも性についての教育はほぼなかった。特に気になったのは何が愛なのかとか何がセックスなのかということなんだけど、それについて扱う授業もなく生物的なものしか習わなかった。
これが背景で性教育の必要性を考えていて、自分はそのプロになった。
自分はドイツ統一後の1990年から大学で学び始めたんだけど、そのときにこの団体を他7人と立ち上げた。旧東時代からそういった同性愛の活動はしていてね、最初はキリスト教の団体が理解してくれて教会の倉庫でパーティーをしたよ。そう、キリストの十字架の前で踊っていたということ。笑
 
 
 
《東ドイツ時代の同性愛者の状況はどうだった? 》
ま、今と比較するとオープンにするのが難しかったかな。何がと言えば、パートナーを見つけることかな。新聞とかでのパートナー探しで同性愛の告知が全然なかったし、できなかったかな。でも法律的には西ドイツよりは少し緩かったんだ。具体的には未成年との同性愛は西ドイツでは禁止されてたんだけど、東ドイツでは認められていたんだよね。でも、性教育については西ドイツの方が良かったし多面的だった。
 
 


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《団体についての紹介 》
1990年にBBZがができた。
これが何の略かというと、Begenung- und Beratungs Zentrum (※訳 出会いと助言センター)で、でも他にも同じ名前で全くBBZがあってそれはBerufs beratung zentrum(※訳 職業助言センター)というのがあってね、笑 だから区別化するためにサブタイトルをつけることにした。それはSchwul-Lesbisch-B-sexial Interesse Gemeinschaft で同性愛者が同権を持ってそういう人たちが社会に受け入れられるようにした。
そしてそのサブタイトルは Profilierung zum Fach Zentrum für geschlechtliche Identität(※性別のアイデンティテーについてのプロッフェナルな専門センター)になって、もっとプロフェッショナル化をすることにした。それは2011年で、この名前になって性同一障害の人にも対応できるということをはっきりさせた。
 
この団体のVorsitzender(※会長)はHendrik Langeで政治家、Vorstand (※重役)には警察と先生が二人(社会と化学の先生と音楽の先生)がいる。すごい多様性でしょ。笑
(政治家でありながらこの会長を勤めるHendrikさんの公式ドイツ語HPです→https://www.hendriklange.de/politik/)
 
財政については、私たちの団体はハレ市から補助金からもらっていて私の給料はハレ周辺地域やザクセン•アンハルト州からの仕事でなりたっている。私たちの団体には同僚がもう一人いてその人はHPなどを担当しているが、彼女は性の歴史についてのプロジェクトをして向こう3年間の補助金をドイツ全土にあるAktion Menschenという大きな財団から補助金をもらっている。(この団体は宝くじ協会のようなもの)
 
他にはボランティアの人が手伝ってくれている。今、三つの大きなグループが定期的にここでイベントをしている。その中の一つのグループはカラオケ大会を月に二回企画していて誰でも来れるようにしてる。他には、コスプレ大会をしているとこもあって、これは面白くて別に同性愛とか性同一障害じゃない男の人がただ女性の格好をして飲んだりするって言うのもある。あとはトランスセクシャルの人のみの定期的なイベントもある。(※トランスセクシャルは肉体的にも変えたり変えようとしている人)
 


  《同性愛についてドイツの状況は? 》
10年とか20年前から性についての情報がネットで簡単に見つけられるようになってきているし、学校で行われる授業の数も増えてきている。でも逆に全くこのテーマを扱わない学校もある。本当は話されなければならないんだけど、先生自体がこのテーマをオープンにすることを恐れていると思う。でもこれは子供達によくない、例えば同性愛に対する差別的な言葉が存在して使用されているからね。もし学校でこういった差別用語に対して何かしらの対応が行われなければ、こういった言葉の持つイメージが原因で同性愛であった場合の自分の性にネガティブなイメージを持ってしまう。そしてそのネガティブなイメージから人には打ち明けられずふさぎ込んで一人で苦しまなくてはならない。
もしハレで女同士が手を繋いでいたならあまりつっこまれたりしないけど、男同士だったらいじめられたりその差別用語を言われたりひどいときは暴力に合うこともある。
そういったステレオタイプや偏見によって現実の中で性の問題が受け入れられず寛容されず拒否されたりすることになる。
 
具体的な例になるけど、最近私の知ってる人で18才レズだったんだけど彼女がカミングアウトをして母親に勘当されたという。母親は自分の子供に「普通」を求めていた。ここでは時間が必要でしっかりとした情報のサポートが必要だった。時間の長さによって状況も変わっていくし情報があればその問題に対しての考えもオープンになっていくからね。大人のためにこの考えを学べるワークショップや本があって映画もあるからね。そういった情報を得てから後でもう一度じっくりと話せばいい。だから母親にもサポートが必要となるし、私たちはそういった大人への性教育も提供しているよ。
そういった自分の性に対して不安や疑問、問題を持っている人はホモでもレズでもトランスでも似ているからね。そういう意味でも情報交換の場という意味でも私たちは存在し続けるよ。
 

そういうときには一番大事なのは「そういう問題を抱えている人は一人ではない」と知ることで、だから私たちはそれを伝える、あなたは一人じゃない、とね。
 
これも自分の経験から思ったことだね。自分が受けて生きた性教育に対する不満があったし、今でもその重要性や必要性もわかるからね。その経験から自分が取り組みたいことは今でもある性に対する差別かな。少し例を話すと、自分が昔住んでいた所の前に卓球台があってねそこで若者がいつもたむろっていんだ、ま、彼らはよくアルコールを飲んでいて、退屈して周りを観察したりしていてね。自分も不運だったかもしれないとしか言えないんだけど、彼らも自分たちのたまり場の前を通る人、つまり私がゲイだということに気がつき始めて、いつからか自分が前を通ると同性愛者に使う差別用語を私が通るたびに言い始めたんだ。
 
その経験がね、自分を奮い立たせた感じかな。この状況を変えていかなければならないことを強く思わせてくれたかな。
 
自分はハレ以外にも、このザクセンアンハルト州内の学校に呼ばれて性教育をするんだよね。ザクセンアンハルト州にある都市では遠くともハレからだったら三時間あればどこでもアクセスがつくけど、学校では8時間から授業が開始するところもあるから朝早くに起きなければならないこともある。でもねそんなときには学校では私からたくさんの話を聞けるのを興味持って待っていてくれる。だからいつも、どんな話をしようかななんか考えたりしてるよね、それはそれは楽しいよ。
 
 
 
《では実際に学校ではどんな授業をするのですか? 》
私が扱うのは二つのテーマで、一つは7,8年生対象(日本では中学一年、二年)で男女に分かれて授業をする。自分は男子生徒担当で同僚が女子を担当する。内容は性、愛、反抗期、避妊、エイズ、そして性病の感染防止。その授業時には嬉しいことに担任の先生が教室にいないんだよね。だから生徒たちも外から性について教えてくれる人が来ていつも監視している先生がいないのを理由に強い興味を示してくれるんだよね。さらにそのテーマは繊細なで個人的なところだからね。
そしてもう一つのテーマは性による差別だね。そこでは自分はいろんなゲームをしたり、映像を使ったり、写真を使ったり、本当にいろんな種類の授業方法を使う。みんなで丸くなって座ったり、小さなグループになって話してね、大事なのは差別をする側とされる側の見方を変えたり、その立場を変えたりする。
 
 
 
《仕事で得た素敵な経験を教えてください。 》
たくさんあるよ。二ヶ月前に半日の授業をある学校でしたんだ。そして最近またその学校に打ち合わせに行った時にその時の生徒がいてね、そのときに彼らが自分に気づいて、「Hackie, Wir mögen Sie!!!!ハッキー(※彼のあだ名)俺たちはあなたのこと大好きだよー!!」って言ってくれたんだ。つまりね、生徒たちは私がした授業がとても気に入ってくれてたんだよ。自分が選んだテーマとやり方が良かったということだね。
その時の授業では私は学生たち何がしたいのか聞いて、まず私自身が自分がホモセクシュアルであるということを公表してね、生徒たちは自分にいろんな質問をしたりして、最終的に授業構成が合っていて自分と会うことを喜んでくれてね。それはねとてもかわいかったよ、中1とか中2でね、まだみんな小さいのにやっぱりそういうことに興味があるし知りたいんだよね。だから自分が先生じゃないって言うの個人的な話ができるからねいいよね。
いつも授業が終わった後にたくさんの質問をもらって、明日はそのメールに対応しなくてはならないんだよね。多すぎることがあって、質問を拒否したり他の団体に回したりすることもあるけど、できることはやってるよ。
 
自分はそういった性や性差別に対しての主張授業を9,10,11年生(日本で言う高校レベル)にもやるし、最近は専門学校でもやる、そのときには20代を超えている人もいるからね。これから自分は仕事をしている人たち対象にこういうテーマでやっていきたいね。先生とか、看護師とか介護士など人と直接関わる人ね。そういった内容のことがどんどん気楽に話されればいいかな、もっとリラックスしてね。
例えば、孫がおじいちゃんに会いにきて気軽にカミングアウトとかそのことが話せる世界になってほしいかな。やっぱりねそういった状況を作るためにはまず、ちゃんとした情報を持ってほしいしそれによって気楽に話せたりすると思うんだよね。何が性なのか?実際どういう、どれくらいのバイセクシャルのや同性愛の人がどれくらいいるのか、などね。
そしてね、例えば他の文化でそういうものがどう見られているのかも興味深いよね。男同士がキスをすることが死罪になるところだってあるし二人の女性で一緒に子供を育てている家庭がいるとか。そういう情報をうまく提供することが出来れば、そういう偏見や、先入観を壊すことも出来ると思うんだよね。
 
 
 
《この団体が持つ教育的な面を教えてください? 》
私たちはね実践的で多様な可能性を与えることができる。大学はもっと学術的で情報的で理論的なんだよね。自分たちは教育的実践を標榜しているし自分たちは直で若者と関わっているんだよね。自分たちは大学のような存在でもないし、学術的な団体でもないしそれを教える訳でもない。この基礎には学術的なことや理論的なことは必要となっているんだけど自分たちは実践する団体である。だから、たくさんの理論は学んだよ。
 
 
 
《あなたの目標は? 》
この仕事が大好きだから続けたいね。でもくたびれるから自分もそろそろ出来なくなると思うんだよね。
これからは対象を若者ではなくて、学校の先生とか幼稚園の先生とか年齢の高い人にこういった内容の授業やワークショップをしたいかな。まずはそのために他の能力をあげるため学校やコースに通ったりしようと思ってる。まずは今やってることをまず続けないと。
プライベートでの目標はね、、、一年前くらいにインターネットである人と出会った彼氏がいるのさ。彼はザクセンアンハルト州に住んでいるんだけどハレからは少し離れいて今は一ヶ月に一回会ってる。今もきっと自分のことを待っていると思うし、その愛ある関係が続けばそれでいいかな。毎日電話をしているよ、そう毎日。それが愛だよ。笑
 
 
 
《愛、、、あなたにとって愛とは何ですか? 》
まずね、体の関係とか性欲っていうのは非常に肉体的でね、それは裸で抱き合ったりするという意味でもだよ。でもね、愛って言うのはね、、、精神的で奥深いところにあって情熱的でロマンティックな感情だよ。性別関係なく一人の人に対してのものでそれは自分の独占的な感情なもの。だからその愛する人は他に交換できないものだと思うんだよね。それは心の底から感じるもので一緒にいてとても居心地がいいし一緒に時間を過ごしたいと欲するんだよね。
それでもたくさんの人を愛せることもいるし、肉体関係のない愛もあるからね。色々とあるよね。
そういった質問は本当によく聞かれるよ。ハレには他にも妊娠とか性暴力とかを担当している団体もあるからそこに話を回している。
 
 
 
《あなたにとって幸せは? 》
自分を楽しませる仕事があって、スポーツや音楽を楽しむ時間があることかな。新しいスポーツに挑戦したりする元気も大事だよね。あと音楽だね、昔はよく踊りに行ってたんだけどね最近は減ってきたかな、でも今でもたまに踊りにいくかな、Pop Rockとか。
そしてもちろん彼氏やおかんの人生がうまくってること。






《著者の一言。終わりに変えて》
最近会ったベルリンの日本人に昔の話を聞いた。彼は自分が同性愛者であることに気づいたのは高校の頃だったという。しかし自分が同性愛者であることをほとんど公にせず親にも言えなかったと言っていた。日本ではこういうことをカミングアウトしても受け入れてもらえなかったりするし嫌な反応があるかもしれないから誰にも言えず苦しかったと言っていた。ただ少しでもそのことについて話せる友達が数人いたら良かったし、実際に大学に入ってそういう友達ができはじめて変わったとも言っていた。
 
さてかくいう私を振り返ると、自分もそういった言葉に何かネガティブなイメージを抱いていた。それはいつかどこかで自分がその言葉を通して習得した反応であるのだがベルリンに来て公園で同性で抱き合ってキスしているのを見ていたり、クラブで変な光景を見たり、何よりそういう友達が出来たことでどんどんその偏見はなくなってきたし、今はもうあまりそういうことには興味が無い。
 
つまり、こういうことは学べることで、今回インタビューさせてくれた団体があれば言葉ではなく体で学べたら、性だけではなく多様性ということを少しは理解できるのではないかと思う。そしてそれぞれが自分の感情に嘘をついたりせず、それぞれが生きやすい社会に近づけるのではないだろうか、などと思わせてくれました。 愛っていうのは真ん中に心があるんだよって言われたってさ、わかんない。
 
 
思春期、春を思う時期、春はもうすぐ 

Lebensart HP→ http://www.bbz-lebensart.de/CMS/  

この三十路インタビューについて→https://note.mu/kosokosolife/n/n6d359d08e7e0

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