報道の委縮とフェイクニュース(3)
※この記事は、広島大学の講義レポートとして作成したものを、一部を加筆・修正して載せております。講義の担当教員には許可をいただいております。
〇法とテレビ報道の現状
まずテレビ報道の法による規定を考えたい。国民が権力への制限をする機能を持つ最高法規である日本国憲法の第21条(1)を引用する。
第21条
1. 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2. 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
この条文から、政治的なテレビ報道において、出演者や取り上げた内容をキャスターが話すことが、「言論」とみなされて、保障される表現の自由になりうる。また、それ以外の内容も「一切の表現」とみなされる。
ここで着目するのは、最高法規において行政による検閲は禁止されているが、報道後に行政が干渉することがグレーゾーンだと推察できる。政治家を1権力者として見るならば、政治的な報道内容に、圧力をかけることは認められていない。
但し、彼らを1私人として捉えることも可能である。先述したことにならないように、言論の自由が保障されるのではないか。また、個人としてのプライバシーも、私人同様に扱われる部分もあり、報道によって、名誉棄損になるのではないか。ここでまた憲法を引用する(1)。
第11条
国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
第12条
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
第13条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第19条
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
「公共の福祉」とは、権利を行使することで、他人の人権と衝突しないために、権利の調整を行う概念で、その際合理性や権利行使による影響が十分検討され、制限やその損害が最小限であり、また代替措置が講じられるべきこと、といった条件を満たすことが前提(2)となっている。こうしたことは、11~13条で規定されており、報道によるプライバシー漏洩の問題は、幸福追求権内にあるプライバシーの権利として、幸福追求権を含めた13条として保障される(3)。
続いて、政治関連のテレビ報道に関する諸法律の動向にもついて確認する。放送法第3・4条では、次のように定められている(4)。
第3条
放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。
第4条
放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
1公安及び善良な風俗を害しないこと。
2政治的に公平であること。
3報道は事実をまげないですること。
4意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
ここから、放送が法律によって制限できることが見て取れる。そうなると、テレビ報道の自由が簡単に法律で制限できるようにも取れるが、憲法第97・98条(5)を根拠として、表現の自由を制限できるような法律を取り消せる。
以上のように憲法と放送法を照らし合わせると、法的には政治家に関するテレビ報道に関し自由が保障されると考えられる。
ここでテレビではないが、政治家の報道に関して訴訟となった判例を取り上げる。昭和61年に起こった、北方ジャーナル事件である。この事案は選挙候補者が裁判所に対し名誉棄損として出版物の事前差し止めを求め認めたことへの相手の出版社からの損害賠償と検閲にあたることへの訴訟であり、次のように請求棄却となった(5)。
ここから考察できるのは、表現内容が虚偽および専ら公益を図る目的ではないのが明らかで、かつ政治家にとって著しく回復困難な損害を被る場合は出版が差し止められるので、テレビ報道でも同等と考えられる。これは事前の差し止めだったが、事後の場合も損害賠償が可能ともとれる。実際、名誉棄損に関しては、1980~2010年代においてテレビへの訴訟において(森喜朗、甘利明)政治家が勝訴している(7)。
が、内容が政策批判や、報道が政治家のプライバシーと関係ないものの場合、これに政治家が介入するのは憲法や法律違反になると考えられる。最も、テレビによる政権批判を偏向報道とみなし、放送法第4条2-4項を根拠に争うことは出来るが、メディアと政治権力のパワーバランスでは後者の方が強い。しかし最高法規の憲法21条の規定と放送法第3条の規定に基づけば、21条が優先されると考えられる。
しかし、そうなるとこのテレビメディアの委縮、すなわち政権の政策内容を多角的に捉え、批判することで不利にならないと法律的には保障されるので、委縮の原因は他にあるとも見て取れる。報道に関しては、事前に制作関係者や内容によっては相手ともコンタクトをとるので、テレビ報道制作過程における政治家とテレビ会社の関係を明らかにする必要がある。
〇引用文献
1. デジタル庁. “日本国憲法”. e-Gov法令検索. [施行 1947-05-03] https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=321CONSTITUTION [参照2022-06-05]
2. 宮本 健太. “公共の福祉とは?人権制限の仕組み〜コロナ禍における適用事例も解説”. べリーベスト法律事務所. [公開2021-12-08]. [更新2022-04-11]. https://best-legal.jp/public-welfare-50516/ [参照2022-06-05].
3. 衆議院憲法調査会事務局. 衆憲資第28号. “知る権利・アクセス権とプライバシー権に関する基礎的資料 ―情報公開法制・個人情報保護法制を含む―”. 基本的人権の保障に関する調査小委員会. P2-4 [参考資料作成 2003-05-13]. https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/chosa/shukenshi028.pdf/$File/shukenshi028.pdf [参照2022-06-05].
4. デジタル庁. “放送法”. e-Gov法令検索. [施行2020-03-31]. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000132 [参照2022-06-05].
5. 法務省. https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/665/052665_hanrei.pdf [参照2022-06-05].
6. 総務省. 「言論の自由を守る砦」に関する基本認識(案). P6. https://www.soumu.go.jp/main_content/000072430.pdf [参照2022-06-05].
7. 山田 隆司. 政治家の名誉棄損訴訟 -対メディア型における司法判断の経年調査-. P74-78, 85, 87. sokahogaku50_2_06.pdf [参照2022-06-05].
〇前回; 報道の委縮とフェイクニュース(2)
https://note.com/kosmo_note/n/nc9632f404806
〇次回; 報道の委縮とフェイクニュース(4)
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