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ベーコン指でちぎったり

ひとり暮らしだというと「自炊してる?」とよく聞かれる。自炊、とはどのレベルの作業を想定されているのだろう。私は勝手に「料理は得意?」と聞かれた気になって、「いや、あんまり……」と鼻白む。同年代の友人の中にはスパイスを調合したラムカレーや1ピース680円しそうなフルーツタルトなどを日常的に作る人がおり、彼らに比べると私がしているのは料理とは言えない。

たとえば今朝の献立は、

①ベーコンエッグ

②キウイ入りヨーグルト

以上。

いっしょにこんがり焼けたトーストをイメージした方もいると思うが、残念ながらパンは無い。おととい使い切り、昨日買い忘れてしまったのだ。卓上のもの寂しさといったらなかった。ご隠居不在の水戸黄門だ。

調理の工程も粗かった。まずベーコンを焼くにあたり、肉用の包丁を出すのがめんどうで指でちぎった。15センチほどの細長い1枚を3つに分けて、油を敷いたフライパンの上に三角に配置する。パチパチ音がしてきたら中央に卵を割り入れ、白身がベーコンにからむようにフライパンを軽く回して蓋をする。

火が通るまでの間にキウイを剥く。当然、ゼスプリのゴールドキウイだ。手にすっぽり収まるころんとした楕円型と、表面にうっすら生えた産毛がいとしい。私がフルーツ界のピクサー映画を撮るとしたら絶対にキウイを主人公にする。そして鳥のキーウィの雛たちに交じってあわてふためくシーンを入れる。なんて可愛いんだ。しかし、今はこれまで、さらば。

ナイフで一刀両断すると、鮮やかな黄色の果肉と放射状の種がお目見えし、甘酸っぱい香りが鼻をくすぐった。そのままざく切りにして皿に移し、上からプレーンヨーグルトをかける。そうこうしているうちにベーコンエッグの卵が半熟になってきたので、仕上げに胡椒とナツメグを少し振る。調理・完。

味は美味しかった。というか、ほとんど素材のままなので不味くなりようがない。冷蔵庫にもっと材料があるときはサラダやスープを添えたり、和食なら魚を煮付けるくらいはする。ただそれはどれも「自炊してる?」と聞かれて「はい!」と胸を張れるほどの代物ではないので、私はいつも「えっと、ベーコン指でちぎったり……」と訳のわからないことを口走ってしまう。

肉や魚、卵、野菜に火を通して適当に味付けするだけのメニューには飽きてるんだけど、自分ひとりが食べるために手の込んだものを作る気は起きない。私に必要なのはレシピ本やフードプロセッサーじゃなくて、「自分の作ったものをいっしょに食べてほしい」と思える他者なんだろう。そんな人、居たらいいよね。

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