マガジン

  • 奇妙な仕事

  • ファイト免疫

    新型コロナ後遺症の療養中に精神を安定させるために作ったマガジン。症状の記録と弱音を書きます。

最近の記事

5/19文学フリマ東京告知【S-23】

今週の日曜日、東京流通センターで開催される文学フリマ東京38に、「白湯ささみ」名義で出店します。 昨年秋に出した夢日記と、新刊のエッセイ本を販売予定です。 〈日時〉5/19(日)12時〜17時 〈場所〉東京流通センター 第1展示場 〈ブース番号/サークル名〉S-23/机と枕 『夢五十五夜』 4年間つけてきた夢日記の中から、特に印象的だった55夜のエピソードをまとめた文庫本です。 ※A6版・58ページ 500円 『二度と会わないはずの人』 旅先や街中で不思議な出会

    • 十月十七日、祖母が亡くなった。 深夜三時過ぎに訃報を受け、少しだけ仮眠をとってから、喪服をスーツケースに詰めて新幹線で地元へ向かった。 車内でなんとなく「きょう 何の日」と検索すると、「天赦日」と出た。「天にすべての罪が赦され、何をやってもうまくいく」とされる、一年にたった六日しかない縁起の良い日だという。 命日が吉日って、どうなんだろう。 葬儀がある翌日の吉凶も調べてみると、「一粒万倍日」と出た。 「一粒の稲からたくさんのお米ができるように、物事が大きな成果につながる日。

      • うなちゃんの夏

        私はそのころ27歳。今よりずっと貧乏で、ジモティーの取引にはまっていた。 ジモティーは不用品の譲渡・売買をするアプリで、他のフリマアプリに比べて価格帯が低く、無料〜数百円の掘り出し物がごろごろ見つかる。 化粧品、服、ハンドクリーム、贈答品のタオルや食器。そういうものをお得に買ったりもらったりすると、なんとなく「今日は稼いだぞ」という錯覚を得られるので、暇をもてあました無職たる私は頻繁に使っていたのだった。 その日も早朝からタオルケットにくるまって、ジモティーの新着情報を見

        • 短歌療法(リハビリ8首)

          みみへんにこころの読みを知るならば人の病気で手淫をするな 何度でも蘇る蚊を殺しつつ出しときゃよかった婚姻届 投網のように言葉をめぐらせて大事な人の影ばかり見る 好きだった友の悪口溢すとき金木犀が胸を蝕む 鏡にも夢にも母が訪ね来て「苦しそうね」と華やいだ笑み 六畳の天井板の先に空 両手で鳩をつくって飛ばす 泣く代わりに歌を歌って歌ったら歌った歌だけ憶えていたい 自転車を漕げばすぐさま過去になる 苦痛は残像だから突っ切る

        マガジン

        • 奇妙な仕事
          3本
        • ファイト免疫
          3本

        記事

          泣くことについて

          私は、自分の精神が危うい状態にあることを認めないといけないと思う。そのうえで今、この不安定な気持ちをそのまま書き残しておく必要がある。 「泣きながら書いている」と書くとき、私はその文字列を打ち込みながら本当に泣いている。眉間に皺を寄せ、くちびるを歪め、顎先からぼとぼとと涙の粒をこぼしている。それは事実の記録であって、同情を集めたいから書くのではない。他人の印象はどうでもいい。私ひとりのために書く。 後遺症になってから、「なりふりかまわず泣く」ということをしてこなかった。

          泣くことについて

          コロナ罹患〜後遺症発症まで

          ・4月中旬にコロナ罹患、10日ほど自宅療養。症状は強い順に喉の痛み、頭痛、倦怠感、鼻づまり。 ・隔離期間後のGW中は普通に外出できる程度に回復。しかし当日は平気でも翌日強い倦怠感で寝込むことが数回あり、違和感を覚えつつ、病み上がりはこんなものだろうと思っていた。 ・GW明けの月曜、在宅勤務中にめまいと頭痛があり少し横になる。休んでも回復しなかったので薬を飲んで業務再開。明らかにパフォーマンスが落ちていて、文章を理解したりまとめるのに普段の倍以上の時間がかかる。業務終了後、

          コロナ罹患〜後遺症発症まで

          かんたん★生姜ソーダレシピ

          しょうが湯を飲みたくなって冷蔵庫から生姜を取り出した。子どもの描いた棒人間のように四肢が伸びた生姜である。右足あたりの皮を果物ナイフで削ぎ落し、胴体部分を掴んでおろし器に摺りつける。力を入れると音が鳴る。ごりごり、鳴る。「ごりごり」はやや大げさか。しかし「がりがり」では固すぎるし「ざりざり」では軽すぎるし「ずりずり」は水気が多い。「ぞりぞり」が最も近い気がするが、いまひとつしっくりこない。もし私に絶対音感があったら、オノマトペも正確に選べるのだろうか。ぞりぞり(?)ぞりぞり(

          かんたん★生姜ソーダレシピ

          明け方の反省文

          深夜に目を覚ましたとき時計を見ると、伸縮自在だったはずの時間が分断されて、固く短いゴムホースの切れ端になってしまう。いくら毛布を重ねても正体不明のさみしさが沁みてきて、体の芯がずっと冷たい。何度も何度も寝がえりを打つ。そろそろ朝になる頃かな、とまた時計を見ると数分しか経っていなくて、仕方なくスマホを触っても特に面白いこともなく、ブルーライトを浴びた目だけが暗闇のなかで冴えていく。 一緒に寝ている人がいたら抱きつきたいが、そういうとき相手がすやすや眠っていると、「私がくノ一だ

          明け方の反省文

          祖父と日本酒

          私の地元には酒造が多く、「加茂鶴」「竹鶴」「亀齢」など、長寿にあやかれそうな名前の日本酒が至るところで売られている。けれどそんなお酒を愛飲していた祖父はむしろそれゆえに短命で、私が10歳になる年に肝臓がんで亡くなった。 21年前の9月1日、小学校の始業式の後に、担任から祖父の危篤を知らされた。私は夏休み明けで浮ついた生徒たちの間を駆け抜けて下駄箱へ走り、迎えに来た母の車に飛び乗った。 病室に入るともう心臓マッサージが始まっていて、薄茶色の胸をさらして横たわる祖父の上に、白衣

          祖父と日本酒

          ベーコン指でちぎったり

          ひとり暮らしだというと「自炊してる?」とよく聞かれる。自炊、とはどのレベルの作業を想定されているのだろう。私は勝手に「料理は得意?」と聞かれた気になって、「いや、あんまり……」と鼻白む。同年代の友人の中にはスパイスを調合したラムカレーや1ピース680円しそうなフルーツタルトなどを日常的に作る人がおり、彼らに比べると私がしているのは料理とは言えない。 たとえば今朝の献立は、 ①ベーコンエッグ ②キウイ入りヨーグルト 以上。 いっしょにこんがり焼けたトーストをイメージし

          ベーコン指でちぎったり

          かごのないチャリ屋

          耳奥で銅鑼が鳴ってる炎天下 あんな奴にも母親はいる 3連休の初日、不動産屋へ行って新居の鍵を受け取った。 引っ越しはまだ先だが、部屋の採寸と軽い掃除をするついでに、近所で自転車を買って駐輪場に置いておこうと思ったのだ。 GoogleMapに「自転車屋」と入れて検索し、現在地から近い順に表示された店を回った。1軒めはのんびりしたおじさんがやっている個人店で、品揃えが少なかったので見送り。次に入ったのは大手チェーン店で、欲しい色がピンポイントで品切れとのことで3軒めへ移動した

          かごのないチャリ屋

          いってきます

          3時間経っても眠れないので観念して支度を始めた。シャワーを浴びて髪を梳き、ヘアオイルを揉み込んでドライヤーをかけ、仕上げにアイロンで整える。12歳から毎朝費やしてきたこの時間を勉強にあてていればスペイン語とか喋れたろうに、と思いながら焼けた鉄の板で毛束をはさみ込む。そのまま縦にすべらせると、天真爛漫に飛び跳ねていた髪々はジュウッと音を立てて整列した。 昨夜の暴食がたたって体が重い。でも大丈夫、冷蔵庫に飲むヨーグルトがある。ひとたび口に含めばつめたい甘さが胃に流れ落ちる端からす

          いってきます

          長時間労働の弊害

          仕事が滞るとストレスがたまり、ストレスがたまると口内炎ができ、口内炎ができるとストレスがたまり、ストレスがたまると仕事が滞り、何もかもいやになっている。口内炎と打とうとしたら、予測変換でコウナイ猿と出た。コウナイという文字列はコロナウイルスを想起させるが、アナグラムにすればコウナイ・ロス、なにがロスなのかといえばもちろん猿だ。コロナコロナの大騒動にナナコのココロは大混乱、猿のロココも逃げ出してナナコはとうとう大号泣。もういいだろう、おやすみ、ナナコ。エテ公は森へ帰ったのさ。い

          長時間労働の弊害

          わたし、ブルーハワイ。

          明治神宮といえばみなさんは何を思い浮かべるだろうか。 私はあの原宿駅から鳥居に向かうまでに見かける出店のことばかり考えてしまう。出店といえばかき氷だが、人ひとりが1日で食べられるかき氷の総量がどれくらいになるか、計算してみたことがある。 P・ジョヴォナッチ演算によると、それはその人の体重の15%である。60キログラムの成人であれば、実に9キログラム。無理だと思われる方もいるかもしれない。では、証明してご覧にいれよう。次にかき氷屋が目に入ったら、有り金すべてを店の親父に叩きつ

          わたし、ブルーハワイ。

          あなたの話

          トシさんはやっかいな人だった。誰彼かまわず絡んでは不平不満をまくしたて、女の気配を感じるとセクハラを仕掛け、都合が悪くなると「お前は差別主義者だ」と決めつけた。そう言えばみんな黙るからだ。 彼の言動の責任を彼だけに背負わせるのはあまりに酷だ。かといって「可哀想だから仕方ない」なんて同情してみせたら、彼はもっと怒るだろう。同情とは、他人の気持ちを想像して寄り添うことだ。生まれつき五感のうち二つがない人がどんな気持ちで過ごしているか、私はもちろんあなたにだって、想像しようがない

          あなたの話

          特殊介護職(ミステリー作家の秘書)をやっていた話 ③

          謎の試験をクリアし、「○○ミステリー工房 秘書」の肩書を手にした私は、それから約1年半、ひたすら雑務と読書に明け暮れる日々を送った。 今回はミステリー工房での主な仕事、"小説紙芝居”の作成について紹介する。 先生は多忙である。執筆業以外にも生計を立てるための本業があり、基本的にはそちらに集中しているため、ご自身の創作に刺激や深みを与えるためのインプット(読書)をする余裕がない。長編ミステリーは上下巻で800ページを超える大作も珍しくなく、読み切るだけでもかなり時間と体力が

          特殊介護職(ミステリー作家の秘書)をやっていた話 ③