かんたん★生姜ソーダレシピ
しょうが湯を飲みたくなって冷蔵庫から生姜を取り出した。子どもの描いた棒人間のように四肢が伸びた生姜である。右足あたりの皮を果物ナイフで削ぎ落し、胴体部分を掴んでおろし器に摺りつける。力を入れると音が鳴る。ごりごり、鳴る。「ごりごり」はやや大げさか。しかし「がりがり」では固すぎるし「ざりざり」では軽すぎるし「ずりずり」は水気が多い。「ぞりぞり」が最も近い気がするが、いまひとつしっくりこない。もし私に絶対音感があったら、オノマトペも正確に選べるのだろうか。ぞりぞり(?)ぞりぞり(?)音を立てて、次第に短くなっていく足を見下ろす。
生姜はいつ見ても変な形だ。スーパーに並ぶ大根や人参は皆スタイリッシュに整った姿をして、不細工なものは一山いくらの見切り品になってるのに、生姜はぐにゃぐにゃな形状のまま平気で陳列されていてダイバーシティの風を感じる。好きだ。野菜や果物は、形が悪いもののほうが存在の強度が高い。たとえば道の駅の青果売り場などで見かける苺。いびつにふくれあがった果肉の表面が赤く白くまだらに色づいて、種と産毛が一部だけ密集していたりして、獣めいた生命力がある。ああいう苺をおろし器で擦ったらどんな音がするだろう。ズチャッ……とか、後ろめたい音を立てて潰れそう。
片足を失った生姜を置き、毛羽立った繊維のかすと薄黄色の汁を分ける。独特の香りに食欲が刺激され、蕎麦が食べたい気がしてくる。近所の蕎麦屋は休業しているが、蕎麦の口になったら最後、甘い飲み物には用がない。もう蜂蜜を溶かすのも湯を沸かすのも面倒になって、ただすり終えた生姜汁をコップに移し、炭酸水を加えて飲んでしまった。ふつうに不味いからおすすめしない。