パタパタ紙ペン デザイナーズノート
この記事は『コンポーネントとしての楽しさ』を主軸にした紙ペンゲーム「パタパタ紙ペン」のデザイナーズノートになります。
ルールに関してはこちらで公開しています。
作成時の状況、心境
コンセプトである『コンポーネントとしての楽しさ』というお題自体は2015年頃から頭の片隅にありました。
ただ、これは当時、『ボドゲのルールを年間千案を出すチャレンジ』をする上で、ひねり出したアイディアの種の1つにすぎませんでした。2015年末にコンテストへの参加に集中するためにこのチャレンジを中断すると共に、この種は忘れ去られていきました。
このアイディアの種の優先順位が急激に上がったきっかけがコロナでした。友人とのオンライン飲み会ができたのですが、友人卓にはプリンターが無かったので
①用紙の方はノートを切って作れる範囲
②お題はzoomで共有できるもの
という範囲でいくつか既存のゲームをプレイしていました
紙ペンゲームに対する個人的な違和感、不満が今まで以上に自分の中で明確化し、自分なりのゲームを作っていきました。
既存の紙ペンゲームに関して持っている不満点
私の認識ではかなり多くの紙ペンゲームがインタラクションの低いゲームの構造を持っています。それ自体は個性ですし、(特にコロナ中に作られたものに関しては)1人から遊べるゲームにするために必要なものです。
ただ多くのゲームが、2人戦以上の時に盛り上がるように”早取り”や”マジョリティー”を安易な形で導入している事に関しては正直もやっとした感想を持っていました。
早取りやマジョリティーのゲームを楽しくプレイするには相手の状況を把握している必要があります(不必要に多くのリソースをマジョリティーにかけない事 や 早取りで相手に先んじられた時に別の道を模索するためです)。しかし、同時進行タイプの紙ペンゲームでは、考えている最中に相手の状況を見る事は非常に困難です。(最悪の場合、相手が記載済みだった場合、次の相手の手を知ってしまうためアンフェアになってしまう。)
これがもしデジタルゲームならば、このような問題は起こりません。前のターンの終了時の対戦相手の状況をプレーヤーに提供する(≒現在の対戦相手の状態は見せない)事が容易にできるからです。
不満だけでは動き出せない。ゴールを設定しよう
仮に1人専用になってでも、紙でやる事に説得力があるものにしたい。
この時点で私が持っていたゲームの条件はおそらくこのようなものであったと思います。
上記条件を見てわかると思いますが、まだこの案は動き出せる状況にありません。”核”となるパーツも、制作のゴールもまだ見つけられていません。
そのため2020年は、(メインでは別のゲームを作りながら)少しずつ情報収集をしている状態でした。具体的には ①折り紙や工作関連の動画を見る、②紙ペンについて調べる、 ③キャストパズル等を触りながら「動かしながら考える楽しさ」をなんとか言語化しようとする等ですね。
この年は、紙の形状もゲーム内容も何も決まらないまま終わりました。 ただ、後から見直すと少しずつ進展していました。それは”これが立体的なゲームだ”と認識した事で”(できていないゲームの)視認性の悪さ”に気付いたことです。
それにより、過去作やそこから得た特殊な経験値と繋げられた事で2021年以降、形やルールができ始めます。
(関門1)最初にUIが完成する
まず、ルールより先に人が認識しやすい状態にするUIを先に考えました。
平面のゲームでは絶対にやらない事ですが、立体的な思考をするゲームがどうしても作りたい狂気があなたにある場合、これが正しい順序だと思います。
(そうでない大抵の方はゲームを平面にする事を強くお勧めいたします)
立体というのはそれだけでプレーヤーの脳のメモリを圧迫します。私の予測では、①全ての盤面が同時に見えないため、人間は記憶をしようとするから②単純に経験が少ないための2つが原因だと思います。
もっともよいUIはブロック等を使い、なんとか全ての情報を見えるようにする事ですが、今回は紙ペンなのでその手は使えません。
そんな場合でもできる事は得点に関わる条件を以下のどれかに決めてしまう事です。
良:属性(形、色、塗り方)が存在するか否か?
良:属性(形、色。 塗り方は回転する場合×)が縦横に連続するか?
良:属性(形、色。 塗り方は回転する場合×)が塊になっているか?
可:属性の中でどれが多いか?(=表示数が十分に少ない場合)
可:道が繋がっているか?(=表示数が十分に少ない場合)
それに加え、今回のように用紙を折るという特殊な事をする場合でも
同じサイズのグリッドで表示する事。
途中で立体形状を大きく拡張、変更しない事
2021年4月。これらの条件を基に、紙の折り方が2案誕生しました。
ゲーム内容の決定
形状が決定してからは色々試しました。用紙をひたすら触ったり、先ほど紹介した視認性の良い状態を書いてみたりしました。(Hunter×Hunterの具現化系能力発現しそうなくらい常に持っていたと思います。)
ただ、ここで少し迷いが生じます。可能性を感じる方向性が2つあったためです。
(方向性1)
1つのマスに2つのマークが書ける特徴が『塊ができるように配置していく』というルールに向いている。これを軸にパズル的な面白さを軸にしたゆっくり考えたい人向けのゲームを作ろう
(方向性2)
『属性が並んだパターンを見つけるおもちゃ的な楽しさ』という個性を見つけた。(おそらく、ナインタイルをプレイ済みだったことなどが原因だったのではないかと思います。)最悪紙ペンで無くすことも念頭に入れて軽いゲームとしての可能性を探ろう
(関門2)”マークを再利用する”というルール
しかし、テトラミノを連続させるお題には大きな問題がありました。”4つ未満の空白の塊”を(もっと言うならそれを引き起こす7つの空白の塊を)見逃さない事がこの用紙の上では困難である事です。
このような場合、1ブロックが貰える小目標を設定する事がセオリーですがその手は使えませんでした。理由は以下の3つでした
①小目標など無くシンプルにしたかった
②触っていて楽しいサイズにするとマス目の数が少なすぎる
③マークを連続させるうえで1マスのブロックは有効すぎる
最終的に思いついたルールは「書いたマークは再利用できる」というルールでした。このルールは以下の点で優れていました。
・小さなスペースでも埋まるのでこれらの把握に脳のリソースを割かなくてよい
・完全に同じパターンを見つけた⇒一切書かないでもいい」という幸運
・これを見つけるために用紙をパタパタさせる必要が出てくる
また、このルールが重要であることを示すため、お題で出てくるマーク数を用紙のマス目の数よりも多くすることが決定しました。
やっとテストプレイ
こうして長いセルフテストプレイの時期が終わり、2022年1月中旬には最初のテストプレイへの持ち込みにこぎつけました。
(セルフテストプレイの写真は3月以降しか見つかりませんでした。ツイートは2022年のものです)
この段階で気にしていたのは以下の3つです
・コンセプトと特殊な形状に興味を持ってもらえるか?
・同じお題でも別人ならちゃんと違う考え方でゲームを進めるのか?
・プレイ可能であるか?
・可能ならもっと考えたい のか サクサクプレイしたいのか?
・(念のため 1人用に舵を切る事があっているか)
この後も微修正は続け、2022年8月になんとか無料版公開にこぎつけました。少し細かい話になりすぎるため簡単にまとめると
・多くのプレーヤーにとって難易度が高かったため難易度を下げました
・得点条件を軽く(4つ連続でやっと点数⇒3つで得点をあげる)
・お題のカードの変更(マークを必ず重複するようにして指針とする)
頒布に際して
テーマ
テーマはつけたかったのですがそのまま。
・開錠、魔法陣の作成等良さそうなのはあったのですがイメージが固まらず。この辺りはグラフィックに強い人と組むなどしないとうまく行かなさそうです。
結果の共有
ボードゲームにはソロプレイ的であったとしても皆でやる事に意味があるものもあります。一例をあげるならテイクイットイージーなどですね
1人用にしても同じお題で他の人に挑戦できる仕組み(例えばお題カードにNoをつけておく等)があったらいいのかなと思います。
おわりに
テーマがつかなかった事など心残りもありますが久しぶりに公開してもいいかなと思うものが作れました。来年も(販売しやすさ等は気にせず)自由に作っていきたいと思います。
気になった方はプレイしてみてください。また、ゲームやノートにご意見いただけると励みになります。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
参考にしたもの一覧
紙の折り方/用紙の作成に関して
折り紙 変わり絵
印刷博物館 特別展 『世界のブックデザイン 2020-21』で見た本の装丁
多分、『100个汉字的解读』
(中国の本。めくると漢字の成り立ちがわかるやつ)
ゲーム内容
Chronos Recrd(自作)
(UI的に視認性が下がらないルールに関して)
ナインタイル
(パタパタする機会を増やす方法として『お題と同じ状態を作れ』を採用)
キャストパズル いくつか
以下の記事。ただし9割以上の項目は今回のコンセプト上スルー
グラフィック
テトリス
(パズルゲームだと一発で判る見ためとして)
ナインタイル
(マークは回転対称にした方が良いという点に関して)
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