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「バールの兄ちゃん」

夏場にイタリアの鉄道に乗ったりすると、
良くバールの兄ちゃん達と仲良くなることがある。

バール(BAR)ちゅうのは
喫茶店兼飲み屋みたいなものや。

町のどこにでもあって、
近所の人がよくたむろしとる。

夏場なんかは
リミニとかリゾート地のバールは大忙しやから、
兄ちゃん達は引っ張りだこや。

冬場は冬場で
パリやらウィーンやらが活気付くしな。

そやさかい、
シーズン毎にヨーロッパ規模で
ショバを転々と渡り歩く兄ちゃんも、
ぎょうさんおるのや。


バールの兄ちゃん達は、
店の主人から給金貰うわけやなく、
お客からのチップが収入源や。

そやさかい、
ホンマ愛想がええし、
一度会った客の顔は忘れんし・・・

ええ兄ちゃんにあたると、
ホンマ気持ちええ茶がしばけるで。

凄腕の兄ちゃんになると、
兄ちゃん目当てのリピーター続出や。

そういう兄ちゃんと、
列車のコンパートメントに乗り合わせると、
そら楽しいで!!

「おお、日本から来よったんか! 
 わい、日本語少し知っとるで。 
 ええと、
 こんにちわが【サヨナラ】やろ。
 で、さよなら言う時は
 日本語で何て言うねん?
 教えたってや!」

・・おい誰や、嘘教えたんは?・・・・

まあ、こんなのは序の口や。
だんだん本領を発揮して、

「わい、日本の女の子くどきたいねん。
 【君、かわいいね】ちゅうのは、
 日本語でどう言うねん?」

・・・こういう奴らに、
日本の婦女子はコロッと
引っかかるのやろなあ。

ああ、嘆かわしい・・・


・・・せやけどな、
この兄ちゃん達、
遊びみたいに訊いてくるけど、
実はこれ、仕事やねん。

本気で日本語使えるようになろ思うて、
日本人に積極的に話しかけてるのや。

バールで日本人の客に
片言でも日本語で応対したら、
印象がらりと変わるからな。

お客との話題にもなるし、
お喋りすることで
コーヒー以外のオーダーも入るし、
リピーターになってくれたら
それだけで収入がアップするのや。

片言で話しかけて笑われても
所詮は一時のこと、
ひとつでも単語を手に入れられて
ひとつでも笑いを取れそうな文句を
見つけることができるなら、
こんなに安い事はない。

・・・てのが、
兄ちゃんたちの論理なのや。

これは半端ないで!!

「商売するってことは
 こういうことか」と
ホンマに関心するわ。

このバイタリティ、
日本のクラシック界にも
見習って欲しいものや。

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