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「歌手を夢見た頃」01

小学生の頃、
それなりに声自慢だった私は
「歌手になりたい」と
思ったことがある。

オペラやリートを歌う
クラシックの歌手ではない。
茶の間を賑わす「歌謡曲」の歌手だ。
「レコード歌」手とも呼ばれていた。

当時は、
「スター誕生」や
「全日本歌謡選手権」などの
新人歌手発掘を目的とした
オーディション番組に人気があり、
私に限らず、多くの子供達が
ブラウン管の向こうで
スポットライトを浴びながら
華やかに歌う歌手たちに
憧れたものだった。

子供たちが
こうしたレコード歌手や
TVタレントに憧れるのは
今も昔も同じ。

今と違っているところといえば、
当時(70年代前半)は
まだ「アイドル」という概念が
それほど一般化はされておらず、
歌手やタレントというのが
ブラウン管や銀幕の向こうという
実社会とは別の存在だったこと。

逆にいえば、
華やかなスポットライトとは別に
暗い闇のある世界でもあることを
多くの人は自覚していた。

歌手やタレントを目指すよりは
もっと堅気な職業に就くことを
少なくとも私の親の世代の大半は
自分たちの子供に望んでいた。

自分の子供を
歌手やタレントといった
「虚飾の世界」に
入れたがる親も確かにいたが、
はっきり言って
変人扱いされたものである。

※ ※ ※ ※ ※

さて、
歌手に憧れてはいても、
どうすれば歌手になれるかなど
全く知らなかった私である。

「テレビに映っている歌手のことは
 テレビ局に訊けばわかるだろう」

・・・と、
こともあろうに
地元のNHK放送局に出向き
どうすれば歌手になれるのか
直接尋ねてみることにしたのだ。

今はセキュリティ上、
同じことができるとは思えないが、
私が小学生だった当時は、
何人か友人を誘い、
事前に電話をして
「放送局を見学したい」と
申し込めば、
簡単に見学予約が取れた。

見学したNHKの支局は
規模では東京に比べるべくもないが、
地方ニュースや天気の番組などは
この支局で収録・制作されているため、
一地方局とは思えぬほど
しっかりした設備を誇っていた。

広報担当の職員に案内され、
スタジオセットや編纂室、
また、NHK大河ドラマの広報用に
設けられた特設ブースなど、
たくさんの部屋を見せてもらったが、
子供たちだけの
私的な見学にも関わらず、
担当として案内してくれた人も
スタジオ内で会った人たちも
皆、満面の笑みで迎えてくれて
懇切丁寧に色々なことを
教えてくれたのを覚えている。

・・・もっとも、
私の目的はテレビ局の見学ではなく
その先にあったのだが・・・

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