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タダで始めるEAモデリング

EAモデルの「最初の点」を打つのはとても簡単で、おカネも全く掛かりません。文献やツールは英語ですが、気にすることはありません。早速やってみましょう。

ArchiMate®を使おう!

ArchiMate (アーキメイト)とは、EAモデリングのための標準記法、即ちEAを表現するときに使うべき「基本的な語彙」と、表現に適用される「文法」とを定めたものです。また、モデルをグラフィカルに表現するときに適用されるシンボルも規定しています。

"ArchiMate3.1 specification"で検索すると、標準記法としての具体的な内容が英語で書いてあります。でも、これでは何のことだかさっぱり分かりませんよね。

百聞は一見に如かず、ということで、早速ArchiMateの実物に触れてみることにしましょう。

Archi®- フリーで使えるEAモデリングツール

ArchiはEAモデリングツールの一つです。(日本以外の)世間では、様々なEA関連ツールが提供されていますが、これはArchiMate専用、またArchiMateモデリングツールとして、ほぼデファクト・スタンダードです。「ビュー」と呼ばれるグラフィカルな表現を通じて、EAデータである「モデル」を読み書きします。ユーザーインターフェースは英語ですが、モデル上の日本語表記には全く問題有りません。

普通のパソコンソフトなので、インターネットからダウンロード、インストールして使います。Windows用、Mac用どちらも提供されています。但しWindowsは64ビットのみです。

入手先は"archi download"などで検索すれば容易に見つかります。またインストーラはGitHubにも置いてありますので、GitHubアカウントをお持ちの方はそちらを覗いてみるのも良いでしょう。メアドの登録なども一切不要で、無料でダウンロードできます。PayPalのボタンがありますが、これは善意の寄付を受け付けるためのものです。

最初の点を打つ

Archiを起動したら、File->New->Empty Modelを選択します。"Palette"と表示されたエリアに、何やらアイコンがいろいろ並んでいます。

それでは最初の点を試しに打ってみましょう。"Palette"から「電池残量のアイコン」を見つけて下さい。見つかったら、それをクリックしてから、ポインタを右側の白紙のエリア、これが先述の「ビュー」なのですが、ここに動かしてもう一度クリックします。

"Resource"と書かれた長方形が現れました。リソース、つまり経営資源ですね。見た目は点ではなく四角ですが、これがグラフデータの概念でいうところの「点」です。ともあれArchiMateで打った、記念すべき最初の点ですね。

点をもう一つ打ってみましょう。Paletteの"Resource"の右隣のアイコン (四角が積みあがった絵) を、先ほどのリソースのとなり (重ならなければ位置は問いません) に置きます。"Capability"と書かれた長方形が現れました。ケイパビリティ、日本語では組織能力などと呼ばれている概念を表しています。

それでは、これらの「点」を「線」で繋いでみましょう。Paletteで、一端が黒丸になっている矢印を見つけましょう。まずPaletteの上で一回クリックしたら、ビュー上に移動し、リソースの上、次にケイパビリティの上で順にクリックします。間に線が引かれました。

これで「リソースがケイパビリティに割り当てられている」という意味のモデルが出来ました。もちろん自組織のモデルを実際に描くときは、リソースやケイパビリティに具体的な名称を付けます。どんな名前が入るかは、稿を改めてお伝えします。

データはどこにあるか?

ArchiMateでは、「点」を「要素 (element)」、「線」を「関連 (relation)」と呼びます。両方合わせて「概念 (concept)」です。

このモデルでは、「リソース要素」と「ケイパビリティ要素」とを「割り当て関連」で結んだわけです。

それは見た目どおりですが、ではこれらの「データ」はどうなっているのでしょうか。

画面の左にフォルダが縦に並んだエリアが有って、"Model"と書いてあります。"Strategy"フォルダを、そのフォルダの左にある">"アイコンをクリックして開いてみましょう。先ほど描いた"Capability"と"Resource"が並んでいます。

"Relations"フォルダも同様に見てみましょう。 "Assignment relation (Resource - Capability)"があります。

これらがモデルをなすデータの実体です。点のデータが二つ、線のデータが一つで、線のデータは起点と終点となる夫々の点の情報を持っています。つまりグラフ構造です。プレゼンスライドやスプレッドシート上のポンチ絵とは異なり、ArchiMateでは「線だけ」は引けないので、ツールでArchiMateのモデルを描けば、線がひかれてある限り、それはグラフデータ、ということになります。

このデータは様々なカタチで取り出すことができます。例えばCSVファイルです。File -> Export -> export model to CSVを試してみましょう。

CSVファイルが3つ出来ました。まず"elements"ファイルを開いてみましょう。全部で4行あります。1行目は見出し、2行目はモデルそのものですね。3行目と4行目がそれぞれケイパビリティとリソースの「点」です。

つぎに"relations"ファイルを見てみましょう。見出しと「割り当て関係」の2行だけ入っています。見出しには「source」と「target」という列があって、「割り当て関係」の行に、何やら長い文字列が入っています。

"elements"ファイルをもう一度見てみましょう。「ID」という列に、同じような、というか、実は同じ文字列が入っています。"elements"の「リソース」の番号は、"relations"の"source"、つまり起点、「ケイパビリティ」は"target"、つまり終点になっています。

「点と点が線で結ばれている」データは、このようなカタチになっているわけですね。

今はたったの3行、つまりconceptが3つだけのモデルですが、これが数百、数千と集まれば「継続事業全体の概念構造」を表すモデルになります。

データとビューとの間を行き来してみる

「ビューの上にそんなに沢山の四角や線を描くのか」というとそんなことはありません。試しにビュー上の四角や線を範囲選択して、Delキーで消してみましょう。画面左側のツリーの中身に変化はありませんね。

「継続事業の概念構造」では、ビューは基本的に「使い捨て」です。ビューはあくまで巨大なモデルの一部分を切り取ったり、拡大して見せるためのものです。どこを切り取ったり拡大したりするかは、夫々のビューの作成意図によります。

モデルからビューを起こすには、モデルツリーから要素を拾ってビューに置きます。モデルツリー上の要素や関連をビューに落としてみる、また、ビューでどれかを一つ消してみる、という操作を、いろいろなパターンで試してみて下さい。

また逆に、ビューに要素が表示された状態で、モデルツリーから要素を削除してみましょう。モデルツリーから消された要素や関連は、ビューからも消えますね。

デフォルトで入っている"Resource"や"Capability"といった名前の変更も試してみましょう。モデルツリー、ビュー上どちらでも、要素を選択してF2キーを押せばリネーム出来ます。要素はモデルツリーとビューの両方に見えていますが、リネームすると両方が同時に変わることから、実体は一つのデータだということが分かるでしょう。

ケイパビリティが表示されているビューの上に、もう一度ツリーからケイパビリティを置くと、それもちゃんと表示されます (矢印も勝手に引かれてしまいます)。つまり分身が出来ます。リネームするとモデルツリー上、ビュー上の要素の全ての名前が変わります。

今度はモデルツリーからではなくパレットから、ビュー上に、もう一つケイパビリティを落としてみましょう。モデルツリー上も、ケイパビリティが一つ増えて二つになります。しかし、名前からは見分けが付きませんよね。これは先ほどの同じ要素の「分身」ではなく、4つめの概念要素がモデルに追加された状態です。しかしビュー上では一つの要素の分身なのか、別の要素なのか区別が付きません。

先々モデリングをリアルで進める際、モデルツリー上で同じ名前の要素がたくさん出来てしまうと、モデルが意味をなさなくなってしまいますね。要素には一個一個区別できるような名前を付けるよう注意しましょう。

モデルを閉じてアプリ終了

モデルやビューの基本操作がわかったところで、今日はオシマイにしましょう。データファイルを保存する操作などは、一般的なパソコンアプリと変わりません。データファイルには"*.archimate"という、やたら長い拡張子が付きます。

一つだけ気を付けたいのが終了方法です。「モデル」は例えば、エンジニアの方にはおなじみのコードエディタでいうところの「プロジェクト」のようなもので、そのままArchiを終了すると、次回起動時に前回閉じたときのそのままの状態で開きます。そのときデータファイルが前回閉じたときのままの場所や名称だったら、何も問題ないのですが、データファイルを移動したりリネームしたりしていると、起動したときあるはずのファイルがないのでいろいろと面倒なことになります。

ですので、Archiを終了する前にはまずModelを閉じましょう。モデルツリーの根本にポインタでフォーカスを当て、ファイルメニュー、または右クリックで"Close Model"を選択します。モデルツリーが消えたらArchiを終了します。

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これで概念構造の要素である点と線が打てるようになりました。次回は概念要素の語彙をご紹介していきます。お楽しみに。

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