見出し画像

違う

カーシャとサウスケンジントンのポーランド料理レストランで食前酒にウォッカを飲みながら、

「コロナも落ち着いたし、久しぶりにヌリアに会いにいこうか」

という話になったのは、去年の秋だったろうか。

コロナは、国際都市ロンドンに仕事や可能性を求めてやってきていたたくさんの人たちが故郷へ戻るきっかけにもなっていた。

私が仲良かったヨーロッパ人たちはスペインやフランスやフィンランドへ帰ってしまったし、イギリス人やウェールズ人の友達もロンドンから数時間離れた実家をベースに変えてしまった。
日本人も駐在期間の繰り上げや人生の見直しで帰国するひとが何人も続いた。
そのまま疎遠になるひと、それでも続く人。
いろいろだ。

でも、会いたいひとには、会いに行けばいい。

仕事の都合で夜中12時にバルセロナ空港に到着した私を、ヌリアはこころよく車で迎えにきてくれた。
もともと施設から引き取る予定だった犬が、予想外にその日から預かってほしいといわれてしまったのだという。だからカーシャはその犬とお留守番をしているらしい。

そこからずっとバルセロナ郊外の彼女の村に着くまで、仕事や家族など近況をずっとお互いにしゃべり続けていた。

もちろんロンドンに全く友達がいなくなったわけじゃない。
けれど、私が相手の話を聞くばかりではなく、お互い話ができるひとは限られている。
ひさしぶりに、誰かと「しっかり話をした」ような気がした。

翌朝、まずは車で20分ほどのところにあるカヴァのワイナリーへ。
ここはサン・サドゥルニ・ダノヤ(Sant Sadurní d'Anoia)というカヴァ生誕の地。19世紀後半にシャンパーニュの生産方法が初めてスペインに持ち込まれたという村だ。
ヌリアが事前に予約をしておいてくれたのは、1924年創業の「レカルド(Recaredo)」という40人ほどの小さな家族経営のワイナリーだった。

私たちは、時間を大幅に超えた熱心なツアーのなかで、手作業にこだわり伝統的スタイルを貫く彼らの醸造方法を学んだ。

エンリクによるツアーの冒頭。まずはカヴァの種類から。

「カヴァの生産者は200社あります。
しかし、流通するカヴァの8割はフレシネ(Freixenet)社産とコドーニュ(Codorniu)社産で占められています。もちろんそんな量を生産している彼らはどんどん機械を導入し効率化を進めています。しなくてはとても追いつきません。
見ていただいたとおり、私たちは違う道を選びました。
でもそれは、良い・悪いではないのです。
あくまで、違うというだけなのです」

試飲は最近ラインアップに加わったという白ワインでスタート。

そういってガイドをしてくれたエンリクはツアー中何度も「良い悪いではなく、違う」を繰り返した。
常日頃、同じことを考えていた私には、ほんとうにグッときてしまった。
フレシネやコドーニュはそれによって手軽に楽しめるカヴァを世界中に提供している。
そしてレカルドは伝統的手法にこだわることで存在意義を固めている。

乾杯用にエンリクお薦めの2013年ヴィンテージのカヴァと、
食事用にベーシックラインカヴァを1本ずつ購入。

すべてのひとに受け入れられる答えなどないし、その差異はあくまで違いとして受け止めなくてはいけないのだ。

久しぶりの再会は、友達と語るという喜びと、そしてグッとくるワイナリーツアーにおいしいカヴァの試飲という素晴らしいスタートで幕を開けた。

いただいたサポートは、ロンドンの保護猫活動に寄付させていただきます。ときどき我が家の猫にマグロを食べさせます。