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ただいまミネソタ!

ノースカロライナ州シャーロットを飛び立った飛行機は、やがて大きな大きな湖の上に差し掛かった。

ミシガン湖に違いない。

水面が静かなのは湖ならでは

JALと違って、国内線でもWi-Fiは無料じゃないし、画面もない飛行機だった。だからどこにいるか検証できなかったけど、さすがの大きさで正解だと自信があった。

その後も、じーっと窓に張りついて見下ろしながら、湖の形や数、川の流れから、斜めにウィスコンシン州を横切ってミネソタ州に入るんだなと思っていた。

懐かしい場所。
真っ平らで、そこここに大小の湖が散らばるところ。
アメリカ中西部。

後から確認したらほぼ正解。

ただいま、ミネソタ!

今回の帰省は「アメリカ甥っ子」たちの卒業式が目的だけれど、もうひとつこの双子の州都(ツインシティズ)でどうしても尋ねたい場所があった。

それは、双子(政治的州都セントポールと商業的州都ミネアポリス)のセントポール側にある、The Tavern on Grandという小さなスポーツバー。

今年の初め、ジェニーが「大好きな店が閉じちゃうって新聞に出てたわよ」と教えてくれていた。

20年以上前、大学院時代に通った思い出の場所。
ウォルアイという中西部でよく採れる典型的な淡水魚の料理で知られた店だ。

海から遠いこのエリアで、貧乏学生だった当時、魚が恋しい時にはツナ缶かマクドナルドのフィレオフィッシュを食べるしかなかった。

カナダからのサーモンは高級品。生の魚はもっと高級。
そんなある日、グループワークを提出し終わったお祝いにと、クラスメイトのロッドが連れていってくれたのがここだった。
臭みの全くないおいしい白身魚にすっかり嬉しくなった。

以来、特別なときに仲間たちとくる大事なお店になった。
卒業式後のディナーもここだった。

店のあるGrand Avenueはセントポールの高級住宅街Summit Avenueに隣接する目ぬき通り。
でも、随分とさびれてしまってみえた。
夜遅くまで図書館に詰めたあと、煌々と照るこのネオンをみると心が躍った。
メニューは変わらず。
でも値段はおそろしく上がっていた。
ワイルドライススープ。
これぞミネソタの味。
昔はフライドポテトにフライにしたウォルアイでガンガンだったけど、さすがにロンドンから着いたばかりだったので。
裏の駐車場に抜けるドア。
ロッドの赤いトラックが懐かしい。

こうして何十年もの時間を経て、ひとりカウンターで食事しているなんて。
あの時には予想もしていなかった今と、変わらない内装の店内の対比にしみじみ感慨深く想いを馳せた。

ついセンチメンタルになり、そのままキャンパスと、当時暮らしていたアパートに車を走らせる。

帰国する日本人から譲り受けた賃貸契約で、ワンルーム(スタジオ)が月400ドルだった。
向かいのお婆さんが料理するたび煙や臭いの文句を言いにきたっけ。

ミネソタへ来たのは、卒業式に出席するためだ。

まずはそのひとつ目が行われるコロラド州へ。

慌ただしいけれど、荷物をスーツケースから借りたリュックサックに移し、一晩だけミネソタで過ごし、みんなでミネアポリスから一路デンバーへ向かった。



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