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風に吹かれて (俺のオートバイ3) ナナハンとの別れ、オフロードバイクとの出会いがバイク人生を変える

1975年7月
朝遅い時間、京王線の各停電車の窓は全開だった。冷房車は急行などのごく一部に限られていた。
生暖かい風と夏草の匂い、たまにモーターの焼ける匂いが窓から飛び込んでくる。私は新宿の予備校に向かっていた。

「ねぇ君、ロック好き?」
予備校の隣の席に座っていた背の高いロン毛で丸い眼鏡をかけた男が話しかけてきた。(ジョン・レノンか)
私もロン毛で一見優男(やさおとこ)だったので、同類と思ったのかもしれない。
「好きだけど」
「ふーん」それで会話は終わり。授業中だからしょうがない。

その男、丸眼鏡男とは、その後たまに話をするようになるが、どうにも波長が合わない。都立の工業高校の男友達としか付き合いがない私には、普通科の浪人のこの丸眼鏡男の感覚というか、その屈折感がよくわからない。それに生意気な口調だ。同い年なのに偉そうだ。昔なら殴っていただろう。それでも人と話をするのは悪くはない、気晴らしになる。

予備校の帰り際、丸眼鏡男が、ロック喫茶に行かないかと言ってきた。
「近所だから、行かないか?」
「いいよ」ついでに夕飯も食べて行こう。

新宿御苑の近くにある、ロック喫茶は、当然のごとく人目を避けるように地下一階にあり、下へ降りる狭い階段の壁に1970年代当時の独特のフォントとデザイン、サイケな色使いのポスターが沢山貼ってある。

デスクジョッキー(DJ)のいる喫茶だった。テーブルにはリクエスト用の小さな紙切れがあった。
「リクエストしたら?」
相変わらず上から口調の丸眼鏡男に返事はせず、私はリクエストを書き、コーヒーを持ってきたジーパンとTシャツのラフな衣装のウエーターに渡した。

丸眼鏡男がしゃべり出す。
「ねぇ君さあ、彼女いる あのさぁ、セックスが出来れば女なんか誰でも同じだと思わない?」
「そうかなぁ」何を言っているのか、よくわからない。
「あのさぁ、女は結構やりたがっているぜ」
ますます、なにを言いたいのか知らないが、私は、女とはなんらかの愛がなければ、そこいらで押し倒すなんって男じゃないと思っていた。そんな硬派な工業高校卒業生だ。
この辺りから気持ちの悪いやろうだと感じ始めた。
「知っている、医大ならやり放題だぜ、俺は医大2回落ちているけどね」
やはり馬鹿なのかぁ。

DJの女性が「リクエスト沢山ありがとう」と言う。
「珍しい、POCO(ポコ)のグッドフィリング、これ私も大好き、では、ポコ、グッドフィリング!」
私のリクエストだ。この丸眼鏡男のロックと言ってもパープル程度だったので、ウエストコーストのコアなバンドは知らないだろう。
「へーっ、こんなの聴くんだ」
私は黙って聴き入った。アメリカへは行ったことないけど、音楽は真っ直ぐな乾いたハイウエーをバイクで疾走しているようだった。

その日は、結局眼鏡男と早めに分かれて飯は食わなかった。しかし腹は空いていたので、京王線の調布駅前の門前蕎麦を食べて帰った。
不毛な人生の時間。どうでもいい人々との出会い、予備校で感じる疎外感は半端なかった。

翌日、CB750(HONDA CB750K1)を手放した。
オートバイ雑誌の「売ります欄」に掲載したら、直ぐに電話があり売れた。その人がCBを取りに来たのだった。ごく普通の大人が買ってくれた。
車検もあり税金も高い大型バイクは、浪人生で維持出来ない。
「青春よ さらば」

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実は我が家はバイク好きの一家だった。だから家にはまだバイクはあった。親父が何台かバイクをもっており、その1台にマイティダックス(ST90)があった。こいつはマニアックなバイクで私は気に入っていた。
結局、このST90を借りて普段の足にしていた。

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それでも、やはり不便だ。自分専用のバイクが欲しい。そこで、近所の馴染みのホンダのバイク屋へ行く。
そこには中古のオフロードバイクがあった。ホンダXL125。125CCなら車検もない。税金も安い。維持可能だ。
「程度はいいよ」バイク屋の親父が言う。
「乗っていきなよ、気に入ったら買って」
何時ものパターンなので、私はヘルメットを持参している。
「ありがとう」私はXL125にまたがった。

4サイクル単気筒のエンジンはカブみたいな感じで吹き上がる。しかしトルクはある。セコンドギヤでアクセルを開けると前輪が簡単に浮く。
サスペンションはストローク量があり、ブレーキをかけると前輪が沈み込む。
「面白いな」
道路に出ると今日は風がきもちいい。
私は多摩川の河川敷にむかって走り出した。この行動が後のバイク人生に大きく影響する。

---私の主観でのバイク紹介
このXL125はホンダの初期の4サイクルのフロード車SLシリーズの後継機種、後のオフロードツーリングなど、オフロードバイクブームを作りだしたバイク。

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風に吹かれて---モータサイクル・クロニカル

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