【特別寄稿】沖縄の本屋を再訪する旅—後編(朴順梨)

『離島の本屋』(2013年刊)から7年。第二弾となる『離島の本屋ふたたび』を上梓された朴順梨さんにご寄稿いただきました。【前編】
2020年12月、コロナ禍の間隙をぬって開催された刊行記念トークイベントに向かった沖縄の書店事情ーその後をルポしていただきます。(ころから編集部)
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沖縄行きから3カ月。前編からも2カ月が経ってしまった。一応言い訳をしておくと、『離島の本屋』本編の執筆を先にしていたのだ(超言い訳)。
いつもの掲載紙・フリーペーパーの『LOVE書店!』がページ削減となり、どうなることかと思ったものの、昨年取材していた分は、BOOKSTANDというサイトに掲載されることになった。紙ではなくウェブなので、いつもの倍の文字量で淡路島の本屋について書いている。ぜひお読みいただきたい。

話を沖縄に戻そう。2020年12月13日、那覇市内のジュンク堂書店那覇店『離島の本屋 ふたたび』の刊行記念イベントを開催した。沖縄の古書店が年に1度だけ一堂に会する「大市会」と同じ日だったから、市会に参加する古書店の皆さんからは、「行けなくてごめんなさい」という連絡をいただいていた。しかしこの直後からGO TO トラベルは停止となり、年が明けたら東京都も沖縄県も緊急事態宣言が発出されてしまったので、今思うとこのタイミングしかなかったのだ。人生、何が起こるかわかりゃしない。
そんなわけで(どんなわけだ)、宜野湾市のBOOKSじのんを後にした私たちは、西原町にあるブックカフェ・ブッキッシュを目指した。実に4年ぶりの訪問だった。

店に入るとすぐ、以前訪れた時と同様に、レジ脇に野菜が置かれていた。
「おお、キャベツか」
「これは青パパイヤですよ」

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【写真1】 冗談抜きで右側の袋入り青パパイヤを、キャベツの千切りだと思ったのだ

ウケを狙ったわけではないのにボケをかましてしまった私に、店主の多田明日香さんが笑顔で言った。可憐な印象は、以前と変わらないままだ。
待ち焦がれたコーヒーとチーズケーキでエネルギーを補給していると、20代と思しき女性が1人で現れ、慣れた様子でオーダーを始めた。琉球大学のキャンパスが近くにあり、学生さんや大学関係者が訪れることも多いと、多田さんが教えてくれた。また2016年に取材した時にはなかった、ゆいレールのてだこ浦添駅からも、頑張れば徒歩で来られるようになった。

ゆったりしたスペースを活かし、以前はイベントも積極的に開催していたが、最近はどうなのだろうか。店内を見渡すとクリスマスの装飾のもとで「本の福袋」を販売していたり、年末には蚤の市を企画していたりと、出来る範囲でできることを、最大限に楽しんでいる様子が伺えた。
またブッキッシュでは、お金の代わりに本で「もあい(頼母子講の意味)」をする、「ほんもあい」という読書会がゆるくおこなわれている。このメンバーやゲストによる冊子「ほんもあい」も、これまで6号作られているという。手に取ってみるとエッセイやインタビュー、ボーダーインクの新城和博さんの小説などが掲載されていて、沖縄の本と本屋が好きな人なら、ツボに入りまくる内容になっていた。本を置く、イベントを開く、自身の声も発信する。いくつもの顔を見せてくれたブッキッシュは、さらに新しい顔を作り続けているようだ。

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【写真2】 お久しぶりの、多田明日香さん(右)と

ブッキッシュを出ると、もうすっかり暗くなっていた。でもシメに、どうしても寄りたい店があった。宮古島からやってきた、麻姑山書房だ。古島地区にそびえたつこの本の森に、今回の同行者で『離島の本屋ふたたび』の版元ころからの代表・木瀬さんを連れて行かないわけにはいかない。以前感じた軽い緊張感はゼロ、それどころか「行って驚くがいい」と先輩風を吹かせながら、麻姑山書房のインターフォンを押した。
田中保一さんと雅子さんのご夫妻は、1度訪ねたきりの私のことを、しっかり覚えていてくださった。体の調子が良くないと語ったものの、今も2人で韓流ドラマを楽しむ日々を過ごしていると聞き、胸をなでおろす。木瀬さんを見ると、やはり「家に本しかないとこうなるのかなあ」と思ってしまうほど、本に溢れたレイアウトに圧倒されているようだった。
「宮古に置いてきた本、どうなりましたか?」
倉庫と本はそのまま置かれているけれど、宮古島に住んでいる人が、もしかしたら在庫を受け継いでくれるかもしれない――。
そんな言葉が保一さんから返ってきて、ぱあっと、目の前が明るくなった気がした。
「でもまだ何も決まってないけれどね」

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【写真3】 田中さんご夫妻と。前回は写真を撮らせていただけなかったので、嬉しい!

それでも、期待せずにはいられない。「沖縄に来たらまた寄ります」と言い、田中邸でもある店をあとにした。

翌日は朝から、サラッとした晴天に恵まれた。絶好のイベント日和ではないか。昼過ぎにジュンク堂書店那覇店に到着して、木瀬さんと会場設営を行っていると、「この本、あなたが書いたの?」と声をかけられた。「そうです」と答えようとしたら、その方は私ではなく木瀬さんに声をかけていたのだ。「著者は男性で女性はアシスタント」というジェンダーバイアスによるものなのか、それとも私が心もとなく見えたのか、単なる偶然なのか……。むむむと考えながらも、「無料なので、ぜひ聞いていってください」とアピールしてみた。ああ、迫力が欲しい。

「沖縄にはリアル友人が5人いるが(5人しかいないとも言う)、いずれも予定が合わず今回は会えない。古書店関係の皆さんは市会で忙しいし、コロナだし人少ないかもな。それでも、お客さんが楽しんでくれるように頑張ろう」。ジュンク堂のバックヤードになぜか置かれている坂本龍馬像に誓いを立てていると、今日のパートナーである喜納さんがやって来た。

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【写真4】なぜここにいるのか……? 謎のミニ坂本龍馬像

喜納さんはサクサクとすごい勢いで資料を揃え、投影用の写真をセレクトを始める。も、持つべきものは地域の本屋事情に明るい仲間! これはもう大丈夫だと、他力本願全開&「これは面白くなるから、たくさんの人に話を聞いて欲しい」と願いながら、時間ぴったりにイベントを始めた。
さっきの方も含めて、思っていた以上に多くの人が座っていた。金武文化堂の新嶋さんや小雨堂のミキシズさん、ボーダーインクの池宮さんなど、お世話になった方々の顔が視界に入る。この前日に取材でお会いした(珍しく私がされる方だった)、沖縄タイムス学芸部の真栄里泰球さんの姿もあった。

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【写真5】 ソーシャルディスタンス&マイクありでトーク中

イベントで何を話したかは、頭が真っ白になっていたのでほとんど記憶にない。しかし喜納さんが用意してくれた画像の中から、BOOKSじのんの前身・ロマン書房(サブカルの聖地)を紹介した際には、会場から「おおっ!」という声があがったのはよく覚えている。今も多くの人の記憶に刻まれているとは。
笑いを取りに行きつつ色々話しているうちに、あっという間に時間が来てしまった。本当に今回は、喜納さんに感謝しかない(もうボーダーインク方面に、足を向けて寝れない)。

「せっかくなので今開いてる、ちはやとくじらに行ってみます?」
イベント終了後、喜納さんが嬉しい申し出をしてくれた。まだまだ本屋巡りのお代わりOKなんて、嬉しいったらありゃしない。
新しくなったちはや書房に行くと、櫻井さんは不在だったけれど、パートナーのヒサエさんがレジにいらっしゃった。挨拶をして店内を散策すると、以前よりコンパクトになったものの、スッキリ開放感があり、居心地の良さがアップしていた。

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【写真6】 おなじ那覇市内でも若狭地区から泉崎に移転した、ちはや書房

ひとしきり話をしたのち、八重瀬町のくじらブックスを目指す。クリスマスムード満点の店内に入り、渡慶次さんの笑顔に触れた瞬間、張っていた気持ちがほっと、ゆるんでいくのがわかった。そして小説から人文書まで、前回以上に「お、これ読んでみたかった」と思ってしまう本が並んでいた。

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【写真7】 クリスマスムード溢れる、くじらブックス

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【写真8】 働く渡慶次美帆さん(左)と、さりげなく『離島の本屋ふたたび』をアピールする喜納えりかさん

その後戻った那覇では、私にとってとても思い出深い時間が過ごせたのだけれど、その話はいずれ書きたいと思う。まだ整理がついていないのもあれば、この先に繋がる話を色々聞けたのもあるので、「この先」の取材ができたタイミングで、一緒に紹介したいからだ。
なくなる本屋がある一方で、新しく生まれる本屋がある。同じ場所で頑張る本屋もあれば、リニューアルして違う表情になる本屋もある。行くたびに「その時の姿」を見せてはくれるけれど、常にとどまることはない。そんな沖縄の本屋を訪ね歩く日々はこれからも続くだろうし、続けていきたい。人生、何が起きるかわかりゃしない。でもこれまで、離島の本屋に行きたいという願いを叶えることができてきた。だからこの先も強く願えば、きっと実現するはずだろう。そう信じている。
【了】

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