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【1000字書評】F.P.バイステック『ケースワークの原則』

ソーシャルワーカーのバイブルであり、誰もが知っている名著ですが、本書を通読した方はそこまで多くないのではないでしょうか。恥ずかしながらわたしも学生時代に一度読んだきりでした。

今回改めて読み返してみると、自分の実践経験と重なる部分や、新たな気づきがあったので紹介します。

【概要】
本書には、援助関係を築く上で欠かせない7つの原則が記されています。援助関係とは一般的な人間関係とは異なるとバイステックは述べます。なぜならその目的は「クライエントが彼と環境のあいだにより良い適応を実現していく過程を援助する」(p.17)ものだからです。そして、良い援助関係とは双方の態度と情緒が生き物のように作用し合っている状態をいい、援助関係が築けなければ援助は停滞してしまいます。
この関係を維持するために、以下の7つの原則が必要だと彼は述べます。

原則① クライエントを個人として捉える(個別化)
原則② クライエントの感情表現を大切にする(意図的な感情表出)
原則③ 援助者は自分の感情を自覚して吟味する(統制された情緒的関与)
原則④ 受けとめる(受容)
原則⑤ クライエントを一方的に非難しない(非審判的態度)
原則⑥ クライエントの自己決定を促して尊重する(自己決定)
原則⑦ 秘密を保持して信頼感を醸成する(秘密保持)

これらの原則に従うことが、より良い援助関係を維持するために大切です。

【感想】
彼はすべての原則において「目的性」を重視しています。原則を守るのは、良い援助関係を築くため。より良い援助関係を築くのは、クライアントの持っている力や環境の資源を生かし問題解決を行うためです。このクライアントの力を生かす、本人主体の援助という考え方は現代でも大切にされており、今も読み継がれている理由だと思います。
彼は「褒める」ではなく「励ます」という言葉を多く使います。原則のひとつである非審判的態度といえますが、ここに、クライアントの伴走者としての援助のあり方が示されているように感じます。

また、本書全体を通して感じられるのは、彼の人間愛です。ケースワークは元々、友愛の精神から始まりました。この情緒的な関係を大切にする一方で、専門的な態度を維持するという葛藤と闘いながら、本書を書いたのだなと想像しました。


対人援助職という広大かつ答えのない世界に足を踏み入れるための最初の一冊として、まだまだ活用され続けるのだろうと思います。

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