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【手紙】就労支援を始めたばかりの自分へ

拝啓

就労支援を始めて、まだ右も左も分からないまま現場に飛び込んだ25歳のわたしへ。

自分は33歳で、今年34歳になろうとしています。この前「若手職員から見た〜」なんていう講演をしたけれど、個人的には中堅の域だと思っています。また、一度転職はしたものの、周囲に恵まれてなんとかこの仕事を続けられています。

就労支援は本当に大変な仕事だし、辞めたくなることも多いけれど、その分やりがいもある。
だから、もし今のわたしがあなたの年齢に若返ったのならば、これだけはやっておけばよかったと思うこと、そして一応あなたの先輩として、これは経験した方がいいよということを、エラそうに書いてみたいと思います。



①まずやってみる

入職したばかりの頃、周りには自分の先輩しかいない。先輩が容易く出来ていることも、自分には重荷に感じることが多くある。
でも、まずはチャレンジしてみよう。失敗した方が経験になる。ちゃんと見ている上司は労ってくれる(「ほら見たことか」なんて言う先輩は適当にあしらえばいい。そんなのは、それ以上成長できないかわいそうなやつだ)。そして、失敗したらきちんと利用者に謝ろう。今までの経験で、許してくれなかった利用者は一人もいない。逆に、チャレンジせずに専門家ぶると痛い目に遭う。利用者はそれをすぐに見抜くからね。そして信頼されなくなる。まずはとにかくがむしゃらに頑張ればいい。

②技法に頼りすぎるな、でも勉強はしよう

大学で学んできた技法があると思う。マイクロカウンセリングやロジャーズ的な傾聴、ソーシャルワークの技法云々。それらは確かに有用なものだ。けれども、就労支援に必要なのは技法だけじゃない。
目の前の人が何を望んでいるか、それを想像しよう。明確に表明してくれる人もいれば、言葉にしない人もいる。付き合っていく中で、何に困っていて、どうなりたいのかを問い続けよう。講義ではニーズなんていうことばで表されるけれど、わたしとしては専門家ぶったことばに聞こえて好きじゃない。「困りごと」と「なりたい姿」でじゅうぶんだ。知識偏重主義ではなく、イメージする力を鍛えよう。

ただ、ここまで言っておいてひっくり返すよう
だけれど、やっぱり知識や技法は有用だ。本を読んで、研修に出て、仲間と一緒に学ぼう。学んだことをできれば自分に試してみるのもいい。認知行動療法をガチでやったら疲れて飽きるとか、精神分析的な解釈を言われたらムカつくとか、色々なことがわかるはずだ。自分の体験から、相手がどう感じるか想像できるようになってくる。そして、知識や技法の限界もわかってくる。

③社会を知ること

就労支援はニッチな業界だ。この分野が社会のどの位置に置かれているのか、経験すればするほどわかってきて絶望的になる。企業開拓をしても、人事担当者と話しても、障がいに対する偏見や関心のなさを痛感することは多い。ただ逆境の中でも理解を広めていくのが自分たちの仕事だ。そして究極的に、わたしが失業すれば社会は劇的によくなると思っている(生きているうちにそんなふうになるとは思わないけれど)。

企業の論理を知るために、医療や福祉職以外の人と繋がりを作ろう。働くというのは、基本的に会社に雇用されること。雇用されるということは、会社の戦力になるということだ。その意識が抜けていると、言い方は悪いが支援者は邪魔者以外の何者でもない。

④利用者を好きでいること

利用者には色々な人がいる。「精神疾患に罹る人は優しい人が多い」なんていう気概で入職したあなたは、早々に出鼻を挫かれることになるだろう。でも、そんな人たちと長く付き合って、変化を感じるたびに嬉しくなったり、なかなか動かずにいる人を見て辛くなるのがこの仕事の性だ。人は少しずつ変化するという信念を持って、工夫を凝らしながら地道に働きかけるしかない。それは利用者のことが好きでないと難しい。この場合の好きは、人柄が好きとかいう表層的なものではなく、かけがえのない一個人として、変化し続ける人間として、その人に興味を持ち続けるということだ。

⑤悩み続けること

支援に正解はない。上手くいったと感じても、それは汎化できるものではないし、支援者側の自己満足な場合だってある。
これが最善だったのかと、常に悩み続けよう。悩むことは辛く苦しい作業だけれど、悩み抜いて行った支援は必ず利用者やその周囲に届く。
そうすれば支援結果がたとえ良いものでなくとも、利用者の人生経験の一部になって、いつか芽を出すかもしれない。

だからノートばかり取るのはやめなさい。ノートに答えなんて書いてない。大事なことは記録すればいい。答えは利用者が知っているんだから、とにかく話しかけにいこう。


最後に

読み返してみると抽象的でやっぱりエラそうだけれど、これらは自分が今まで学んで、大切にしていることです。そして若い頃やっておけばよかったなという後悔の場面もたくさん思い出されます。ただ、色々な経験を経て得られたセンスの部分を伝えてみたかったのです。

もちろん今のわたしもまだまだ不完全です。完全なんてないだろうけれど、それを目指して悩み続けている最中。利用者のためにできることを、もっと磨いていきたいと思っています。

それでは身体に気をつけて。28歳で一度入院するけれど、それも「患者としての役割」を経験する良い機会になります。しっかり回復するのでご安心を。


敬具

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