うちの人を一人前の男に出世させたら本望や!

何となく、元気が出ない・・・。そんな方へ、小説の一片を!

ご紹介するのは、織田作之助作「夫婦善哉」から。
駆け落ち後、一度実家に戻った夫の柳吉が、妻の蝶子のもとに帰った夜のことです。蝶子は、柳吉から、「芸者と世帯を持ったと聞いた父親が、息子を嘲笑したこと、そして、蝶子のことをひどく言ったこと」を聞きます。そして、次のように決意します。

蝶子は「私のこと悪う言やはんのは無理おまへん」としんみりした。が、肚の中では、私の力で柳吉を一人前にしてみせまっさかい、心配しなはんなとひそかに柳吉の父親に向かって呟く気持ちを持った。自身にも言い聴かせて「私は何も前の奥さんの後釜に座るつもりやあらへん、維康を一人前の男に出世させたら本望や」そう思うことは涙をそそる快感だった。その気持ちの張りと柳吉が帰ってきた喜びとで、その夜興奮して眠れず、眼をピカピカ光らせて低い天井を睨んでいた。

「夫婦善哉」は、大阪を舞台とする、蝶子と柳吉夫婦の物語。
芸者蝶子は、安化粧品問屋の息子で、妻子ある維康(これやす)柳吉と駆け落ちします。その後の二人は、「生活力のある女房が稼ぎ、蓄えた金を、甲斐性なしの夫が酒の勢いで散財する」ことを、性懲りもなく繰り返します。

大金と希望を失っても、何度も再起する、バイタリティ溢れる蝶子、不幸の元凶なのに、憎み切れない柳吉、彼らが家族や周囲の人々と互いに気遣う様子から、エネルギーや、優しい気持ちを注いでもらえる作品です。

お立ち寄り頂き、ありがとうございました。

物語の一片 No.1 「夫婦善哉」 by 織田作之助 



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