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ストロベリームーン・イブの集い(758文字)

「出たよ。出た、出た。」
一斉に窓の方を見た。月がきれいに出ていた。


昨日は朝からひどい雨が降っていて、後から聞いたら梅雨入りしたとか。どおりで昼間は土砂降りだった。夕方、その雨が上がる頃、学生時代のサークルの仲良しメンバーが集まって、いつものようにあれやこれやとそれぞれが好き勝手なことを言って盛り上がっていたところだった。雲の切れ目からほんの僅かに月が顔を出し始めたのが窓越しに見えた。

「俺さ、月が綺麗だとベランダからずっと眺めちゃうんだよな」

メンバーの一人が言った。数名が頷く。
「うん、分かる、分かる」

しかし、またすぐに誰かが何か言って、ゴルフの話とか病気の話とか都知事選の話とか、一同は雑談、談議の世界へと戻っていった。

それから、月のことを忘れかけた頃、月がそのまんまるに近い姿を完全に現していることに一人が気づいた。月はビルとビルの谷間でうまい具合に光を放っていた。

数名が慌ててスマホを持って窓に貼りついた。残念だったのは、窓ガラスが何故かドット柄で、どう頑張っても写真に謎の水玉模様が入る。月よりも水玉模様が主役になって、月を撮ったって言わなきゃ月の存在に気づきもしない。だけど、丸く見えてもストロベリームーンは翌日だし、そもそも天気さえ良ければ月に一回は満月を見るチャンスがあるし、写真を撮ることも出来る。そこまで珍しいものでもない。それでもきれいに撮れなかったことを、皆、残念がっていた。

なぜ、そんなに月の写真を撮りたかったのか。一日たってドット柄の写真を眺めながら思ったことは、その集いが楽しかったからに違いないということ。楽しかったから、その楽しさを写真という形で残しておきたかったんだと、潜在的に考えたのではないか。

次回の集まりは月のきれいな夜ではないかもしれない。今度は何の写真を撮るのだろうか。

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