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禍話:山の祭りの面

まだ平成の頃の話。

その地域はとっくに限界集落だった。
話をしてくれたAさんの実家がある街の、さらに隣町の地域は指折り数えるぐらいの住民しかいなくなっていて、そのほとんどがお年寄りだった。

そんな集落にある山には、石段を100段ほど上ると神社があった。年に2回ほど管理者が掃除に行く以外は、滅多に人が行くことはなかった。

ある時、周辺をドライブしに来た人がその神社で祭を目撃したという噂が広がった。真っ暗な石段の先が明るくなっていて、人が集まっているように見えたので「お祭りかな?」と思い、好奇心から行ってみようとするも、石段のふもとにある駐車場は雑草が伸び放題。石段を上り下りする人も全くいない。

時間は20時頃だが気味が悪くなり「おかしいぞ?」と思い行くのをやめた。

またある人は季節はずれにお祭りのような灯りが見え、行ってみようかと石段を途中まで上ってみたが、上から聞こえる会話が何を話しているのかさっぱりわからず、やはりなんとなく怖くなって引き返したそうだ。

噂の通報を受けた警察官が翌日確認しても何もなく、いつもどおり人がほぼ立ち入っていない荒れた状態の境内がぽつんとあるだけだった。

Aさんの仲間内の1人、Bさんがついにその祭に行ったと話し始めた。[今まで行った人がいないらしい]という噂の祭らしき灯りにたまたま出くわして、境内まで行ったそうだ。
詳細をなかなか話してくれないので疑わしくはあったが、普段は陽気なBさんがなんだか暗く、顔色も悪い。

Bさんはチラチラと仲間内の〇〇ちゃんを見る。以前怖い話を嫌がっていたので気にしているようだ。
〇〇ちゃんも、Bさんの暗い様子が気がかりで
「怖い話得意じゃないけど…聞きますよ。話してください」
と言い、Bさんもそれなら、と話し始めた。

「途中まで危なかったんだよ」
石段は真っ暗でところどころ欠けていたり、手すりもすっかり錆びていた。なんとか石段を登り切ると縁日があった。Bさんはケータイで写真を撮れるはずなのに何故か撮らなかった。今思えば初めからなんとなく違和感があったからだろう。

Bさんはふと、その場に見える人々が全員自分に背を向けていることに気付いた。屋台の人も、近くに立っている2人組も、しゃがんでいる人も、5分近くキョロキョロと見渡しても誰の顔も確認できない。Bさんはどんどん怖くなっていた。

すると背を向ける人だかりの奥のほうに唯一、自分を向いている人影を見つけた。

小学生くらいの男の子だった。浴衣を着ている。こちらを向いている顔には、安っぽいプラスチックのお面をかぶっている。
それはよくあるヒーローのお面などではなく、よくわからない普通の人間の顔のお面だった。

男の子はそのまま自分に向かって手を振って、早歩きで駆け寄ってきた。
(あ、だめだ)
Bさんは瞬間的にそう思い、踵を返して逃げた。足元のおぼつかない危ない石段を、転がるように下った。
聞いていたみんなは、怖くなって「ヤバ…」としか言えなくなっていた。

数日後、AさんのもとにBさんから電話があった。
「もしもし?あの時さ、〇〇ちゃんを怖がらせちゃうと思って言えなかった話があるんだけど…」
「やっぱりまだ何かあったの?」
「あの子どもが、おれの住んでるマンションのエントランスに居たんだよね」
「えっ!?」
「集合ポスト確認してたら自動ドアのとこをカリカリやっててさ」
こっちに来ちゃってる感じで怖がるかなと思ってあの時言えなかった。でも誰かに聞いてほしくてAさんにだけ話した、と言う。
Bさんは
「なんかあったらごめんな」
と電話を切った。

そしてAさんはおもむろに
「…来たんですよ」
と言う。
実家暮らしのAさんは、Bさんから聞いた話が怖くて、2階にある自室で寝るのが嫌でその日は両親の寝室近くの居間で寝ることにした。
ソファーに横向きで寝ていると、金縛りにあった。壁側を向いていたので背後が怖い。かろうじて手がちょっと動かせたので、後ろ方向に頑張って動かした。
「手に当たったんです…プラスチックみたいな…」
爪が「コン」と当たったと言う。
「アレ…お面だったと思う」

翌日すぐBさんに電話するも、出ない。
いつもみんなで集まっているところに行くと、先に来ていた1人が
「Bさんからお前にって、手紙預かったんだけど」
と渡してくれた。
A君へ、と書かれた便箋には、

〜なかった

してください

と殴り書きしてあった。

たぶん
「聞かなかったことにしてください」
と書きたかったのだろう。


※この話はツイキャス「禍話」より、「山の祭りの面」という話を文章にしたものです。(2023/07/15 禍話インフィニティ 第三夜)

禍話二次創作のガイドラインです。


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