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禍話リライト:隣の家の木

A君が高校生の時の話。
その日は友達のB君の家に遊びに行っていて、お菓子を食べながらおしゃべりしていた流れで、アルバムを見ようということになった。
B君とは小学校が違ったので、見せてもらった卒業アルバムが新鮮だった。A君の小学校には無かった謎の行事写真で大笑いし、集合写真から幼いB君の姿を見つけだすのに盛り上がった。

興が乗ったのか、B君は家族で撮ったアルバムも持ってきた。幼い兄弟がじゃれつく写真や家族旅行に行った時の写真、とりわけB君のお父さんが若い頃の姿が衝撃的だったりしてゲラゲラ笑った。

いろんな写真を見ていくと家で撮ったと思われる家族写真が出てきたが、家の形が今いるそれと違う。
「B君ってどっかのタイミングでこの家に引っ越してきたの?」
するとB君も詳しい理由は知らないが、同じ地域内で一度引っ越したことがあるという。
「この写真の家、結構近い○○町のさ、5丁目の公園のすぐ近くだったんだよ。親父が転職したとかでもないしさー、大人の都合かねえ?」
そう言って笑うB君だったが、前に住んでいたというその家の写真に何か違和感を覚えた。

写真自体はいたって普通の家族写真だ。庭で犬と遊んでいて、縁側で各々が楽しげにポーズを取っている。ただ、画角的に写り込みそうな隣の家側の部分が切れているようだ。トリミング、というやつだろうか。

B君にこの写真切っちゃったの?と尋ねると
「あ~その写真、隣の家の木が見えないように切ってるのかも」
「わざわざ?お隣さんとなんか揉めたりしたの?」
と勢いで口にしてから(失礼だったかな……)と気になったが、B君は何も気にしていないふうでこう答えた。

「おれが小さい時、その木で隣のおじさんが首吊っちゃってさー」

隣の家は、そもそも近隣とは回覧板すら回さないような没交渉だったので、そのおじさんが最終的に助かったのか亡くなったのかはわからなかったそうだ。

ただ、それ以来B君の家では変なことが起きるようになったという。
お母さんが台所で料理していると視線を感じ、気のせいかと思うと影がよぎったり、別の日には勝手口から人が入ってこようとしたり。

またある日にはお父さんが帰ると先に玄関をガチャガチャやっている人がいた。寝巻にみえる格好の人物で、B君の家のとは全然違う鍵をむりやりねじ込もうとしていたので、お父さんが背後から
「ちょっとアンタ!」
と強めに声をかけた。ふりむいた顔を見たと思った次の瞬間には、お父さんはガレージの車の中にいたという。記憶が飛んでいる。
さらにお父さんは、確実に見たはずの顔は覚えていないがその人物の姿が、首を吊った隣のおじさんの格好に似てる気がした、とのちに話していたそうだ。

「おれは小さかったから記憶無いんだけどさー、おれも急に泣き出したり、知らない人が入ってくる!って言ってドアノブ抑えたりしてたらしい」

そんなこともあって引っ越したんじゃないかな、とB君は淡々と話した。


しばらく経ったある日。
A君が自宅でくつろいでいると、母親から
「あんた、ちょっと今から○○町の4丁目にある叔母さんとこまで果物のおすそ分け持ってってくれない?」
と頼まれた。暇だったのでA君は快諾して、すぐ向かった。

おつかいはすぐ終わり、叔母さんの家から出たところで、B君が前に住んでいた家の場所を思い出した。
「そういえば○○町の5丁目って言ってたから、この近くなのかな……?」
電柱の表示を見ると今いる4丁目の路地の反対側から5丁目になっているようだ。もし見つけたら昔のB君の家の前を通過してみようかな?と気まぐれに寄り道した。

すぐにB君が言っていた目印の公園があり、キョロキョロ見渡すと写真で見たとおりの家が近くにあった。
(B君が前に住んでた家、これだ!)
(となると、隣のこの家の、庭にある木で……。)

そう思いながら隣の家の庭のほうに視線をやると小さめのベンチがあって、初老の男性が座っていた。A君がその存在に気付いたと同時に目が合ってしまった。

(あっ人がいた……!)
よその家をじろじろ見てすいません、の気持ちで気まずく目を伏せかけた時、そのおじさんは
(いいんだよ 気にすんな)
とでも言いたげに手を振ってくれた。
そして視線はそらさずこっちをじっと見ながらゆっくりと、首に巻いているストールのような、襟巻のようなものをほどき始めた。
(ん?なんか見せられるのか?……首?)

────首。
B君から聞いた話が瞬間的に結びつき、途端にダッシュで逃げた。
おじさんが見せつけてきた首元に、傷かなにか、その時 ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ の痕跡がもしあったらと思うと、A君はとても無理だと思った。



※この話はツイキャス「禍話」より、「隣の家の木」という話を文章にしたものです。(2024/07/13 禍話フロムビヨンド 第三夜)

禍話二次創作のガイドラインです。


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