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【私のキャリア形成】 「医師でありながら週の半分旅に出るライフスタイル」を可能にした方法とは

ブログにて、大変貴重な質問をいただきましたので、こちらでシェアさせていただきます。


2019年より連載を2本もたせていただいております「m3.comメンバーズメディアから先生のブログにたどり着きました」というはなこさんより、

よく旅に出るライフスタイルに憧れるのですが、どのような仕事のフリーランス医をされているのですか?

先生の立場になるには、一から勉強だと何年かかりますか?

何も医師の世界じゃなく、他でも共通する部分はあると思いますので、
がっつり回答していきたいと思います。


<質問1>

よく旅に出るライフスタイルに憧れるのですが、どのような仕事のフリーランス医をされているのですか?


形成外科の専門医を持ち、皮膚科のクリニックに勤務しているので、厳密にいうと専門は形成外科です。


大学にずっと残れる確証があるのであれば、形成外科の勉強だけでよかった。

ですが、政治力も絡んでくる世界、自分の実力だけで大学にずっと残って教授まで出世できる確証はありません。

ということで、万が一大学を出された時にも食べていけるように、プランBも可能なキャリア形成が必要となっていくわけです。


大学以外で形成外科だけで食べていく、となると、まず、美容外科・美容皮膚科といった分野が筆頭にあがります。

が、この分野、形成外科未経験でもできる分野であるため、
商売っ気のある他科出身の先生も手をつける分野。いわば競争過多な状態

都会にあふれている美容クリニックの数を見れば容易に見当がつくことではないでしょうか。

当然、経営手腕が問われますし、
雇われる側からすると、時給などの給与面は悪くなります。


加え、私は、保険外診療に特有の、いわゆる「接客業務」的なアプローチ、これ絶対やりたくない。
患者のニーズを第一にする治療、完全に患者の「言いなり」になる診療は正直ゴメンでした。


「薬の出せる量や種類は決まっているので、そんなに多くは出せません。」

「あなたのおっしゃる方法では治らないので、あなたの言うことを全部受け入れるわけにはいきません」

といった、
いわゆる医者的なアプローチも正当なものとして認められる保険診療を続けたかった。


「保険診療」で「食べられる」「仕事のニーズがある」分野のうち、形成外科医が会得するのが多いのが、皮膚科あるいは整形外科分野です。

このうち、私が得意としている分野に近いのが皮膚科でした。

「大学を辞めることになったら皮膚科でも食べていけるように」

これは割と若手のうちから、視野に入れてキャリア形成をしてきました。

「その考えもよし」としてくださる指導者に教えを請うようにしました。


形成外科専門医取得以降、主にやっていた手術はホクロ取りや皮膚がんなど、形成外科の中でも、皮膚科の先生も実践している医者もいるはいる、皮膚外科という分野が中心。


形成外科の医局に所属して皮膚外科を極めながら、

皮膚科に頻繁に顔を出し、皮膚がんについては業務提携体制を強化したりなど、接点を強固にしながら、皮膚科のアルバイト業務もこなし、外来診療レベルで日常的に遭遇する、アトピーやニキビといったような、いわゆる"common disease"について勉強しました。


かくして、

皮膚科専門医の半分の所要時間で、皮膚科の医師よりはるかに綺麗に手術を行える皮膚科医

というスペックを手に入れることとなりました。



当然のことながら同僚の皮膚科医師からは、「皮膚科が専門」という認識は持たれておりません。

が、形成外科サイドから見ても、私は「形成外科っぽくない」医師としてとらえられているはずです。

おそらく彼らからすると、「かなり皮膚科寄りの形成外科医」でしょう。


そして、このスペックを持つ医師は、ややレアキャラです。


こうもなるとライバルは少なくなる。

当然、フリーになった後、より良い条件の仕事を選びやすくなります。



ブログのアクセス数を増やす戦略として、

いきなり大手メディアが書いているようなメジャーなテーマを取り上げるのではなく、その情報を必要とする読者が少なくても、他にライバルのいないような自分にしか書けないテーマから着手する

というものがあります。


私は、医師としてもこの戦略を実践しています。


ニッチ市場といいますか、

自分が活躍できるポジションを、人とはちょっと違った視点で目指していく


人と違うキャリアを持つことで、
人と違う生活ができる。

「そう代わりのいない人材市場」に少し足を踏み入れることができ、そんな私を重宝してくださる職場とのご縁に恵まれて、旅ブロガーと両立させていただけている。

こういう原理です。


<質問2>

先生の立場になるには、一から勉強だと何年かかりますか?

「一から」の定義が、医学部に入学するところからなのか、
医師国家試験に合格してから、ということなのか、
というのがありますが、

m3.comからいらしていただいたということで、もうすでに医師国家試験には合格されているか、これから受験されるであろう、と思われますので、
ここでは医師国家試験に合格してから、という前提でズバリ申し上げます。


医師国家試験に合格してから、私の今のポジションに並ぶのに要する年数は10年です。


さらにはその10年で、以下のことに留意する必要があります。

  1. 確固たる指導者、つまりは「後ろ盾」を手にいれる

  2. 先輩、後輩、指導者、看護師、コメディカル、事務スタッフ、すべてにおいて良好なコミュニケーションを可能とするスキルを身につける



10年とは、どういう年月か

まず肩書きだけで見た場合

大学の医局で順当に進んだとして専門医までに7年(科によっては6年?)
上級専門医(抗加齢医学会など)や指導医/分野指導医までにプラス3年

さらに行ければ医学博士も取れる年数です。


自分はこの年数で

  • 形成外科専門医

  • 皮膚腫瘍外科分野指導医

  • 日本抗加齢医学会専門医

  • 医学博士

もれなく全部取りました



ですが、もちろん、この10年というのは肩書きだけで語れるものではありません。


「世渡り力=政治力」とコミュニケーション能力は必須です。


なぜならこれらの資格は、自分の実力だけで取得することは不可能

これ全部取るにあたり、医局内である程度の政治力を持った指導者のバックアップ=後ろ盾が必要不可欠だからです。

私のこれらの資格なども、
「そういうポジションを目指すのはなかなか面白いと思う」
と師からサポートを受けることができたからこそ、叶ったことなのです。



そして、指導者を選ぶにあたり、

いざとなればその指導者と共倒れでも良いのか

その覚悟も決める必要があります。



自分の志半ばで、その指導者が出世競争に敗れて医局を追い出されることになると、自分の医局での居場所はなくなるからです。

現に弟が大学の医局でその状態になり、大学の正式な出世ラインからは外れ、医学博士を取得いたしておりません。

良くも悪くも大学の医局ってそういう世界です。


なので指導医選びは間違ってはいけないし、その指導医と良好なコミュニケーションをとっていかなくては何も始まらない。


指導者が部下まで守りきれないということもあります。

自分が大学を辞めたのはそれでしたが、やむを得ない状況だったので、師匠を恨んだりはしておりません。


さて、そして、


大学を辞めた後、必要なのは医療のスキル以上に交渉力/コミュニケーションスキルです

  • 転職エージェント選び

  • 勤務条件の交渉

  • 辞める時トラブった時…労働基準法の知識を基とした毅然とした対応

フリーランスとしてでもそうでなくても、
いったん医局を離れたら、相手に「いいように使われず」に働くために、自分でこれだけのことをする必要があります。



自分は、大学病院時代、

まずは身内…上司や同僚(先輩・後輩)の「攻略」に始まり、

外科系でしたら麻酔科医

さらには

看護師コメディカル事務方


彼らと、良好な関係を保ちながら、
きちんと自分の要望をご理解いただき、快く受け入れてもらう、

そういったコミュニケーション術を徹底して学びました。


先出の自分の師匠にあたる方が、このあたり上手くやってこそ、という考え方でありましたため、
これらの皆さんとのコミュニケーションを持って、のちの交渉スキルを磨き上げることができました。



ちなみに、やるべきことはきちんとやっているのに、看護師が自分を気にくわないと文句をいっている、女の敵は女だ、

という若手女性医師がいたのですが、


それは「やるべきことしかやっていないから」。


マニュアル通りにしか動けない医師の実力なぞ、彼らは認めません。


こっちだって、マニュアル通りの行動しかしない人間、お付き合いしたいほどの魅力は感じないでしょww




自分は、医者になって4年目、外科研修の時に、
あらゆる先生から「扱いにくい」と評判だったベテラン看護師と、ケータイ番号を交換するほどの仲になり、話題になった実績がありますが、


看護師とのコミュニケーション術は、ニーズがあれば、いつかあらためて書いてみようかなと思います。


以上、質問へのご回答として、

自分が今のライフスタイルを叶えるためにしてきたこと、
まとめてみました。


はなこさん、少しでも参考になる部分がありましたら嬉しいです。

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