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覚え違いのタイトル(毎日新聞2019年4月6日朝刊東海ワイド面p23掲載)

 図書館で働いていると、あいまいな記憶をもとに本を求められることが少なからずあります。言われたままのタイトルや著者名で検索しても見つからず、「どうやらこのタイトル(著者名)は怪しいぞ」と思ってからが司書の腕の見せどころです。そんな事例を集めてホームページで公開している図書館があります。福井県立図書館の「覚え違いタイトル集」です。例えば、「生姜(しょうが)みたいな名前の人」の正解は「姜尚中(かんさんじゅん)」、「『桜とお皿』時代物。たぶん畠中恵さん」の正解は「『桜ほうさら』で著者は宮部みゆき」といった感じで、 クスッと笑ってしまうような事例もあれば、よく正解にたどり着いたな、と感心するものもあります。

 タイトルも著者名も覚えてない場合は、あらすじからも調べます。特に子どもは本のタイトルや書いた人の名前なんてあまり気にしませんよね。成長してから、ふと思い出すストーリーや挿絵、何度も読んだあの本をもう一度読みたいと思う人や、自分の子に思い出の絵本を読んであげたいと思う人もいるようです。覚えていることをできるだけ引き出すよう聞き取りますが、幼い頃の記憶が元。覚え違いが生じていると、探すのに苦労します。見つからないこともありますが、作品に再会できると、とっても喜んでくれます。中には涙を浮かべて感謝されることもあります。

 私がかつて対応したケースです。男の子を連れたお母さんから「昔に読んだ、沖縄の太鼓『パーランクー』が出てくる絵本を探してもらえませんか。」と相談されました。もうちょっとヒントが欲しい。「どんな主人公か覚えていますか」と聞くと、「アマガエルが出てきて、パーランクーを持っている絵を覚えています」とのこと。そこで、国立国会図書館サーチという児童書のあらすじ情報も検索できるサービスで「かえる」+「沖縄」をキーワードに入れて検索してみると「かえるのつなひき」という儀間比呂志さんが書かれた絵本がヒットしました。「ひょっとして、つなひきをしていませんでしたか?」と聞くと、「していたかも!!」と興奮して身を乗り出して来られたのです。勤務先の図書館に所蔵があり、確認してもらって、お探しの絵本とわかりました。

 毎年たくさんの種類の本が出版されますが、絶版や品切れのために書店で流通しなくなる本も大量に出てきます。おぼろげな記憶に残る思い出の本をお探しのときは、図書館で一度聞いてみてはいかがでしょうか。うまく見つかるかもしれません。

【今月の一冊(大林正智)】
◇夜明けの図書館
市立図書館の新米司書ひなこが、さまざまな利用者の「知りたい」に応える「レファレンスサービス」を通じて成長する姿を描く図書館マンガ。1~5巻、以下続刊。埜納タオ著、双葉社(税込み669円から)。



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