【第7話】愛されたくて、愛してしまった。
誰かと一緒に添い寝をするのは、たぶん子どものころ以来。
隣にいるのは、ゲイの人。最悪、襲われるのではないかと思ってた・・・。
しかし彼はベッドで横になると、のび太なみの早さで寝落ちした。グーグー音を立てて、普通に寝た。
初めて会った人と添い寝をした夜は、まったくもって眠れなかった。
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朝方6時ごろ、少し眠れたような、、
彼のいびきがうるさくて、何度か目が覚めた。
今までにない日常に、「夢・・・?」と思ったが、夢じゃなかった。横を見ると、彼が横でスヤスヤと眠っている。
すると、彼は寝返って背中を向けた。
せっかく東京まで来たのに、ガッカリしている自分がいた。
これってどういうことなんだろう。初めて会ったばかりの人なのに。SNSでやりとりをしてただけで、まだ好きかどうかもよくわからないのに。
・・・ああ、これは、ものすごくダメなパターンかもしれない。
僕自身が好意を抱いてなくても、彼に振り向いてほしかったんだ。
寂しい。
愛されたい。
思わず、彼の背中に顔をうずめた。
最低だ。
でもつらい。
すると、彼は「どうしたの?」と言ってこちらを振り向く。
「ううん、なんでもないよ」
そういうと、彼はぎゅっと僕を抱き寄せて頭を撫でてくれた。
僕は最初どうしていいのかわからなかったが、少しずつ、少しずつ、彼の背中に腕をまわした。
「ああ、人ってこんなにあったかいんだな」
ずっと孤独に生きていくものだと思ってた。ぎこちなくて慣れない腕は、指先が触れてるか触れてないかで彷徨っている。
「気持ち悪くない?」
彼にそう聞かれると、「そうか、、ずっと僕の気持ちを汲んでくれていたんだな」と、そう思った。
誰とも恋愛したことがなければ、ましてや相手は同性の人。彼はそのことを知っていたからこそ、僕を傷つけないようにしてくれたのだろう。
「こっぺがしたいようにすればいいんだよ?」
続けて彼がそう言うと、
僕は思わず彼の頬にキスをして、求め合った。
***
二日目はどこか観光する予定だったが、カラダが、重い。
正午になってもまったく動く気になれなくて、気分が悪かった。
「ああ・・・やらかしてしまった」
せっかく東京に来たというのに、事態はキングオブ最悪である。
そういえばライブバーで知り合った彼の知人から、マイボトルのお酒をいただいたのだ。普段お酒を飲まない僕にはちょっと強くて、だけどちょっと無理をして一杯飲んでしまったのだ。せっかくのお酒の席を楽しみたかったから。
自己嫌悪プラス、昨夜のアルコールが朝方になって響いたというわけだ。しかも寝不足。おえっ
まさかこんなにカラダが堪えるとは・・・。もう、僕も若くないと思った。
「銀行に行く用事がどうしてもできたから、ちょっと行ってきてもいい?すぐ戻ってくるから。横になってて?」
僕は動けそうになかったから「うん」と言うと、しばらく20分ほど彼のベッドで寝ていた。
しばらくして彼が帰ってくると、水と胃腸薬を買ってきてくれた。
「はああああ、なんでこんなにやさしくしてくれるんだろ」
薬を飲んでしばらく横になっていると、少しだけ気分が楽になってきた。
「夕方になるまで家にいる?それとも、どこか行きたいとこある?」
正直なところ、浅草とスカイツリー以外、無計画だった。とくに行きたいと思う場所がなかった。初日の夜に一緒に決めようと思っていたが、緊張で結局それどころじゃなかった。
でもせっかく東京に来たからどこか行っておきたいなと思い、パッと思い浮かんだのが「上野」だった。
上野といえば、動物園だろう。(僕の勝手なイメージ)
「上野だったら近くに公園もあるし、ゆっくり散歩しよっか」
午後3時ごろ、荷物をまとめて彼の部屋を後にした。
彼の家の近くの駅まで歩くのもしんどくて、ずっと顔が死んでた。
この時間になっても、お腹は空いているけども、なんにも食べたくない・・・。
電車に乗ってるときに「なにか果物のジュースとか売ってるお店ないかな…?」と聞くと、「次に乗る電車のホームに売店がたしかあったかな?」と彼が言う。東京には、駅のホームにジュースの売店があるんか…?と思ったが、ホントにあった。200円ぐらいで飲める、ジューサーが置かれた売店が。
彼はジェントルマン過ぎて、「どれがいい?」と聞いて、あたり前のようにお金を出してくれる。
なにを飲んだか忘れたけど、さっぱりしてて、甘くて、体に染み渡るようにおいしかったのだけは覚えてる。
上野駅に着いてしばらく歩くと、すぐ上野動物園が見えた。
・・・が、夕方4時からはもう入園できなかった。時間も時間だし、コロナ禍で整理券方式になっていて、整理券の配布が終わっていた。
だが別に、動物園はもし入れたら入ろうって話だったから、「しょうがないか」で終わった。
しばらく上野にある公園をゆっくり散歩をした。
歩くのもちょっとまだしんどくて、彼も一緒になってゆっくり歩いてくれる。
上野公園の近くには、上野東照宮といった寺院があり、いくつものお賽銭箱にお賽銭を入れて、ふたりで手を合わせた。
彼は「こっぺの具合がよくなりますようにって願っておいたよ」と悪い顔をしながら言う。
一方で僕は「仕事面でうまくいきますように」「健康でいられますように」と願ったのがなんだか恥ずかしく思えた。自分のことばっかなのが恥ずかしい。。
彼と一緒にいると、本当に人に優しい人なのだとわかる。でも「みんなが幸せに暮らせる社会になりますように」とは願ったよ?(後出し)
ちょっと歩くのがしんどくなって座る場所を見つけて、しばらく一時間ほど目の前に広がる池、上野不忍池(しのばずのいけ))を眺めていた。池には一面、見たことがないほどの大きな緑の葉がいくつも伸びていた。(時期によっては蓮の花が咲いているようだが、この日はたしかほとんど咲いてなかった)
夕日の光と穏やかな風が心地よくて、人通りがほとんどない静けさにしばらく目を閉じながら何度も深呼吸をした。彼は僕の顔を伺いながら心配そうにしている。
後ろにはチワワを連れたおじいさんが座っている。そんな光景が微笑ましくて、和やかで、でも後から来たひとりのお姉さんにめっちゃ吠えていた。
「そろそろ東京駅向かう?」
彼がそう言うと、もうしばらく上野公園をまわったあと、東京駅へと向かった。
「ごはん、どうする?なにか食べる?」
彼もずっと食べずに付き合ってくれてたし、一緒に最後になにか食べたいと思っていたが、いろいろとメニューを見てまわったが、結果どれも食べたいとどうしても思えず。東京駅構内にあるカフェでアイスコーヒーを注文して、そこでまた一時間ぐらい近くのイスに腰をかけていた。
しばらく沈黙が続いたあと、僕は彼に聞いてみた。
「僕はさ、”男の人と付き合う”ということが全然イメージができなくて。もしこのまま生涯一緒にいたとして、両親に紹介しなきゃってときもどうしたらいいかわからないし。これからどういう生き方をしていこうと思ってるの?」
彼は少し「んー・・」と言ったあとに、こう答えた。
「俺は、ずっと生涯孤独に生きていくものだと思ってるし、親に言うつもりもない。たぶん、親は俺がゲイだってことも薄々気付いているとは思うだろうけど、カミングアウトしたらトドメを刺すみたいになるじゃん?
でも、もしも話さなければならないときが来たら、そのときに考えたらいいことだと思ってる。」
僕は、いつも未来のことを想像すると、不安で行動するのを躊躇う悪いクセがある。未知の世界に踏み込むのは誰だって怖いし、勇気が必要だ。
でも彼は反対に、難しく考えるのがニガテな人で、”今考えてもしょうがない”と考える人。たしかにそうかもしれない。その思考が持てたら、一番ラクなんだろうな。
ただ、彼のその話を聞いたら、少し気持ちが楽になったような気がした。
「こっぺ、楽しかった?」
「うん?楽しかったよ?」
「そっか、なんかずーっと今日一日浮かない顔してたからさ」
「うん」
「・・・会ってみたらやっぱりちょっとイメージと違ってガッカリされちゃったのかなぁと思ってさ、ずっと心配してた(笑)」
イメージは、たしかにちょっと思ってた雰囲気と違ったけれど、でもだからといってこれで終わりってことにしたいとは思わなかった。
改札前になると、僕は「二日間ありがとう」と言って、握手をした。
「こちらこそありがとう。気をつけて帰ってね」
改札に入ってからも、何度も後ろを振り返って彼に手を振った。彼も僕が見えなくなるまでずっと僕の背中を見つめてくれていた。
新幹線に乗ると、すぐ彼のLINEにメッセージを飛ばした。帰りの新幹線のなかでも、ずっとメッセージのやりとりをしていた。ちょいちょい寝たりしながらだけど。
3時間かけて帰宅すると、彼とまた電話でつながった。さっき会ってたのがなんだか不思議で、もう遠い場所にいるんだと実感するまでにちょっと時間がかかった。
「こっぺは、俺と会ってみて、また会いたいって思う?」
そう聞かれて、「うん、、そうだね。また東京行くよ」と答えた。
これで本当にいいのだろうか?
そう、不安になるのは僕の悪いクセ。
すると彼は続けてこう言った。
「じゃあ俺達、今日から恋人ね」
第一章、終わり。
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