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未熟で幼稚で哀しい“男性”性が丸裸にされて、捨てられる話ーー『MEN 同じ顔の男たち』

『MEN 同じ顔の男たち』を見ました。一部で話題になっており、ずっと見に行きたかったんですがホラー映画好きな友人と予定が中々合わなくて上映終了に滑り込みで見ました。

端的に言うとタイトル通り、「未熟で幼稚で哀しい“男性”性が丸裸にされて、捨てられる話」でした。

主人公の女性がメンヘラ男性によって、一生モノのトラウマをつけられてしまう。リフレッシュのために田舎のコテージにやってくるも、「厚かましいノンデリカシーセクハラ親父」、「謎の全裸男性」、「子供のようなヤリモク親父」、「勘違い神父」、「女見下し警官」、「衝動的親父」に出会い疲弊していく。
『MEN』あらすじ

というあらすじになっていて、私も序盤は山岸凉子先生達のような少女漫画家が描く「女性のお話」のようだなと思いました。

つまり、"男性"性(ここでは、人間の積み重ねによって生じた男性的価値観ということにします。)を持った男性たちの無意識な言動、それを中心に回る社会によって、加害されている女性を描いていると。

HPの著名人コメントにも「女性は日々、ホラーを生きている」とありました。なので、女性目線に立ってデフォルメ+ホラー化された"男性"性に恐怖する作品だと思います。

そう思って鑑賞していたのですが、ある時から徐々に恐怖が逆転していきます。そこが、本作の一番面白い部分でした。


「男を怖がる女」→「女を怖がる男」

本作で"男性"性の恐怖が描かれるたびに、どんどん胸が痛くなっていきます。最初はこの男黒歴史を見せられている気分です。きっと高確率でどの男性も見ていて苦しいんじゃないかな。

少しオーバーにクソ男性を描いているとは言え、少なからず同じ感情を女性に対して男性は抱いているからです。行動にはしなくても、または無意識のうちにきっと虐げている。

男怖いな……に加え、罪悪感から来る怖さがある。ホラー映画を見ているのに「自分も同じことしちゃってるかも」みたいな内側から来る恐怖もあるんですよね。

しかし、とあるシーンから風向きが変わり始めます。


"男性"性を受け入れて、哀れんでいく主人公

女性がとある男性に追いかけられ、コテージ内に入りドアを締めるシーン。男性は扉の郵便物を入れる長方形の穴から手を挿入します。全編通してそうですが、本作はオーラルセックスやセックスの比喩が多いです。

この、穴に指を入れる行為もそうです。このシーンは2回描かれますが、2度めはそのおぞましい手を主人公の女性は優しく握った後に、ナイフで突き刺します。

男の手はゆっくりと引き抜かれていきますが、ナイフは郵便受け口を通らないので、腕が2つに裂けて血だらけに。穴と床は滴る鮮血で真っ赤になってしまいます。初体験をすると膣内が傷ついたりして出血してしまうことがあると言われていますよね。

この一連のシークエンス後から女性はナイフを手に、"男性"性を持った同じ顔した男たちを殺していきます。彼女はその性行為のメタファーを経て、男性への恐怖が別のものへと変わっていったんじゃないでしょうか。

そして、衝撃のラストシーンへ。

どんどん生まれていく"男性"

最初に登場した「謎の裸の男性」は、ラストシーンにて「グリーンマン」と言われる男性を象徴する石像(劇中にも登場)そっくりの姿になっていました。

ストーリー的には彼の事を全然説明してくれなかったので、筋はよくわかりませんが、彼女の前に現れたのは、ピュアな"男性"性だという事でしょう。

その裸の男性はなんと妊娠しており、彼女がここで出会った男の1人が女性器のようなものから生まれてきます。すると、生まれてきた男性も徐々にお腹が膨れ始め、また別の男性を生んでいきます。マトリョーシカのような感じ。

裸の男はグリーンマンであり、りんごを食べた「アダム」なわけですから、"男性"性の象徴です。彼から「ノンデリ親父」、「勘違い神父」が生まれてくるのは必然ですね。

この時点で、主人公にトラウマを植え付けたメンヘラ男性が出てくることは確実。そして、彼が最後に生まれてきて会話をします。主人公が「私に何を求めているの?」と尋ねると、答えはもちろん「愛」です。

その問答の後に、彼女は部屋にあった斧を握りしめるというラストです(正確には少し続きがある、しかも結構恐ろしい)

生まれていく"男性"性を見る、女

このマトリョーシカ出産に、最初は怯える主人公。しかし、泣き叫びながら次から次へと生まれていく男たちを見て、どんどん呆れ顔になっていくのです。

私は見ていて逆に女の人が怖くなりました。ここで恐怖が逆転するんです。男性の持つ"男性"性に呆れて物も言えない彼女の顔。それは駄々をこねるしょうもない男を見る目なんですよね。

母親や彼女などに謝る時に「二度としないから!、変わるから!生まれ変わって別の人間になるから!」と懇願する事、ありますよね。私はあります。変わるから許して、ほど惨めで信用できない言い訳はない。

つまり、あのどんどん生まれていく男たちは「変わるから許して」と女性に土下座してる男なんじゃないかと。それを見る女性の目や、心は呆れ、冷たくなり、もう怖いを越えているんじゃないかな……。

最後は斧でパックリいかれてると思うんですが、肝心の殺すシーンを撮ってないんですよ。これが意地悪すぎる。

お願いだから主人公の手で、惨めな"男性"性を殺してくれよ……と心のそこから願っていたんですがついにとどめを刺すシーンは描かれず、迎えに来た女友だちと会って映画が終わるんです。怖すぎる。

至極当たり前な話ですが、死んで許されると思っているのか?ってことですよ。これは映画の冒頭にも繋がります。とにかく、私が持っているはずの"男性"性を丸裸にされて、哀れみを含んだ目で見つめられ、、捨てられる。

とにかく、喰らいました。女性って怖いんだな……で済まされない。そんな感想もぽいっと捨てられてしまうでしょう。私は先日、入籍したのでなんだか背筋が伸びる思いです。非常に良い作品でした。

※追記

こちらの後に感じる怖さ、とは男性性を怖いものではなく、理解できない、する必要のないくだらないものだとした主人公の目が私にも向けられているという怖さです。

そして、この社会の構造上、男女の溝はこうやって深くなっていくばかり。逆も然りでどちらも互いに絶望し合っていくのだなという恐怖です

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