会社はこれからどうなるのか

会社には2つの対照的な統治手法があると言われています。

それは、株主中心か、企業中心か、ということです。前者はエージェンシー理論、後者は企業主体論と呼ばれます。取締役・経営陣の役割は、それぞれ異なってきます。それぞれ特徴がありますが、時代によって語られる優劣に変化があるようです。

取締役・経営陣の端くれでもある自分にとっては、当事者として非常に関心が高い議論です。

株主中心のエージェンシー理論

エージェンシー理論では、取締役・経営陣は株主の代理人(エージェント)であるという立場をとります。経営目標は、あくまでも株主利益の最大化です。

このエージェンシー理論に対しての反論があります。ジョセフ L. バウアー とリン S. ペインの論文「健全な資本主義のためのコーポレートガバナンス エージェンシー理論から企業主体の理論へ」では、1970年代に提唱された「企業経営者は株主価値の最大化を目標とし、取締役会はそれを確実に履行させるべきだ」というエージェンシー理論に対しての5つの反論と、組織を長期的にマネジメントしていく現実を踏まえた「拠り所」を8つ提唱しています。

1970年代に主張されたエージェンシー理論の考え、「会社は株主のものである」は、案外現在でも多くの人に意識されているのではないでしょうか。特に20世紀のアメリカ型の企業をイメージさせます。それに対して先の論文では、企業中心の「企業主体論」の優れていることが論じられています。

日本の大企業は「会社共同体」的な会社

日本の経済学者である岩井克人さんの著作「会社はこれからどうなるのか」によると、日本の大企業は「会社共同体」的な会社であると書かれています。日本企業(大企業)の特徴は以下と書かれています。

① 日本の多くの会社の株主は欧米に比べて発言力が弱く、会社の経営にほとんど口をはさむことができない
②日本の多くの会社の経営者は、会社組織内の昇進競争によって従業員の中から選ばれており利益率よりは会社組織それ自体の拡大を目標とした経営を行っている
③日本の会社の中核的な従業員は、終身雇用制、年功賃金制、会社別組合に守られており、会社に対して強い帰属意識を持っている
④日本の会社の生産や流通や開発の現場においては、上下の命令指揮系統よりは、情報を共有した従業員のインフォーマルな関係が重視されている
⑤日本の多くの会社はいくつかのグループを作り、お互いの株式を持ち合い、系列関係を長期的に維持している
⑥自らを頂点として、その下に下請け、孫請けと拡がっていく垂直的な系列関係を長期的に維持している
⑦長期的な貸借関係を保っているメインバンクから、おもに資金を調達している

会社はこれからどうなるのか 第4章

これは、日本独特な特徴を持っていますが、どちらかと言えば企業主体論に近い概念だと思います。

株式会社は二重の所有関係

そして、書籍「会社はこれからどうなるのか」では、会社の構造についても言及されています。

株式会社とは、株主が法人としての会社を所有し、その法人としての会社が会社資産を所有するという、「二重の所有関係」によって構成されているのです。
しかも、この二重の所有関係の中間項となっている法人としての会社は、ヒトの役割とモノの役割を同時にはたしていることを、ここで強調しておかなければなりません。

会社はこれからどうなるのか

会社法の上では、従業員とは会社の「外部」の人間です。かれらは、法人としての会社との雇用関係という契約を結んでいる存在にすぎません。その意味では、原材料の供給者や製品の需要者や金融機関と変わるところはありません。
だが、ここにパラドックスがあります。日本では、通常、会社の従業員のことを「社員」とよんでいます。ところが、この「社員」という言葉は、会社法を読むと、ほんとうは会社の所有者である株主のことを指す言葉なのです。

会社はこれからどうなるのか

この構造が、会社を捉えるのを難しくさせ、エージェンシー理論、企業主体論のどちらも絶対的な真理にできなくさせていると思います。

ポスト資本主義における重要な資本とは

1990年代以降の日本経済の低迷、そして、アメリカ経済の復活と成長。その時代に勢いを増していた「株主中心の企業統治」は、「優れた企業統治の手本」と広く見なされるようになりました。

過半数を超えた株主になってくると重要な会社の意思決定をする権利を所有することになりますし、金銭的なリスクを負うことにもなるので、エージェンシー理論が資本主義の中での合理性があることは理解できます。

しかし、現在では、ポスト資本主義とも言われる、20世紀とは異なる世界になってきています。ポスト資本主義では、工場ではなく、ヒトが資本になると言われています。違いを作りだすことができるヒトの重要性がますます高まると、優れた個人の力がものをいう時代であると同時に、優れた組織の力がものを言う時代になっていきます。

すでにお金の合理性だけを追求していけばよい時代ではなくなっているようにも感じます。本当に重要な資本はヒトになっているのか、あるいは、これからそうなるのか。この時代の変化の中で、会社はこれからどうなるのでしょうか。


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