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旅するコックピット⑤

今日のフライトは成田発シドニー着の便だ。

乗客は150人、H26の席には少年が座っていると告げられた。

例によってその少年のイメージを膨らませる。
少年は家族4人で旅行に来ており、少年の他にお父さんとお母さん、弟がいる。家族は周りからとても仲の良い家庭に見られており、少年も友だちが多い。

僕は今日この少年と旅をする。名前は、翔太だ。


シドニーに着いたとたん、弟がおなかがすいたと言い出した。長い移動でみな疲れていたし、おなかもすいたいたので少し早い夕食をとることにした。

いったんホテルにより、荷物を置いた私たちは繁華街のレストランに到着した。観光雑誌にも載っているような人気のあるレストランらしい。

私たち大人3人はOGビーフのステーキを注文し、少年はハンバーガー、弟はお子様プレートを注文した。海外にもお子様ランチのようなものがあるのだと感心したが、実際に出てきたのはお子様が食べられるような量ではない、オーストラリアンサイズのプレートだった。

出てきたお子様プレートをみて弟が

「旗がない!」と文句を言いだした。

「ここは日本じゃないんだから仕方ないでしょ」とお母さんが諭すが

「旗がないならいらないもん」と弟は拗ねてしまった。

私もお父さんも慰めようとするが、弟の機嫌はなおらない。

仕方ないので私たちは弟を放っていおいて、先にステーキを食べることにした。

すると、翔太が日の丸のあしらわれた国旗を弟のお子様プレートに刺した。紙ナプキンと爪楊枝を使ってお手製の国旗を作っていたのだ。

「これでお子様ランチの完成だよ」

「お兄ちゃんありがとう!」

飛び切りの笑顔をはじけさせ、弟はご飯を食べ始めた。

大人3人がかかっても弟の機嫌を取り戻せなかったのに、兄一人の力で解決するとはさすが兄弟だなと感心した。しかも国旗を作って見せるとは。大人は子どもが欲しいといったものを買い与えるか我慢させるかしかしないのに、翔太はそれを創り出した。

「翔太君は偉いね」

「そんなことないよ。ただ国旗を作っただけだもん。きれいじゃないしね。」

そう翔太は言ったが、僕が見てきた国旗の中で一番きれいだった。

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